■傷だらけの野獣 / Ted Nugent (Epic)
ヘビメタには拒絶反応を示すサイケおやじも、しかしハードロックは大好きです。
本日の主役、テッド・ニュージェントも、その分野の第一人者として1970年代後半には絶大な人気がありましたが、実はトンデモ系ギタリスト! その破天荒というか、プロの技術の物凄さには、聴くほどに驚嘆させられてしまいます。
私がテッド・ニュージェントを強く意識したのは、まず本日掲載の名曲で、それはヘヴィな8ビートにキメのリフが一発という、典型的なアメリカンハードロック♪♪~♪ 1978年春頃のラジオから流れまくっていた、そのキャッチーなノリの良さは、当然ながらサイケおやじ好みでしたから、とりあえずゲットしたのが、このシングル盤というわけです。
しかしテッド・ニュージェントという名前には、リアルタイムで微かな記憶がありました。
それは1960年代後半のハード&サイケロック、今日ではガレージなんて呼ばれている単発ヒット曲を集めた名編集盤「Nuggets (Elektra)」に取り上げられた The Amboy Dukes でした。
このアンボイ・デュークスはテッド・ニュージェントがブレイク前にデトロイトで率いていたバンドで、件のオムニバスにはブルースの古典「Baby Please Don't Go」をエレキで激烈に焼き直した1967年の名演が収められていたのですが、そこで聞かれるフィードバックを最高に上手く使ったギターは圧巻!
そのテッド・ニュージェントが紆余曲折の末、1975年にエピックとソロ契約してからが全盛期というわけですが、この「傷だらけの野獣 / Cat Scratch Fever」で記憶が蘇ったサイケおやじをさらに驚愕させたのが、テッド・ニュージェントが使っているギターでした。
それはギブソンのバードランドという、ホローボディのギターなんですが、これで大出力のハードロックを弾きまくり、さらに物凄いフィードバックを演じるなんて、エレキギターを多少なりとも弾かれる皆様には、百も承知の神業と痛感されるでしょう。
私がそれを知ったのは、このシングル盤のジャケット裏解説に「ギターは全てギブソンのパードランド」と書いてあったことに加え、それまでに発売されていた数枚のアルバムジャケット写真にも、これ見よがしにバードランドとのツーショット(?)が使われているんですねぇ~。
つまり、それがテッド・ニュージェントのウリになっていたのでしょう。
実際、フィードバックを自在に操るためには、ホローボディの基本的な難点というナチュラルなフィードバックをコントロールする技術が必要なわけで、それを逆手にとっての大出力ハードロックを演じるためには、ピックアップと弦の調整に拘るギターの改造、またアンプとギターを弾くステージ立ち位置の関係あたりまで、非常に気を使うことが推測されます。
しかもギターテクニックそのものでは、ピッキングハーモニクスとかブリッジ付近の弦を押して作り出すボリューム奏法、スピード感満点の早弾きや疑似スライド奏法等々、とにかく現場主義で鍛え上げられたプロの技術がテンコ盛り!
そして、これは私の勝手な推理なんですが、ここまで演じてフィードバックを自在に操るには、弾いていない弦を適宜、小まめに両手でミュートしているんじゃないでしょうか?
う~ん、テッド・ニュージェントの風貌は野獣ですが、やっているこは実に繊細だと思います。そして飛び出しくるのは、全てがクライマックスという痛快ハードロック♪♪~♪ これで人気が出なかったら、神も仏もない世界でしょう。
残念ながら私はライブには接することが出来ませんでしたが、もちろんライブ盤も出ていますし、全盛期の映像も残されてます。
ちなみにこのシングル盤はA面がスタジオバージョン、B面がライブバージョンという、損得勘定が微妙な仕様ですが、それだけ「キャット・スクラッチ・フィーバー」が人気曲だったという証でしょうねぇ。
そしてテッド・ニュージェントは、何時の間にかフェードアウトしてしまった感も強いのですが、狂乱のステージを演じているのとは裏腹に、現場での繊細な仕事は異常とも思えるトンデモなさだと思います。
また、この人はドラッグ等々は大嫌いだったそうで、前述したアンポイ・デュークス時代からバンドのメンバーがコロコロと変わっていたのは、その所為だと言われています。
さらに1980年代からは、トレードマークだった「野獣」を捨て去るかのようにワイルドな髭もさっぱりと剃り落とし、近年は保守的なハードロックに邁進しているとか!? 何時かは「生」で聴きたいギタリストです。
実にトンデモ系!