■Omega Alpha / Art Pepper (Omega / Blue Note)
今日は久々に朝から頭の中にジャズが鳴りだして、目が覚めました。
う~ん、このメロディは、なんだっけ……?
と思う間もなく体は自然にレコード棚の前に来ていて、そこで取り出したのが、このダサ~いジャケットのアート・ペッパーです。
内容は全盛期アート・ペッパーが残したワンホーン演奏の金字塔で、リアルタイムではオメガという録音機器の会社がオープンリールだけで発売したという、ある時期までは「幻」の名演集でしたが、確かレコード盤化されたのは1970年代に入ってからでしょうか? 我が国ではテイチクレコードから2枚のLPとしてベストセラーになりました。
もちろん私は、そのテイチク盤はしっかりとコレクトしていたのですが、1987年のある日、某中古屋のエサ箱漁りをやっていたサイケおやじの背後で流れていたのが、そのオメガセッションのアート・ペッパーでした。
ところがその最中、突如として流れてきたのが、今朝、私の頭の中で鳴っていた「Summertime」です。これには最初??? 次いで仰天! そして深~い感銘♪♪~♪
歓喜悶絶を必死で押さえ、店のカウンターで確かめてみると、確かにそれはアート・ペッパーの演奏で、しかも情けないジャケットという本日ご紹介のアルバムでした。
いゃ~、恥ずかしながら、オメガセッションにこんな未発表演奏があるなんて、この時まで知らなかったのがサイケおやじの、ジャケットに劣らない情けなさです……。
このアルバムはブルーノートが1970年代後半からスタートさせていた発掘企画のひとつとして、通称「LTシリーズ」の中の1枚ですが、ご覧のようにセンスを疑いたくなるようなジャケットデザインが徹底的にモダンジャズを否定しているようで、その評判は極めて良くありません。
しかし中身はトロトロに極上のレアテイクがテンコ盛りという意地悪なものですから、ここに私が知らなかった名演が隠されていたとしても、苦しい言い訳には決してならない……、と自分に言い聞かせてながら、その場でゲットして来た思い出があります。ちなみに値段は千円台でした。
録音は1957年4月1日、メンバーはアート・ペッパー(as)、カール・パーキンス(p)、ベン・タッカー(b)、チャック・フローレンス(ds) という今では夢のカルテット♪♪~♪
A-1 Sufe Ride
自作自演でアート・ペッパーが十八番にしている熱いブルースですから、ここでもアップテンポの快演が披露されます。その激情的な表現と並立する絶妙の憂いが、まさにペッパー流儀のぶる~す、なんでしょうねぇ~♪
もちろん浮遊感溢れる独特のタイム感覚も全盛期の証だと思います。
バンドが一丸となって突進する勢いも素晴らしく、ゴツゴツしたタッチでファンキーな匙加減も味わい深いカール・パーキンスのピアノも嬉しいところです。
A-2 Body And Soul
あまりにも有名なスタンダード曲のメロディがアート・ペッパーならではの叙情性でフェイクされていく、これぞジャズの楽しみの決定版がここにあります。そう断言して憚らないのがサイケおやじの決意表明!
実際、じっくり構えて力強いリズム隊を従えたアート・ペッパーの即興魔術が冴えわたり、思わずのけぞってしまう閃きフレーズ、秀麗なメロディの膨らませ方は天才的でしょう。
カール・パーキンスのピアノ、ベン・タッカーのペースのアドリブにも、ハッとするほどの意気込みが感じられますよ。
A-3 Too Close For Confort
これも和み優先のメロディが仄かにせつない名曲スタンダードですが、それをさらに魅力的なものにしていくのが、アート・ペッパーの素晴らしさ! その泣きのフレーズを多用したアドリブ展開は、ミディアムテンポのグルーヴとジャストミートの潔さで、ファンキーなカール・パーキンスのピアノとの相性もバッチリです。
しぶといベースとドラムスの見せ場も後半に用意され、モダンジャズの楽しさが徹底期に追求された名演だと思います。
A-4 Summertime
さて、これが私を驚愕させた問題の演奏です。
曲はジョージ・ガーシュインが書いたお馴染みのメロディですが、前述したテイチクから発売の2枚のLPには入っていなかった演奏ですし、実際に聴いてみれば、アート・ペッパーならではの憂いに満ちた表現が全篇で滲み出た仕上がりなんですから、ちょっと眩暈がするほどです。
スローで重心の低いテンポ設定と思わせぶりを多用しながら、実は相当に尖鋭的な表現も含んだアート・ペッパーのメロディフェイク♪♪~♪ さらに泣きながらの激情的なスパイラルフレーズによるキメ! そして何よりも真摯なジャズ魂がナチュラルに発散されているのを痛切に感じてしまいます。
それはカール・パーキンス以下のリズム隊にも同様にあって、まさに一期一会というか、こんなセッションが日常的に行われていたとしても、全く羨ましい奇蹟の時代だったと思います。
B-1 Fascinatin' Rhythm
これもガーシュンの曲ですが、その溌剌とした明るいメロディをアップテンポの中で独特の翳りを滲ませて表現するアート・ペッパーが十八番のスタイルは、実に素晴らしい限り♪♪~♪ やはりこれも天才の成せるワザだと思います。
正直、演奏そのものは、些か纏まりに欠けているような気も致しますが、バンドメンバー全員が閃き優先主義を貫いているのは流石じゃないでしょうか。
B-2 Begin The Beguine
さてさて、これまたアート・ペッパーが生涯の名演のひとつと、サイケおやじが断言して憚らないトラックです。
曲はお馴染みのラテン物ですから、アート・ペッパーにとっては薬籠中のものとはいえ、導入部のラテンビートグルーヴから一転しての4ビートスイングの心地良さ! その中を自在に浮遊しつつも、キメのメロディフェイクは決して外さないアドリブの妙技、翳りと愁いと官能美のコントラストも鮮やかに泣きじゃくるアート・ペッパーの魅力が、見事に凝縮されていると思います。
ハードエッジに迫ってくるリズム隊も強力で、グイノリファンキーの味わいを隠さないカール・パーキンス、強いアフタービートまで叩いてしまうチャック・フローレンス、そしてブンブンブンのベン・タッカー!
極めて自然体のジャズグルーヴとメロディの魔法が見事に融合した完成度は、些かラフな全体のムードに支えられているように感じますが、それがジャズなのかもしれません。
B-3 Webb City
オーラスはパド・パウエルが書いたビバップど真ん中の名曲名演なんですが、それにしても初っ端からの団子状の録音が大迫力!? このリズム隊の強靭さは、ちょっと同時代では珍しい雰囲気だと思います。
それゆえにアート・ペッパーも何時も以上に覇気のあるアドリブ意欲が空回り……。いやいや、そこから熱血の展開に持って行く唯我独尊が存分に楽しめます。
ということで、収録された演奏は何れもが素晴らしく、まさにアート・ペッパーの存在意義を強く感じるのですが、前述した日本盤LP2枚には計11曲が収められていたことを鑑みれば、物足りないのも事実です。
このあたりはアメリカ本国でのオメガセッションの復刻状況が、イマイチ明確に分かりませんので断言ば出来ませんが、それにしてもこんな素晴らしい演奏が、こんな中途半端な形でしか公表されないのは、現実の厳しさでしょうか。
オメガセッションの全貌については、今日でも完全に纏められてはいないようですが、時折小出しにされる未発表演奏や別テイクの存在からして、またまだ「お宝」が埋蔵されている可能性もあると信じています。
それはここに収められた演奏だけの判断でも、その録音の状態がバラバラで、モノラルミックスもあれば、微妙なステレオ感のあるテイク、あるいは不揃いな録音バランスの混在……、等々が謎を深めているわけですが!?
ただし、このアルバムに関しては、前述した「Summertime」の収録ゆえに高得点というか、少なくともサイケおやじを感動させたわけですから、それは決して無知の涙とばかりは言えません。
あぁ、もっとアート・ペッパーが聴きたくなってきました!
このセッションを纏めたCDも出ているようですから、買ってみようかなぁ~♪