■Buffalo Springfiled Again (Atco)
物欲に追いつかない経済力の惨めさには、何時の時代も苦しめられてきたサイケおやじですが、高校生の頃は本当に辛かったです……。
当時の私は自動二輪の免許を取得したこともあって、まずガソリン代! 読みたい本や観たい映画も沢山ありましたし、外タレのコンサートやジャズ喫茶へも行きたい……。さらに同好会のバンド活動や、それなりの人付き合い、そしてもちろん、聴きたいレコードが山の様にありました。
中でもCSN&Yのスティーヴン・スティルスとニール・ヤングが在籍していたというバッファロー・スプリングフィールドの諸作は、昭和46(1971)年になって、ようやく我国でオリジナルアルバムが3枚、それも纏めて出たという本来は嬉しい事件が、私にとってはお金が無いから結局は聴けないという、切実な苦しみに他なりませんでした……。
特に、本日ご紹介の2ndアルバム「アゲイン」は、当時のミュージックライフ誌のレコード評で、なんとビートルズの「サージェント・ペパーズ」に並び立つ名盤! と絶賛されたのですから、穏やかではありません。
本当にその頃の物欲煩悩、そして精神衛生の不安定さをご理解願えれば幸いですが、救いの神様は、やっぱりいるのです。
それは某デパートで毎月開催され始めた輸入盤セール♪♪~♪ 最上階の催事場で週末限りの販売だったんですが、日本盤が2千円前後のLPを1480~1880円ほどで売っていたんですねぇ~♪ もちろん解説書や帯、歌詞カードなんてものは付いていませんが、そんなのは純粋に聴くという行為を優先させれば、結果オーライ! 透明セロハンでシールドされた販売仕様にも、本場の魅力が封印されているように感じました。
そして手にした「アゲイン」は、やっぱり凄い内容だったのです。
A-1 Mr. Soul
A-2 A Child's Claim To Fame
A-3 Everydays
A-4 Expeting To Fly
A-5 Bluebird
B-1 Hung Upside Down
B-2 Sad Memory
B-3 Good Time Boy
B-4 Rock & Roll Woman
B-5 Broken Arrow
バッファロー・スプリングフィールドは1966年に結成され、年末にはレコードデビューを果たしたのですが、メンバーは当初から相当に流動的だったようです。まあ、それだけ個性の強い面々が集まっていたということなんでしょうが、このアルバム制作時の1967年にはスティーヴン・スティルス(vo,g,key)、リッチー・フューレイ(vo,g)、ニール・ヤング(vo,g,key)、ブルース・パーマー(b,vo)、デューイ・マーチン(ds,per,vo) をレギュラーとしながらも、様々なトラブルからレコーディング期間が長引き、それゆえに多くの助っ人が参加しています。また曲とセッション毎のプロデューサーやアレンジャーが、それぞれ違っているのも、裏ジャケットのクレジットで明らかになっています。
しかし、それゆえにバラエティ豊かな優れた楽曲が、びっしりと詰め込まれた豪華な幕の内弁当的な美味しさは満点♪♪~♪
まずA面ド頭の「Mr. Soul」からして、ストーンズの「Satisfaction」と「Jumping Jack Flash」の中間をやってしまったようなファズギターのリフが最高! 主役はニール・ヤングのアクの強いボーカルとはいえ、それに熱いコーラスで乱入するスティーヴン・スティルス、さらに突っかかるようなギターソロの応酬、おまけに南部系スタックスソウルみたいなペースとドラムスの重いビート! わずか3分に満たない演奏時間に、これだけ密度の高いロック天国を現出させたのは驚異という他はありません。
同系の曲としては、B面トップに置かれた「Hung Upside Down」が、力んだスティーヴン・スティルスの自作自演とあって、ハードロックとサイケデリックが卓越したハーモニーーワークで化学変化させられるという、完全に後のCSN&Yに繋がる仕上がりになっています。リッチー・フューレイのボーカルも存在感がありますし、間奏のギターソロは火傷しそうですよ。
そして、その極みつきが「Rock & Roll Woman」でしょう。
まずは何と言ってイントロからのキメのリフが、実にたまりませんねぇ~♪ 一説によると、これはデイヴィッド・クロスビーが作ったと言われているほど、これまたCSN&Yしています! 爽やかなコーラスと力んだリードボーカルの対比はスティーヴン・スティルスが十八番の展開ですし、生ギターとエレキのバランスの良さ、間奏でのギター対オルガンの熱血バトル、そして重いピートのイケイケロックな雰囲気の良さ! なんて凄い曲と演奏でしょう。これまた3分に満たない演奏だなんて、ちょっと信じがたい密度の濃さです。
しかし、このバンドとアルバムの素晴らしさは、決してニール&スティルスの魅力だけではありません。
もうひとりの重要人物であるリッチー・フューレイが、なんとも自然体の曲者というか、カントリーロックの風味満点の「A Child's Claim To Fame」やエリック・サティの影響も感じさせる名曲「Sad Memory」は、何度聴いても飽きません。特に「Sad Memory」は、せつないですねぇ~~♪ これを元ネタにした歌謡フォークが、幾つも出来あがっている事実も否定出来ないところでしょう。
そうした音楽性の幅広さは、洒落た4ビートでサイケデリックなホップスを演じてしまったスティーヴン・スティルス作の「Everydays」や、モロにスタックスR&Bなデューイ・マーチンが熱唱する「Good Time Boy」でも、それこそ痛快なほどに強烈な印象を残していますが、問題なのはニール・ヤングが以降の姿勢からは、ちょっとイメージ外の前衛をやっていることでしょうか。
その「Expeting To Fly」は、フィル・スペクターや1960年代中期のストーンズとも繋がりの深い名参謀というジャック・ニッチェと組んだ、それこそサイケデリックなポップスの集大成! もちろん演じているのはスタジオミュージシャン達ですが、大袈裟なストリングや分厚いサウンドプロダクトをバックに、これぞっ、ニール・ヤングという気分はロンリーなメロディが歌われては、本当にたまりません。幾分、穿った聴き方をすれば、後年のキング・クリムゾンが名演とした「Epitaph」にも通じる魅力があるんですねぇ~♪
そして、これを更に煮詰めたのが、オーラスの「Broken Arrow」です。
いやはや、これは何と申しましょうか、ビートルズの「Revolution 9」を彷彿とさせるようなサウンドコラージュを使いながら、ニール・ヤングならではの刹那のフォークロックが演じられるんですよ……。正直、ここまで凝らなくとも……、と思うほどですが、これも時代の要請なんでしょうねぇ……。確かに1967年に作られたということからすれば、「サージェント・ペパーズ」云々と言ってしまうのも、納得されるのですが、個人的には、なんだかなぁ……。
しかし、そんなモヤモヤがあったとしても、このアルバムでは決定的な人気名演となったスティーヴン・スティルス作の「Bluebird」を聴けば、スカッとするのは請け合いです。得意のメロディ展開と曲構成の中で繰り広げられるギターバトルは、変則チューニングに拘り抜いた生ギターがインド風味も滲ませながら、同時に南米の味わいも強いという不思議な印象を残しますし、おそらくはニール・ヤングであろうエグ味の強いエレキギター、そして後半部でのバンジョーを使ったカントリーロックの先駆けも鮮やかだと思います。
ちなみに、ここで聴かれるのは本来は10分以上あった演奏の編集バージョンで、そのオリジナルテイクは1973年に世に出た2枚組のベスト盤「Buffalo Springfiled / 栄光のバッファロー・スプリングフィールド」に収録されていますが、個人的には無用の長物というか、耳に馴染んだこちらが好きです。
ということで、このアルバムはアナログ盤片面での曲の流れも秀逸ですし、通して聴いた後の中毒性は要注意でしょう。実際、青春時代から今日まで、サイケおやじは、このアルバムを聴き続けて、全く飽きることを知りません。おそらく死ぬまで聴き続けるでしょう。
そしてニール・ヤングもスティーヴン・スティルスも、この作品を残さなかったら、後の活躍も曖昧模糊としていたに違いないのです。
やっぱりこれは、名盤!
本日も独善的な締め括りで、失礼致しました。