■ピンボールの魔術師 / Elton John (Polydor / 東芝)
シンガーソングライターの人気者だったエルトン・ジョンが、今に至るド派手なイメージを確立した頃の代表的な演技&歌と演奏が、本日ご紹介のシングル曲でしょう。
ここで「演技」と書いたのは、この楽曲がご存じ、ザ・フーのロックオペラとして永遠に語りつがれる「トミー」がケン・ラッセル監督により映画化され、1975年に公開された劇中にはエルトン・ジョンも出演し、この「ピンボールの魔術師 / Pinball Wizard」を享楽的に歌いまくった姿が強い印象を残したからに他なりません。
なにしろ件の映画にはザ・フーの面々以下、エリック・クラプトン、ティナ・ターナー、アン・マーグレットやジャック・ニコルソン等々、凄すぎる出演者が揃っていたのですから、その中でも突出していたエルトン・ジョンは、やはり全盛期の証明というものでしょう。
しかも当該サントラ音源のプロデュースは当然ながらザ・フーのピート・タウンゼントだったのですが、この「ピンボールの魔術師」に限ってはエルトン・ジョンが御用達のガス・ダッジョンが担当しているのですから、そのハマり方に半端はありません。
本来、この楽曲は「トミー」中でも、特にハイライトのひとつだったとはいえ、ザ・フーのオリジナルをある意味で凌駕するエンタメ系のアレンジと歌、さらに強められた高揚感は、もう最高♪♪~♪ 聴いていて、思わず拳を突き上げたくなるロック天国って、これでしょうねぇ~♪
ただし作品そのものの解釈としては、ピンボールの魔術師は主人公のトミーのことなので、この映画でのキャストは間違いなんですが、実際に映画の中に登場する人物としては、エルトン・ジョンの快演が決定的なイメージになっていましたから、ここでのアレンジも歌も、そして演奏も結果オーライ♪♪~♪
荘厳なコーラスパートから始まり、一転して華麗なピアノが鳴り響くイントロからそのパのムードが高揚し、はしゃぎ過ぎた中にもヘヴィな情感を込めたエルトン・ジョンの歌いっぷりが痛快です。アップテンポでドライヴしまった演奏も素晴らしいですねぇ~♪ 思わずキメを一緒に歌ってしまっても、文句は出ないでしょうね。
そしてサントラ音源アルバムはポリドールから発売され、当然ながらエルトン・ジョンのこのバージョンも当初はそこへ入っていたのですが、後に自身の「グレーテスト・ヒッツ第二集」にもレーベルを超えて収録され、我国では東芝レコードからシングル盤として発売されたというわけです。
そしてジャケットからも一目瞭然、激ヤバ寸前のトンボメガネにギラギラの衣装! 当時はグラムロックなんていう化粧バンド系の流行もあったんですが、やはり私の世代のイメージとしては、例えば「僕の歌は君の歌」に代表される、ネクラで優しいシンガーソングーライターというイメージがありましたからねぇ……。
まあ、こういう「転向」は1973年の「Crocodile Rock」の頃から表出していたとはいえ、まさかここまでやってしまうとは、呆気にとられるばかりでした。
しかし同時に、こうした姿も、また魅力的なのがエルトン・ジョンの本質でしょう。ご存じのように長い下積み時代には正統派R&Rやヒットポップスのカパーを演じていた時期もあり、またスタジオセッションや職業作家としての仕事で培われた実力があれば、何をやっても結果オーライ!
実際、1972年に発表した、これは私の愛聴盤でもある「ホンキー・シャトー」から、続く「ピアニストを撃つな!!」「黄昏のレンガ路」「カリブ」「キャプテン・ファンタステック」と連発された傑作アルバム群は高い評価と売れ行きを示し、シングルヒットも過剰な勢いで放たれていた時期の頂点が、この「ピンボールの魔術師」だったように思います。
人生は波乱万丈、山あり谷ありという常の中で、流石のエルトン・ジョンも1976年頃からは勢いを失ってしまったのは歴史上の事実として否定出来ないものがあります。折しも当時はパンクロックなんてものが鼻白んだブームになったことと重なるのも意味深……。また本来は自作自演の歌手だったエルトン・ジョンが、あえてカバーに挑んだ名演名唱というのも、同様です。
つまりロックが最初のピークに達した時の証かもしれませんね、この「ピンボールの魔術師」は!?
そう思えば、意想外の高揚感も納得して、尚更に堂々と拳を突き上げるサイケおやじであります。