■Unchained Melody / The Righteous Brothers (Philles / ポリドール)
ライチャス・ブラザースは1960年代中頃に一世を風靡した白人ボーカルデュオで、主に低音を歌うビル・メドレーとハイトーンボイスが魅力のボビー・ハットフィールドには、血縁関係がありません。
まあ、このあたりは芸能界の「しきたり」というわけですが、しかしそのボーカルコンビネーションは流石に素晴らしく、黒っぽいフィーリングとお互いのソロパートを尊重した歌いっぷりは、今日でも不滅の素晴らしさだと思います。
それは1965年に大ヒットした本日ご紹介のシングル曲が、1990年になって映画「ゴースト」のメイン挿入曲に使われ、またまたのメガヒット! と言うよりも、この歌があってこそ、映画本編が尚更に素晴らしい印象を残したのは、実際に作品を鑑賞された皆様ならば、納得されているはずと思います。
さて、肝心のライチャイス・ブラザースは1962年頃からデュオを組み、1963年にはマイナーレーベルからレコードデビューしていますが、やはりブレイクしたのはフィル・スペクターに見い出されてからでしょう。
ちなみにフィル・スペクターは所謂「音の壁」と呼ばれる壮大なサウンドプロデュースで、キャッチーなメロディと強いビートを伴ったシングルヒットを作り出していた、その当時の大衆音楽業界では屈指のブロデューサーです。そして今日ではビートルズの解散騒動や例の事件も含めて、神格化された存在ですが、その全盛期だった1964年に契約したライチャイス・ブラザースは、自らが運営していたフィレスというレーベルでは初めての白人グループ!?!
ですから、黒人歌手にはスマートで甘口の手法を使っていたフィル・スペクターが、白人のライチャイス・ブラザースには辛口とも思える壮大な仕掛けを施したのは大正解! 今もってフィル・スペクターの最高傑作プロデュースと言われる「ふられた気持 / You've Lost That Lovin' Feelin'」が1965年に世界的な大ヒットとなったのもムペなるかなです。
そして次なる不滅のヒットが、この「Unchained Melody」なんですが、実は頑なに信じられている伝説とは異なり、ライチャイス・ブラザースは決してフィル・スペクターの操り人形ではなく、この曲に関してはビル・メドレーがプロデュースを担当しています。
それはフィレスに残された3枚のオリジナルアルバムを聴けば尚更に顕著で、むしろフィル・スペクターがプロデュースした楽曲の方が少ないほどなんですが、しかし流石は芸能界の厳しさを知っているのがライチャイス・ブラザース! ちゃ~んとフィル・スペクターの手法を踏襲したサウンド作りは素晴らしく、それが「Unchained Melody」に結実していると思います。
高音で気持良く歌っているのは、もちろんボビー・ハットフィールドですが、これがウケまくった所為でフィル・スペクターも意地になったと言われているとおり、このシングル盤B面に収録の「ひき潮 / Edd Tide」では、なんと再びボビー・ハットフィールドのソロを前面に出し、サウンドのキモはビル・メドレー風というか、幾分大人びた感じのスペクターサウンドが聞かれます。
ちなみに「Unchained Melody」は本来、フィル・スペクターが自作&プロデュースしたシングル「Hung On You」のB面でしたから、それがあまりヒットせず、逆にビル・メドレーのプロデュース曲「Unchained Melody」がライチャイス・ブラザースを代表するヒットになったのは屈辱、という想像は易いと思います。
当然ながら、この時期を境にしてフィル・スペクターとライチャイス・ブラザースの関係は上手くいかなくなり、またビル・メドレーとボビー・ハットフィールドの2人にも確執が生まれたと言われています。
ところで私がフィル・スペクターを強く意識するようになったのは、やはりビートルズの「レット・イッド・ビー」に纏わるゴタゴタがあってのことですから、つまりは昭和45(1970)年前後なんですが、実は当時の我国ではフィル・スペクター関連のレコードを聴くのが容易ではありませんでした。
ちょっと前はキングレコードから、ロネッツやライチャイス・ブラザース等々のシングル盤が出ていたのですが、契約の関係でしょうか、その頃には権利がポリドールに移ったらしく、本日掲載したシングル盤も前述のヒット曲をカップリングした再発盤です。
ライチャイス・ブラザース自身も、実は1966年にフィル・スペクターと決別してヴァーヴに移籍していたことから、関連音源がポリドールで発売されるのも理解されるところではありますが、このあたりの権利関係の分かりにくさは、後々まで問題として残るのです。
また、ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドの間にも確執が強まり、1968年にはライチャイス・ブラザースが解散……。しかも同じ頃、フィル・スペクターも本国アメリカでは完全に落ち目の三度笠ということで、なかなか音楽史的に微妙な立場なのが、「Unchained Melody」かもしれません。
しかし、そんなあれこれは、この素晴らしい楽曲の前には問題になりません。何時聴いても感動を呼ぶ歌とは、こういうものを指すんじゃないでしょうか。
本当に、そう思います。