■Win, Lose Or Draw / The Allman Brothers Band (Capricorn)
何事も過大な期待は禁物!
というはサイケおやじの座右の銘なんですが、どうにかそういう心境になれたのも、数え切れない失望や思い込みの激しさが裏目に出た、これまでの悲惨な日常の連続によるものです。
それは例えば、成人作品の予告篇で浮かれた気分を打ちのめされた映画本篇、表紙に魅了されて買ったビニール本の中身の欺瞞性、海外オークションでやっと競り落としたレコードの???な気分、各種ガイドブックの適当な解説、さらに女心や猫のきまぐれ等々、思い出すだけで一生を費やするのは必定なんですが、本日ご紹介のアルバムも、そのひとつでした。
主役のオールマン・ブラザーズ・バンドはご存じ、夭折の天才ギタリストとして今もロック史に残るデュアン・オールマンを擁したサザンロック勃興の立役者だったわけですが、そのデュアン・オールマン亡き後にも、残されたメンバーの踏ん張りによって「ブラザーズ&シスターズ」という大ベストセラー盤を出してしまったのが、今となっては苦難の道の第一歩だったのかもしれません。
当然、ライプ巡業ではトップバンドとして君臨し、金回りも良くなったグループは当然の帰結として酒や女、そして悪いクスリにどっぷり……。
さらに音楽的主導権争いもあって、まずはグレッグ・オールマンとディッキー・ベッツが1974年頃からソロ活動をスタートさせ、共に同時期に発売したリーダー盤が大ヒットしてしまったことが、さらにオールマンズを迷い道に踏み込ませたようです。
そして解散の噂が強くなっていた1975年、なんとかバンドを存続させようとするレコード会社の主導によって新作レコーディングが企画され、同年初秋に出たのが本日の1枚でしたから、待ちくたびれた世界中のファンによって、予約段階からゴールドディスクになっていたという伝説も!?!
もちろん洋楽マスコミは挙って強烈なバックアップ体制で持ち上げていましたから、若き日のサイケおやじは何の疑念も感じることなく、入荷したばかりの輸入盤を手にしたのですが……。
A-1 Can't Lose What You Never
A-2 Just Another Song
A-3 Nevertheless
A-4 Win, Lose Or Draw
A-5 Louisiana Lou And Three Card Monty John
B-1 High Falls
B-2 Sweet Mama
結論から言うと、なんとも淀んだような、纏まりの無い仕上がりだと思います。
当時のオールマンズはグレッグ・オールマン(vo,key)、ディッキー・ベッツ(vo,g)、チャック・リーヴェル(key)、ラマ・ウィリアムス(b)、ブッチ・トラックス(ds,per)、ジェイモー(ds,per) というメンバーでしたが、まずジャケットに全員集合の写真が無いのも、なかなか意味深でした。
実は後に知ったことですが、1975年初頭から始まった録音セッションにはレギュラーの面々が一堂に会することがほとんど無かったそうで、そんなこんなから、特にドラムスはプロデューサーのジョニー・ザドリンが叩いているパートが多いと言われています。
またサウンド作りの面でも、ディッキー・ベッツとチャック・リーヴェルの対立、そしてグレッグ・オールマンのジコチュウが三竦みだったそうですから、他のメンバーがヤル気を失うのも当然だったのかもしれません。
おまけにグレッグ・オールマンのボーカルパートは、仕上げ段階でのオーバーダビングという孤独な作業だったか!?
ですから期待して針を落とした「Can't Lose What You Never」の倦怠して精気の無い仕上がりには、如何にも「やっつけ仕事」という感じが強く、ちなみにこの曲は偉大な黒人ブルースマンだったマディ・ウォーターズのカパーですから、おそらくはグレッグ・オールマンの主導だったと思われるのですが、率直に言って、とても期待の新作アルバムのド頭を飾れるものではないでしょう。
一方、ディッキー・ベッツは持ち前のブルーグラス&カントリーロックの趣味性を丸出しにしたというよりも、明らかに前作「ブラザーズ&シスターズ」で大成功したヒット曲「Ramblin' Man」路線の焼き直しという「Just Another Song」や「Louisiana Lou And Three Card Monty John」でお茶を濁したというか……。
そんな状況ですから、サイケおやじがA面でどうにか満足して楽しめたのはグレッグ・オールマンが自作した「Nevertheless」と「Win, Lose Or Draw」の2曲だけでした。しかし「Nevertheless」は熱気が不足していますし、アルバムタイトルともなった「Win, Lose Or Draw」にしても、シミジミとした哀愁を表現するにはグレッグ・オールマンの歌いっぷりがイマイチで、実に勿体無い限り……。
それでもB面のほとんどを使ったインストジャム風の「High Falls」は、チャック・リーヴェルが本領発揮のジャズっぽいエレピが最高にクールで熱い♪♪~♪ バンドのウリだったツインドラムスとラマ・ウィリアムスのペースも、きっちりと役割を果たしている感じですから、後にオールマンズが分裂休止状態になった時、チャック・リーヴェルとラマ・ウィリアムスがシー・レベルを結成して似たようなフュージョン演奏を展開してくれたルーツが、ここに記録されていたというわけです。
個人的にも、このアルバムの中では一番に聴いていたトラックでした。
しかしこんな演奏がオールマンズの全盛期に残されたというのは、やっぱり違和感があります。何故ならば、あの吹きつける熱風のような勢いが全く感じられませんし、洗練やお洒落なんていうキーワードはスワンプ&サザンロックを期待していたイノセントなファンには、ほとんど受け入れられないものでした。
だからこそ、オールマンズ的なマンネリに満ちたオーラスの「Sweet Mama」が非常に心地良く、この気抜けのビールのような歌と演奏が締め括りに相応しいのは、なんともやりきれません。
ただ……、それでも救いだったのは、このアルバム発表後のライプ巡業では、それなりに威厳と体面を保てていたことでしょう。公式盤とブートで今も楽しむことが出来るその頃の音源は、もちろんデュアン・オールマンが在籍していた時期とは比較にならずとも、このアルバムを幾分とも弁護する手段になったと思います。
現在のオールマンズはメンバーを入れ替えながら、元気にライプ巡業の日々を送っているのですが、はっきり言えば、それは個人的にも否定することの出来ない、素晴らしい伝統芸能でしょう。
そこに至るには、様々な苦渋の選択があったことは言わずもがな、きっかけとなったのは、このアルバムでした。
そう結論づけて後悔しないものを、サイケおやじは初めて聴いた時のがっくりした気分と共に、何時も思い続けているのでした。