■Get The Picture? / The Pretty Things (Fontana)
サイケおやじがストーンズを聴いていく過程で、非常に気になったバンドがプリティ・シングスでした。
それはプリティ・シングスが公式デビュー前のストーンズに関係していたギター&ベース奏者のディック・テイラーよって結成されたという、当時は本当に少なかった我国の洋楽ニュースの中でも特に印象的な情報を知ってからのことです。
しかもプリティ・シングスはリアルタイムでストーンズ以上のワルだったとか!?
ザ・フー以前にロックオペラのアルバムを作っていたとか!?
とにかく知るほどに驚愕の新事実が浮かび上がってきたのですから、これはど~しても聴く他は無い!
と心に決めたものの、肝心のレコードが我国では入手困難……。
それは本国イギリスでも同様だったのが1970年代の事情でした。
しかし救世主はどこにでも確かに現れるもので、そんなある日、偶然にも再会した小学校時代の同級生のお姉様が交際していたイギリス人の彼氏が、若い頃にプリティ・シングスのファンだったことから、このレコードを譲り受け、また様々なエピソードを聞かせてもらうことが出来たのです。
それによるとプリティ・シングスは、やっぱりストーンズと比較されることが多く、まあ、そういう売り方だったんでしょうが結局は勝てず、また本当にメンバーの素行が悪くて、放送局や興行主から嫌われていたのが致命的……!?
ただし後年になるとメンバーチェンジを重ね、少しずつ音楽的にも認められていったそうですが、時に既に遅くというのが、その時までの真相らしく思われました。
それでも1965年末に発売された、このプリティ・シングスにとっては2枚目のアルバムは、ブリティッシュビートがストレートに表現された素晴らしい内容で、実質的には売れなかった現実が、本当に不思議に思えるほどです。
A-1 You Don't Believe Me
A-2 Buzz The Jerk
A-3 Get The Picture?
A-4 Can't Stand The Pain
A-5 Rainin' In My Heart
A-6 We'll Play House
B-1 You'll Never Do It Baby
B-2 I Had A Dream
B-3 I Want Your Love
B-4 London Town
B-5 Cry To Me
B-6 Gonna Find Me A Substitute
当時のメンバーはフィル・メイ(vo)、ディック・テイラー(g)、ブライアン・ペンドルトン(g)、ジョン・スタックス(b,hmc)、ヴィヴ・ブリンス(ds) という5人組で、もちろんディック・テイラーの目指すところは自分が主導するストーンズタイプのバンドという目論見だったのでしょう。
ちなみにディックテイラーはミック・ジャガーやキース・リチャーズと常に行動を共にしていたらしいんですが、そんな日々の中でブライアン・ジョーンズに出会ったのが運命の分かれ道!? 本格的に自分達のバンド、つまりストーンズをやっていく中で、本来はギタリストだったディック・テイラーはベースをやらされたりしたことから、去っていったと言われていますが、一説にはブライアン・ジョーンズやミック・ジャガーの後ろ盾だったアレクシス・コーナーとソリが合わなかったという……。
まあ、それはそれとして、とにかくメンバーを集めてプリティ・シングスと名乗ったバンドは1963年秋頃からロンドンでライプ活動をスタートさせ、そのストーンズ以上と評判になった過激なステージアクト、また当時としては長すぎたヘアスタイル等々で忽ち注目を集め、1964年6月に正式にレコードデビューするのですが、ジワジワと売れていった以降のシングルやEP、そしてアルバムの成果とは反比例する良識派マスコミからのバッシングが、日増しに増大していったそうです。
こうした事情は今になっての推察として、完全にストーンズ以上のワルを演じざるをえなかったバンドとマネージメントの思惑が行き過ぎた結果かもしれませんが、現実的には悪いクスリと酒に溺れていたドラマーのヴィヴ・ブリンスが、ある時はステージに放火したり、巡業の移動中には警察沙汰の問題を起こしたりという、本当のハチャメチャをやっていたのですから、せっかく完成した待望のセカンドアルバムが業界からも疎まれて当然の結果になったようです。
しかし、そんな話を聞かされながら聴いたこのアルバムは、なかなか素敵な魅力に溢れていました。
まずド頭に収録の「You Don't Believe Me」は当時のアメリカ西海岸でブームになっていたザ・バーズ風のフォークロックを、さらにブリティッシュビートで煮詰めたような素晴らしい歌と演奏が最高の極み! ちなみに曲を書いたのはフィル・メイと録音セッションにも参加したと言われるジミー・ペイジ!?
そして続く「Buzz The Jerk」や「Get The Picture?」という、実に荒っぽいムードが充満したオリジナル曲も、所謂ガレージと呼ばれるガサツな熱気が横溢した名演ロックで、イケイケのギターとブリブリのリズム隊が流石の存在感ですよ。
また「Can't Stand The Pain」のプレ・サイケデリックな試み、あるいはストーンズへの対抗意識を剥き出しにしたかのような有名ブルース曲のカパー「Rainin' In My Heart」での直向きな情熱は、好感が持てると思います。
ですからA面のラストを飾るに相応しい狂熱の「We'll Play House」が、尚更に素晴らしい前半のクライマックス! プチキレたギターアンサンブルと破綻寸前のロックビート、さらにエグ味の強いボーカルは、まさにロックの本質じゃないでしょうか。
その素敵な勢いはB面にも見事に継承され、「Terry-sh」なギターが炸裂する「You'll Never Do It Baby」、レイ・チャールズでお馴染みの「I Had A Dream」を捨て鉢な感性でカパーした狙いの的確さは流石!
さらに一応はバンドオリジナルという「I Want Your Love」のストレートな感性、そしてフォークロックのしぷとい変奏ともいうべき「London Town」の独自の個性が、これぞっ、プティ・シングスなのかもしれません。
しかし残念ながら同時期のストーンズと競合してしまったR&Bのカパー「Cry To Me」は、意図的にアレンジや歌い回しを変えてしまったのでしょうか、ストーンズのバージョンを既に体験していれば、いかにも「らしく」ありません。ただし、これはこれで、プリティ・シングスのガサツな熱気がたっぷりと感じられる、なかなか味のある仕上がりでしょう。
その意味でオーラスの「Gonna Find Me A Substitute」は、本当に粘っこくて剛直なR&Bロックの決定的名演で、ヘヴィなビートでブリブリにドライヴするリズム隊、ハナからケツまで弾きまくられるギターの狂騒、そしてロックボーカリストは、こう、あるべしっ! という完璧なお手本が楽しめると思います。
ということで、本当にロックがど真ん中の、素敵なアルバム♪♪~♪
もう、これがリアルタイムで売れなかったのが、信じられないほどですよっ!
ちなみに前述でちょいと触れましたが、レコーディングセッションにはジミー・ペイジ(g) の他に数名のドラマーが参加しているようですし、発売直後にはバンドレギュラーだったヴィヴ・ブリンスが馘首されたと言われています。
しかし、それでもプリティ・シングスの悪い評判は終息せず、いよいよ苦難の道を歩むことになるのですが、そうした実情とは裏腹に制作され続けたアルバムは、今日的な観点も含めて、ロック史では隠れ名盤化しています。
最後になりましたが、ストーンズとの比較云々では、やはり奥行とか粘っこさで、些か劣る部分は否めません。しかし独得の狂騒的な雰囲気はストーンズとは似て非なるもので、それはこのセカンドアルバムを楽しむことで、ますます夢中になれると思います。