■Donny Hathaway Live (Atco)
ジャズでもソウルでもブルースでも、とにかくサイケおやじはシカゴ派が好きですから、ダニー・ハサウェイに到達するのも当然か?
なんて自問自答するまでもなく、1970年代前半に盛り上がった所謂ニューソウルの中でも特に才能豊かだったのが、ダニー・ハサウェイでした。
と、ここで過去形で書かなければならないのは、残念ながらダニー・ハサウェイが既に故人であり、しかも短い全盛期を過ぎての逼塞からカムバック直後に謎の死を遂げたという、本当に非業の人生と残された仕事の素晴らしさが、強烈なコントラストで印象づけられているからです。
で、サイケおやじがダニー・ハサウェイを知ったのは、やはりニューソウルの才女としてメキメキと売り出していたロバータ・フラック経由であり、その彼女とダニー・ハサウェイが魂のデュエットを繰り広げた名盤アルバム「ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ (Atlantic)」を聴いてからのことでした。
それは昭和48(1973)年、もちろんロバータ・フラックが「やさしく歌って / Killing Me Softly with His Song」のウルトラメガヒットを放った後でしたから、目的は完全にロバータ・フラックだったんですが、R&Bの世界では至極当たり前のこうしたデュエット企画でありながら、そこには何かしら新しいものが感じられ、そのポイントがダニー・ハサウェイという、当時の私は全く知らなかった天才の存在に出会えたのは幸運でした。
もちろんロバータ・フラックは、クラシックや現代音楽の素養があってのソウルやジャズのフィーリングを巧みに表現するミュージシャンでしょうし、ダニー・ハサウェイにしても似たような資質とキャリアがあるのは言わずもがなです。
ただし所謂知性派というには、もっとジャズっぽいというか、内側からこみあげてくるようなソウル! そうしたクールで熱いものがダニー・ハサウェイには感じられるのです。
そこで意を決してゲットしたのが、本日ご紹介のライプ盤なんですが、その思惑は自然体のダニー・ハサウェイを聴きたかったことに尽きます。
そしてこれが、気絶するほどの大当たり!
A-1 What's Goin' On
A-2 The Getto
A-3 Hey Girl
A-4 You've Got A Friend
B-1 Little Getto Boy
B-2 We're Still Friends
B-3 Jeaious Guy
B-4 Voices Inside
録音は1971年後半とされるのが定説で、しかもA面はロス、そしてB面がニューヨークという、それぞれがそれほど大きくないクラブで行われたと思しきレコーディングが、最高の雰囲気を醸し出したのは結果オーライ♪♪~♪
というよりも、狙いがスバリ直球のストライクだったんでしょうねぇ~♪
主役のダニー・ハサウェイ(vo,key) 支えるのはマイク・ハワード(g)、ウィリー・ウィークス(b)、フレッド・ホワイト(ds)、Earl DeRouen(per) に加えてA面にはフィル・アップチャーチ(g)、そしてB面にはコーネル・デュプリー(g) が特に助っ人として抜群のサポートを演じています。
それは極みつきのソウルグルーヴが渦巻いた「What's Goin' On」からして強烈! ご存じ、マーヴィン・ゲイの代表曲を素材に、ダニー・ハサウェイはクールで熱いエレピのアドリブを主軸に据えた長尺演奏を披露していますが、バックの的確な助演も素晴らしく、全くダレていません。
もちろん独得のメロディフェイクが全開した歌いっぷりは新しい黒っぽさを表現していますし、そのR&Bでもロックでもないフィーリングは、後のフュージョンやファンクをも包括した大名演だと思います。
そしてライプに参集した観客とひとつになって盛り上がって行く以降3曲のノリも最高で、もうこのA面は何度聴いても熱くさせられてしまいます。
対してB面は、些か冷静沈着というか、ジワジワとした熱気が次第にその場を満たしていく過程が好ましく、特に「Little Getto Boy」は、ある種の艶やかな表現が秀逸♪♪~♪ またジョン・レノンが畢生のオリジナル「Jeaious Guy」にしても、ダニー・ハサウェイならではの節回しがイヤミになっていません。
ちなみにロッド・スチュアートが歌う同曲は、明らかにダニー・ハサウェイのこのバージョンを下敷きにしていると思うのは私だけでしょうか? 例えば1974年に出た「ロッド・スチュアート・ウイズ・フェイセズ=ライプ(Mercury)」に収録のバージョンと聴き比べるのも興味深々ですよ。
というように同業者にもファンが多いダニー・ハサウェイが、一番尊敬していたのはクインシー・ジョーンズだったそうですから、その意図的に垣根を作らない姿勢は1970年代にはジャストミートだったはずです。
ところが同じような路線を歩んでいたビリー・プレストンやスティーヴィー・ワンダーにセールスの面で勝てなかったことが原因だったのでしょうか、1974年頃からは逼塞期……。
まあ、個人的にはその頃からダニー・ハサウェイの過去の業績を後追いしつつ、リーダー作品やスタッフとして関わった諸々の音源を聴いて行ったんですが、やっぱり黒人一般大衆よりは白人好みという感覚が強く出ていると思います。
後に知ったところでは、ダニー・ハサウェイの祖母はそれなりに有名なゴスペル歌手だったそうですし、本人も幼少時から既にその世界で歌っていたキャリアがありながら、実はクラシックを専攻する音楽教育も受けていたという、なかなか凄い経歴が!?!
そしてカーティス・メイフィールドに才能を認められて以降は、シカゴ周辺のR&Bやジャズのフィールドで頭角を現し、ついにニューソウルの旗頭になったのですが……。
もう後は語ることがせつなくなるほど、残していったリーダー作は濃密で味わい深いものばかり! 中でも、このライプ盤は誰が何と言っても外せない名盤だと思います。
ちなみに同時期のアウトテイク的な音源が後に発売されていますが、やっぱりこのアナログ盤1枚の凝縮された世界が眩しいばかりなのでした。