■Introducing... The Beatles (Vee Jay)
アナログレコードのモノラル盤は音が良い!
今や常識となったその事実を最初に体感させてくれたのが、本日掲載したビートルズのアメリカ盤LPです。
A-1 I Saw Her Standing There
A-2 Misery
A-3 Anna
A-4 Chains
A-5 Boys
A-6 Ask Me Why
B-1 Please, Please Me
B-2 Baby It's You
B-3 Do You Want To Know A Secret?
B-4 A Taste Of Honey
B-5 There's A Place
B-6 Twist And Shout
しかしサイケおやじは、その「モノラル盤の音の良さ」を目当てに、このLPを買ったわけでは決してありません。
皆様も既にご推察のとおり、目的は「I Saw Her Standing There」のスタート前のカウントがオリジナルバージョンよりもカットされ、「four」から入っているという珍しさゆえに、これは、ど~してもっ!
そういう覚悟だったのですから、これがモノラル盤という意識も殊更無く、昭和51(1976)年のある日、そこに中古盤があったからゲットしたにすぎないのです。
ところが自宅で針を落して聴けば仰天!
とにかく重低音とメリハリが効きまくった音像の鮮やかな印象は、これがとても1963年の音とは思えない強烈なR&Rの塊だったんですねぇ~~♪
ちなみに不肖サイケおやじにしても、「モノラル盤の音の良さ」については機会がある度に先輩諸氏から教えられており、特にモダンジャズのアルバムに関しては日本盤よりもアメリカ盤オリジナルの価値が、その音の良さゆえの事は強調されていました。
ところが、サイケおやじがその対象を聴けたのは当時のジャズ喫茶であり、もちろん音が良いのは特有のオーディオ装置の優秀さにあるものと達観していたのです。つまり自宅にある貧弱なステレオでは、例えオリジナル盤を聴いたところで、それほどの感慨は……。
なぁ~んていう愚かな先入観念があったのですから、お笑い下さい。
ですから、このLPが鳴り出した瞬間の驚愕は筆舌に尽くし難いものがあって、野太い音のド迫力には畏敬の念さえ覚えましたですよ♪♪~♪
あらためて説明するまでも無いとは思いますが、レコードが出来上がるまでの過程においては、まずレコーディングマスターという音源があり、これは実際にミュージシャンが吹き込んだ歌や演奏を完成させたソースなんですが、これをアナログ盤レコードにするには、カッティングマスターという、もうひとつのソースが作られるのです。
それは一般的に当時、アナログのテープレコーダーで記録されていたレコーディングマスターが再生されるのは、あくまでもスタジオにある機器であって、家庭用のプレイヤーで聴かれる媒体はレコード盤という違いがあるのですから、そのレコード盤をプレスするためのカッティングマスターを制作するには、それに適合する音の調整が必要となるのです。
つまり平たく言えば、レコード会社で完成されたマスターテープと一般社会で再生されて聞かれるレコードの音は、違っているのが現実だという事です。
そして、その過程でカッティングマスターのレベルの高低は自然の成り行きで、例えばアメリカと日本を比較すれば、アメリカプレスの方がレベルが高いという、レコードに刻まれた音の大きさの違いが顕著な現実は否定出来ません。
このあたりの状況は推察の域を出るものではありませんが、おそらくは再生装置の普及に関係しているんじゃないでしょうか?
それは欧米では1960年代末に至っても、ステレオオーディオを持っている家庭は日本ほどに多いとは言えず、特に若者や白人以外の人種層では、その多くが所謂電蓄のレコードプレイヤー、あるいはモジュラーステレオといった簡易オーディオを用いるのが普通だったと言われています。
そこで流行の大衆音楽を売るレコード会社では、そうした出力の小さな機器でも迫力のある音が再生されるように様々な工夫を凝らしていたのですから、モノラル盤が必然的に良い音になるのは不思議でもなんでもないと思います。
で、このビートルズのアルバムはアメリカでのデビューLPで、お馴染みのキャピトル発売盤よりも先に世に出たものですが、その経緯については諸説あるものの、結局アメリカではイギリスの歌手やバンドは売れないという判断が優先されての事でしょう。
もちろん英国EMIもアメリカのキャピトルに対して懸命の売り込みはしていたのでしょうが、最終的な販路はシカゴにあった黒人経営のマイナー・レーベル=ヴィー・ジェイ・レコードです。この会社は1953年に正式創業され、主にR&Bやジャズ等で優れた作品を発売していましたが、少ないながらイギリス産ポップスもアメリカで発売しており、担当者がイギリスや欧州でのビートルズ人気を知っていた事が契約成立の要因でした。
こうして、まず1963年2月25日からビートルズのレコードはアメリカで発売されたのですが、もちろん歴史にあるとおり、最初は鳴かず飛ばず……。
このアルバムにしても同年7月に初回プレスが発売されたものの、諸事情から忽ち廃盤となっています。
ところが翌年になって、ついにキャピトルとの契約に成功したビートルズが「抱きしめたい」のメガヒットで大ブレイクしたことにより、便乗再発されのが掲載のLPで、実は前述した初回プレス盤とは収録曲が異なっているのですが、ここまでの経緯についてはサイケおやじ館内の拙稿「ザ・ビートルズ / アメリカ盤の謎」をご一読下さいませ。
ちなみに、この「VeeJay盤」の魅力のひとつとして、流石は黒人音楽の名門会社で作られた証というか、実に黒っぽい音がするんですよねぇ~♪ それは後に「米国capitol」から出し直された同一音源と比べても歴然!
個人的な感想ではありますが、モノラルミックスを標榜していても、「英国Parlophone盤」が纏まりの良いシャープな音像だとすれば、「米国Capitol盤」は分離の良いクッキリハッキリ系、そしてこの「VeeJay盤」は力強くて野太い感じだと思っています。
ということで、あまりにも強烈なモノラルミックスのアナログ盤体験は、今でも聴く度に鮮烈です。
もちろん言うまでもありませんが、最初は通常のステレオ針で聴いていたものが、当然の流れからモノラルカートリッジを使った再生への道に踏み込んだ中で、個人的には太いMMが好みです。
またリアルタイムでの楽しみに近づくためには、前述した電蓄を使っての鑑賞もよろしいのではないでしょうか?
そんなこんなから、サイケおやじは骨董市あたりで状態の良いものを掘り出し、整備して鳴らすという、温故知新に浸ることもある次第です。
う~ん、それにしても音を楽しむ道は広くて、果てしないですねぇ~~♪