■McLemore Avenue / Booker T. & The MG's (Stax)
世界中で一番有名なLPレコードは、そのジャケット&内容の全てにおいて、ビートルズが1969年9月に出した「アビイ・ロード」というのは衆目の一致するところでしょう。
ですから、そのカパー&パロディ盤が数多存在するのも道理であり、本日ご紹介の1枚は、中でもニンマリさせられるほどの秀逸アルバム♪♪~♪
なにしろジャケットからして完全パロディですからねぇ~♪
ご存じのとおり、ビートルズのカパーフォトが撮影された横断歩道のロケ地はEMIスタジオ前のアビイ・ロードですから、ブッカーTとMGs の面々も所属レコード会社のスタジオ前にあるメンフィスはマクレモア・アベニューを横断するという、実に気合いの入った企画の本気度も高いと思います。
そして当然ながら、演目も「アビイ・ロード」収録の名曲群なんですから、たまりません♪♪~♪
A-1 Medley
Golden Slumbers ~ Carry That Weight ~ The End ~
Here Come The Sun ~ Come Together
A-2 Something
B-1 Medley:
Because ~ You Never Give Me Your Money
B-2 Medley:
Sun King ~ Mean Mr. Mustard ~ Polythene Pam ~
She Came In Through The Bathroom Window ~
I Want To You (She's So Heavy)
さて、収録演目は上記のとおりですが、本家ビートルズの「アビイ・ロード」が特にLPのB面で披露した鮮やかで華麗なメドレーの様式美が、ここでも大切にされているは流石です。
と言っても、それは丸コピーでは決してなく、オリジナルの味わいを活かしつつも、きっちりと独自のアレンジを用い、さらに絶妙な流れが構築されているのです。
それは説明不要とは思いますが、ブッカーTとMGs は本来が歌手の伴奏を担当するグループであり、それゆえに自分達が主役となるインストの演奏は上手くて当然! そういう下地があってこそのアレンジの妙や演奏の職人技が楽しめるんじゃないでしょうか。
このアルバム制作時のメンバーはブッカーT(org,p)、スティーヴ・クロッパー(g)、ドナルド・ダック・ダン(b)、アル・ジャクソン(ds) の4人組で、ジャケ写から一目瞭然の白人2人に黒人2人という人種混成が、いろんな意味でメンフィス産のR&Bを成功に導いたという説には納得出来るものがあります。
なにしろメンフィスはアメリカの中でも殊更に人種差別が厳しく、白人と黒人が一緒に行動したり、同じ場所に居ることさえもタブーとされる土地柄だったのが、1960年代までの常識だったと言われています。
しかし、そんな環境の中で行われていた芸能活動、つまり主に黒人R&Bを演じる現場では白人がリーダーシップを執ることが珍しくなかったようで、それはレコーディングセッションにおいても、レコード会社のオーナーはもちろん、プロデューサーやバックバンドにも白人が多かった事は今や歴史として認知されています。
例えばブッカーTとMGs が所属していたスタックスは、オーティス・レディングやルーファス&カーラ・トーマス等々の偉大な黒人シンガーのレコードを世に出した忘れられないレベールですが、当時の経営者は白人でしたし、初期にはセッションの伴奏を務めていたマーキーズという演奏グループも全員が白人だったのです。
ただし、これも当然ではありますが、黒人ミュージシャンだって立派に活動していたのが本当のところであり、ブッカーTは前述のマーキーズが巡業に出ている間のレコーディングセッションでは中心人物として活躍していた俊英であり、アル・ジャクソンは地元の名手として、これまたライプの現場では堂々の活躍をしていたわけですから、自然とレコード制作に関わっていくのも時代の要請というところでしょうか。
つまり今日、所謂スタックスサウンドと称されるアメリカ南部産のR&Bがメンフィスで誕生したという説が強いのも、基本的には黒人ならではの粘っこいソウルビートを白人にも理解し易いように変化させた成果なのかもしれません。
その意味でスティーヴ・クロッパーとダック・ダンが前述したマーキーズ出身というのも充分に肯定出来る経緯でしょう。
こうしてひとつの流れの中で纏まったブッカーTとMGs が、スタア歌手の伴奏ばかりではなく、自らのリーダー盤を出してヒットさせるのは自明の理!?! 説明不要のシングルヒット「Green Onion」や「Time Is Tight」等々は誰もが一度は耳にしたことのある有名なリフでしょうし、なによりもシャープなスティーヴ・クロッパーのリズムギターや味わい深いリードプレイ、グルーヴィでソフト&メローなムードの演出も忘れないブッカーTのオルガン、意外にもモダンなダック・ダンのペースにドライヴ感満点の天才的なビートとリズムを提供するアル・ジャクソンという4人組が作り出す演奏は、未来永劫の基本的な音の楽しみがいっぱい♪♪~♪
ですから、アルバムも様々な企画の中で作られていますが、この「マクレモア・アベニュー」こそは所謂トータルアルバムの美味しい部分を抽出した確信犯的な楽しさがあり、加えてグループとしての音楽表現も充実しています。
ただしご推察のように、インスト演奏主体と言っても、それは決してアドリブ優先主義ではなく、ビートルズが提示した素敵なメロデイとコーラス&ボーカルの魅力をそれに置き換えることに主眼が置かれていますから、ご安心下さい。
極言すればハコバン的なチープな質感も大切にされ、それをショボイと批判するか、カッコ悪いことがカッコイイとする当時のフィーリングを肯定するかによって、自ずと好き嫌いが分かれるのは仕方のないところかもしれません。
それでも聴いていて心地の良い瞬間が多々訪れるのは確かであって、それは耳に馴染んだビートルズならではのメロディや演奏のポイントが、ブッカーTとMGs という職人集団によって中身の濃いソウルフルな味わいに仕立てられている証に他なりません。
万人向けとは申しませんが、機会があれば、お楽しみ下さいませ。
最後になりましたが、ジャケットに写っている道路左側の三角屋根の建物がスタックスのスタジオであり、昔は映画館だったとか!?
実はサイケおやじは1979年に現地に行くことが出来て、その歴史的な場所には流石に震えがきたほどでしたが、リアルタイムではテレビ用の貸しスタジオになっていたらしく、肝心のスタックスレコード本体も大手のファンタジーに売却された後でしたから、ちょいと寂れたところでしたねぇ……。
ということで、やっぱり「アビイ・ロード」は凄いなぁ~~♪
そう思うこと、頻りなのでした。