OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ハービー・マンのクールなラテンジャズ

2011-08-19 15:27:06 | Jazz

Herbie Mann At The Village Gate (Atlantic)

なにか我国の場合、真のモダンジャズは売れちゃいけない!?

そんな風潮が昭和40年代まで、かなり根強くありましたですねぇ。

このあたりの感覚は今日のお若い皆様には、ちょいとご理解しかねるところかもしれませんが、やはりジャズはジャズ喫茶で聴いてこそ、その真髄に触れることが出来るとか、あるいは高名なジャズ評論家の先生が推奨される作品こそが名盤と思い込まされていたのが、当時のジャズファンの一般的な様相だったと思います。

もちろん、そこには今は無くなってしまったメジャーな(?)ジャズ雑誌の存在も大きかったとサイケおやじは感慨を深くしているわけですが、そんなところから常に標的にされていたのがハービー・マンという人気プレイヤーでした。

なにしろラテンジャズに始まり、ボサノバやサザンソウル、ロックジャズからブリティッシュロックやレゲエ、さらにはフィリーソウルやディスコ路線という流行のビートを逸早く応用した独自のモダンジャズは、時代のブームを見事に反映していましたから、イノセントなジャズファンよりは、広く音楽愛好者にウケまくり♪♪~♪

本日ご紹介のアルバムも、まさにそうした中の代表作として名高いヒット盤なんですが、実は意外にも硬派な正統的モダンジャズが演じられています。

録音は1962年12月、ニューヨークの名門クラブ「ヴィレッジ・ゲイト」におけるライプセッションで、メンバーはハービー・マン(fl) 以下、ハグード・ハーディ(vib)、アーマッド・アブダルマリク(b)、レイ・マンティーラ(per)、チーフ・ベイ(ds,per)、ルディ・コリンズ(ds,per) という、おそらくは当時のレギュラーパンドの面々に、1曲だけベン・タッカー(b) が参加しています。

A-1 Comin' Home Baby
 とにかく矢鱈に調子良いブルースですから、これがウケなかったらモダンジャズなんて苦行と言われても、絶対に反論は出来ないでしょう。
 初っ端からウキウキさせられるリズムの楽しさはラテンビートの変形かもしれませんし、その繰り返すパターンが当時の最先端だった所謂モードジャズに応用されている疑念(?)も濃厚です。
 しかしハービー・マンが特にアドリブパートで披露する十八番の祭囃子っぽいフルートの音色とフレーズの兼ね合いは、こうした弾みのついた演奏では殊更に魅力を発揮し、であればこそ、そこにリスナーは素直に身を委ねることが出来るように思います。
 また作者のベン・タッカーが、この演奏にだけ参加しているのも強みのひとつで、ステレオ盤では右チャンネルに定位し、グッと本気度の高いベースソロは流石にツボを外していません。それは分かり易さと如何にもジャズを聴いているという基本的な快楽を与えてくれる職人技!
 もちろんハービー・マンのグループは、常に同じ姿勢を貫いていたと思われますから、ゲスト扱いのベン・タッカーが浮いてしまうなんて事はありえない話で、実は決してバカ騒ぎにならないクールなムードが横溢した演奏は、他にもハグード・ハーディのイカしたヴァイブラフォンも聞き逃せないポイントだと思います。

A-2 Summertime
 お馴染みのスタンダードメロディをじっくりとしたラテンジャズに仕上げた、なかなかの隠れ名演が、これです。
 いや、「隠れ」なぁ~んて言葉は絶対に失礼ですよねぇ。
 思わず反省のサイケおやじがグッと惹きつけられるのは、ハービー・マンの深~いアドリブで、寄り添うアーマッド・アブダルマリクのベースワークとキャバレーモードが全開のラテンパーカッション、さらに日本では全くの無名ですが、ハグード・ハーディのヴァイブラフォンは素晴らしすぎる快演を聞かせてくれますよ♪♪~♪ 自身のフレーズと連動した唸り声も良い感じ♪♪~♪
 ですから再び登場して演奏を締め括っていく親分のフルートが、些か神妙に思えてしまうのもムペなるかな!? しかし、それこそが当時のナイトクラブというか、大人の雰囲気を伝えてくれるのは嬉しいです。
 ジワジワと迫ってくる、この落ち着いた熱気が最高!

B-1 It Ain't Necessarily So
 さて、これこそがLP片面を全部使った硬派な演奏で、素材はガーシュンのスタンダード曲ながら、モダンジャズのプレイヤーが演じると、例えばグラント・グリーンにしろ、マイルス・デイビスにしろ、何故か重厚でハードな仕上がりにも成りうるポイントが、ここでの結論はシリアス!
 ハービー・マンは快楽優先主義と思い込んでいれば肩すかしどころか、見事な背負い投げをくらわされますよ。なにしろチャカポコのラテンリズムとモード系の手法、そして一途なジャズ魂が混濁しながら展開される演奏は、ちょいと結末が予想出来ない瞬間もあるほどで、全く何処に連れて行かれるか不安になるほどです。
 しかし、それでいて20分近い演奏を最後まで聴いてしまうのは、なにか心地良い惰性が提供されているといっては、問題発言でしょうか。
 それは決して不遜ではなく、サイケおやじとしてはジャズ喫茶での「居眠りモード」にも共通する快感と思っているのです。

ということで、既に述べたように、これはヒット盤として当時のジャズ喫茶でも特に「Comin' Home Baby」がバカウケしていたと、これは諸先輩方から伝承された真実なんですが、後追いで聴いたサイケおやじとしては、まず濃密に感じられるのがクールなムードの横溢!

なにか日活アクション映画のキャバレーシーンをイメージさせられる演奏は、これをバックに白木マリが登場し、セクシーなフロアダンスをやってくれそうな気配があって、それゆえにサイケおやじが愛聴するのも当然の仕儀なのです。

まあ、そんなところがリアルタイムではドC調と蔑まされたところかもしれませんし、分かり易さが逆に軽く扱われる要因なのでしょうか……。

振り返ればハービー・マンこそは元祖フュージョンの本家であり、ガチガチの4ビートジャズに拘らない姿勢は、それなりに頑固なファンを掴んでいたと思います。

なによりも売れていた、売れるレコードを作り続けた姿勢は絶対でしょうねっ!

私は好きです。

コメント (4)
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