■Comment / Les McCann (Atlantic)
A-1 How Many Broken Wings
A-2 Can't We Be Strangers Again
A-3 Unless It's You
A-4 What I Call Soul
B-1 Comment
B-2 Baby, Baby
B-3 Yours Is My Heart Alone
もちろんレス・マッキャンは偉大なピアニストであり、殊更ソウルフルなハードパップを得意とする演奏にはファンが多いわけですが、もうひとつ、忘れてはならないのが歌手としての魅力でしょう。
1970年に発売された本日掲載のアルバムは、まさにその方面の人気盤として、イノセントなジャズ者よりも、どちらかと言えば黒人音楽全般を好むリスナーからの支持が多い1枚だと思います。
また、ニューソウルの歌姫として幾つもの傑作盤やヒット曲を出したロバータ・フラックを見出し、このレコードによって世界的に紹介したのも、レス・マッキャンの特筆すべき功績です。
なにしろここでの彼女はピアノ演奏ばかりか、2曲でレス・マッキャンのデュエット相手に起用されているのですからっ!
ちなみにセッション参加メンバーはレス・マッキャン(vo,p) 以下、ロン・カーター(b,el-b)、ビリー・コブハム(ds) のリズム隊をメインに、ビリー・バトラー(g)、ドナルド・ディーン(ds)、スタンリー・カウエル(org)、ジュニア・マンス(p)、リチャード・ティー(p) 等々の他に超一流のホーン&ストリングスプレイヤーが名を連ね、さらに前述したとおり、ロバーター・ラフック(vo,p) が華を添えるという豪華版ですから、これが駄作になったらプロデューサーのジョエル・ドーンも面目は丸潰れですよねぇ~~。
そして結果は堂々の傑作に仕上がったその中で、やはりA面ド頭の「How Many Broken Wings」はグッとシビレる大名唱♪♪~♪
そのゆったりした曲の流れにジャストミートのソウルフルな歌声は、まさにレス・マッキャンの持ち味であり、加えてロバータ・フラックとのデュエットが失われた愛情を歌い込んだ詩の世界にせつないほどのハートウォームな情感を滲ませてしまうのですから、これ1曲でツカミはOKでしょう。
いゃ~、何度聴いても飽きませんが、これは当時のモータウン御用達であったソングライターのヘレンとケイのルイス姉妹がレス・マッキャンに書き下ろしの傑作で、このアルバムには他にも「Can't We Be Strangers Again」「What I Call Soul」「Baby, Baby」が提供されている事は要注意かもしれません。
中でもイントロが「メリー・ジェーン」なロバータ・フラックとのもうひとつのデュエット曲「Baby, Baby」は、レス・マッキャンのソフトな語り口からスタートし、ロバータ・フラックが登場するパートになると、何かしらハリウッドポップス調が入ってきますから、矢鱈なゴスペルフィーリングを表に出さずとも、十分にソウルフルな傑作トラックだと思います。
う~ん、最後がフェードアウトで収録時間の短さが勿体ないかぎりですねぇ~~。
その意味で最初っからゴスペル集会みたいなアルバムタイトル曲「Comment」がレス・マッキャン十八番のハートウォームで深い声によって辛辣なメッセージ、反戦や人類愛を歌いながら訴えるところは、如何にも当時の世相であり、永遠のテーマでもありますから、聴いていて言葉の意味が完全に理解出来なくとも、その説得力に打ちのめされ、感動の余韻が心に染み入ります。
というか、実はサイケおやじは幸運にも、アメリカで黒人が集う日曜日の教会拝礼に数度列席させてもらったことがあるんですが、その時になって初めて、このアルバム全篇に漂う静かな熱気と敬虔な魂の真実が僅かに理解出来たような気分になりましたですねぇ。
だからこそ、初めて聴いた1973年当時よりも、今の方が愛着度も高いわけですが、それにしても穏やかな心の動揺(?)な感じさせる「Can't We Be Strangers Again」や一転して分かり易く(?)ソウルミュージックの賛歌を演じるアップテンポの「What I Call Soul」におけるバックコーラスや演奏パートとの一体感は、なかなか実在感が強く、スピーカーの前に居ながら、思わず巻き込まれる熱気に圧倒されてしまいますよ♪♪~♪
あぁ~~、ぐぐう~~っとアンプの音量を上げてしまう自分に気がつきますっ!
しかし、レス・マッキャン本来のジャズっぽさもストリングスを贅沢に使ったスタンダード曲「Unless It's You」やじっくり弾き語るオーラスの「Yours Is My Heart Alone」で存分に楽しめますから、ご安心下さい。
つまり決して時代に迎合した、闇雲なソウルアルバムては無いという事かと思います。
それは徐々に開花していた所謂ニューソウルでもあり、黒人AORでもありましょうか。とにかく聴けば納得、これからの季節なら仕事を終えて帰宅し、独りの時間には絶好の彩になる事は請け合いの1枚と思いますし、もちろんちょっぴり寒い朝ならば、目覚めのBGMとしてもイケるんじゃ~ないでしょうか。
実際サイケおやじは、今頃の季節からは殊更愛聴しています。
ということで、こういうハートウォームでソウルフルなレコードは、何か生涯の友のように思っています。
そういう幸せは大切にしたいですねぇ、生きているかぎり。