OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

The Beatles Get Back To Let It Be:其の四

2020-08-25 19:15:58 | Beatles

未来の何時の日か、タイムマシンが実用化すると思っている人には酷な話ですが、サイケおやじは、それは無いと思っています。

何故ならば、ビートルズが最後のライブパフォーマンスを演じたアップル本社の屋上には、ほんの少数の観客しかいなかったのですからっ!?

だって、もしもタイムマシンが未来に完成しているのなら、その場は夥しい人間で溢れかえっていたはずだと思うんですよねぇ……。

なぁ~んていうタイム・パラドックスも異次元空間も無視した様な妄想を抱いてしまうほど、それは寒々しい光景でした。

記録によると、その時の気温は摂氏2度、待ち受ける観客は後にジョンと結婚するオノ・ヨーコ、同じくポールの妻になるリンダ・イーストマン、リンゴの妻のモーリン、そしてジョージ・マーティンを含む関係者やスタッフ数名……。

ジョンとジョージは女物の毛皮のコートを着ているし、リンゴは「本当にここでやるのかい?」と言っている……。

ビートルズの2年半ぶりのライブ・パフォーマンスはそんな状況下でスタートしました。

しかし、それは結論から言うと、映画のクライマックスに相応しい、とんでもなくエキサイティングなショウになりましたっ!

演奏された曲目は、手元にある映像や正規盤及び海賊盤音源等によると、下記のようになります。もちろん同じ曲を繰返しているのは、ライブパフォーマンスとはいえ、やはり基本は非公開故の事、そのあたりをご理解いただいた上で、サイケおやじなりの検証結果を述べてみようと思います。

01 Get Back #-01
 これはほとんどリハーサルというか、肩慣らし的に進行しています。ジョンとジョージのギターもかなり不安定、おそらく寒くて手が悴んでいたのではないでしょうか……?

02 Get Back #-02
 このテイクも前と同様な雰囲気ですが、ポールとリンゴのリズムはなかなか安定しており、またポールのボーカルにも力が入っている様に感じますし、ジョンのノリは良くなっておりますが、相変わらずジョージは何をやっているのか分かりません。
 ここは映画でも屋上セッションの最初の曲として観る事が出来ますが、それはこの2つのバージョンを巧みにつなぎ合わせたものだと資料にありました。それが正解の処理、見事だと思います。

03 Don't Let Me Down #-01
 ここから突如としてバンドのノリが良くなります。
 特にジョンのボーカルが全開、味と上手さと力強さを兼ね備えた強烈なグルーヴを発散します。
 ここは映画版「レット・イット・ビー」にそのまま使われておりますので、ぜひ観ていただきたいところです。体全体から歌い、演奏することの喜びが満ち溢れているジョンの姿には、素直に感動するはずです。
 音楽的にはビリー・プレストンの弾くエレピが、ファンキーでありながらメローという黒人感覚を存分に発揮していて素晴らしく、最後のソロはもっと続いて欲しいと願うほどです。またギターとベースの絡みも強烈で、これまでスタジオでダラダラやっていたのは何だったんだっ!? と思わせるほどです。
 しかしながら現在、映画版「レット・イット・ビー」は絶版状態、音源的にも完全な形で公式発売されていないこのテイクは、映像版「アンソロジー」でもその一部にしか接することが出来ず、本当に残念です。
 もちろん、それゆえにブートが人気を呼ぶわけですが……。

04 I've Got A Feeling #-01
 前曲からのノリを引き継いで、これもなかなかの名演で、映画版および正規盤「レット・イット・ビー」にそのまま使われております。
 ジョンとポールの歌の絡みも強烈ですが、ジョージのギターが黒人系のオカズを入れてくるところが大好きです。
 この曲に限らず、当時の彼等の演奏に垣間見える黒っぽい雰囲気は、ここでも味のある技を披露するビリー・プレストンの影響でしょうか?

05 One After 909
 皆様 良くご存知のように、この曲はジョンが17歳の時に書いたもので、ビートルズとしても1963年に録音しており、その時はお蔵入りしましたが、現在は「アンソロジー 1」で聴くことが出来ます。それはジョンの歌い方等、当時としてはかなり粗野で泥臭い雰囲気に満ちていたとは思いますが、しかしこの屋上セッションのバージョンには敵うはずもありません。ロックン・ロールを飛び越してファンキー・ロックの風さえ、サイケおやじは感じてしまいますねぇ~~♪
 特にジョージのギターは1963年バージョンでは中学生程度だったものが、ここではファンキー!
 ジョンの嬉々とした身振りと歌!
 ここも映画版でそのまま使われていて、何度観ても飽きません。もちろん正規盤「レット・イット・ビー」にも収録されました。

06 Danny Boy
 前曲のラストに続けてジョンが唸りました。よほどノッていたというか、機嫌の良さがうかがえると思います。ちなみに原曲は北アイルランドの民謡「ロンドンデリーの歌」で、ここも映画版および正規盤「レット・イット・ビー」に入っております。

07 Dig A Pony
 はっきり言ってかなりダレた曲だと思いますが、それを生演奏でここまでキメてしまうのは流石!
 その決め手はやはりビリー・プレストンのキーボードの隠し味と、リンゴのファジーでタイトなドラムです。つまり安定していて許容範囲が大きいリズムを叩いているということです。他のバンドがやったら3分持たないだろうし、下手と言われているビートルズのライブバンドとしての実力を再考させられますよ。
 ここも映画版ではそのまま使われておりますので、じっくりご確認いただきたいところです。
 そこでは歌詞カードを持ってジョンの前に屈みこんでいるスタッフの姿も映っており、現場の雰囲気がダイレクトに伝わって、リアル感満点です。
 ちなみに正規盤「レット・イット・ビー」に使われたのは、このバージョンを元にして若干の編集が入っていると思います。

08 God Save The Queen
 様々な海賊盤だけで聴くことが出来るイギリス国歌の断片です。これが演奏された真相は、録音テープの交換による中断の間を持たせるために働かせたビリー・プレストンの機転だったとか……。

09 I've Got A Feeling #-02
 「04」に続く2回目の演奏になりますが、かなり荒っぽさが目立ちます。

10 Don't Let Me Down #-02
 これも「03」に続く2回目の演奏ですが、正規な発表は現在までのところ、無いと思われます。
 サイケおやじの持っているブートも、この部分の音が良くありません。
 実はビートルズが屋上で演奏しているというので、周辺の道路や建物の屋上等には偶然の幸運に恵まれた人達が集って来て混乱が起きていました。ついには警察が出動する事態になりますが、その一部始終はフイルムにしっかりと焼き付けられます。当然、この頃になると演奏現場である屋上にもその騒ぎが伝わってきて、彼等の演奏に集中力が感じられないのは、その所為かもしれません。

11 Get Back #-03
 この日3回目の演奏は完全にメチャクチャ、その一歩手前です。
 演奏を中止させるべく屋上に上がって来た警官に気を取られるジョンとジョージ、そしてスタッフ、しかし撮影班だけが不自然なほどに冷静です。
 そして曲は中断しそうになりますが、何とか持ち直して最後まで完奏され、その最後の方でポールが「屋上でプレイしていると、そのうち逮捕されるぜっ」とアドリブで歌詞を変えて歌います。
 さらに演奏を終えた後、ジョンが「グループを代表してありがとうと言います。オーディションには合格したいものです」とキメの一言!
 その一部始終は映画版「レット・イット・ビー」で観ることが出来ます。
 またその演奏の一部と警官にとっちめられるスタッフの姿は、映像版「アンソロジー」でも接する事が出来ますが、そこには未公開フィルムも使われており興味深いところでした。
 また、音源的には「アンソロジー 3」にミックスを整えて収録されております。
 そして……、この曲を最後に、約42分間の歴史的事件は幕を閉じました。

さて、こうして撮影されたこの屋上セッションは、演奏シーンと周辺に集まってくる人々、その混乱の様子と警察の出動等々を巧みに編集して、映画版「レット・イット・ビー」のクライマックスを形成しております。

しかし、これは純粋の意味でのドキュメントだと、サイケおやじには思えません。

それは周辺の混乱を映し出した映像に所謂「やらせ」の雰囲気が感じられるからで、例えば最初から集ってくる人々を撮影するために撮影班が待機していた事、その群集の中にどう見ても俳優やモデルという人種が混じっている事、例えば、ミニスカのお姉ちゃんとか、文句を言ってるおばちゃんとか、屋上にパイプをふかしながら昇ってくる爺さんとか……。

また、周辺ビルの屋上で見物している人々を撮影するカメラワークが計算づくを感じさせる場面もありますし、警官がアップル本社に入って来る場面を待ち構えていて撮影したカットまであります。

その全てが「やらせ」とは言いませんが、あらかじめ騒ぎが起こるのを想定した仕事という他は無く、警察の介入という部分まで、強烈な演出を感ぜざるをえません。

だいたい、誰が最初に警察に電話を入れたのかは、解明されているのでしょうか? スタッフの誰かが電話したとは思いたくはありませんので……。

とは言え、やはりここは興奮のハイライトでした。後のインタビューではポールもリンゴも「逮捕されたかった、逮捕されて連行される場面で映画を終わらせたかった」と述べている様に、メンバーにとってもこれは満足のいく演出だったという事なのでしょう。

これ以降、ビートルズの真似をして屋上でライブをやりたがるバンドが続出した事でも、その衝撃度・影響度・カッコ良さは絶大なものがありました。

ちなみにこのライブパフォーマンスは、厳密に言えばビートルズの契約違反だと言われております。

それはマネージャーだった故ブライアン・エプスタインと交わした、発売前の新曲はステージでは演奏しないという契約を破っていたという事です。したがって彼が存命ならば、こんな馬鹿げた企画は通るはずもなく、このあたりにも「運命のいたずら」の様なものを感じてしまいます。

そして翌1月31日、ビートルズは再びアップル・スタジオで映画版「レット・イット・ビー」で使われた「Two of Us」「The Long And Winding Road」「Let It Be」の他、数曲の撮影と録音を済ませ、長くてトラブルの多かった作業をどうにか収束させる事が出来ました。

しかし、本当の混乱と迷走は、ここから本格的に始まるのです。

【参考文献】
 「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」

注:本稿は、2003年9月22日に拙サイト「サイケおやじ館」に掲載した文章を改稿したものです。

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