OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

フェンスの向こうから来たスティーヴィー

2009-05-08 12:47:20 | Soul

Talking Book / Stevie Wonder (Tmala)

人類の遺産ともなったスティーヴィー・ワンダーの、この名作アルバムが世に出たのは、アメリカでは1972年の晩秋だと思いますが、もちろん我が国では翌年の春の発売でした。

しかしサイケおやじは前作アルバム「心の詩」、そして最新シングル曲の「迷信」にシビレきっていましたから、一刻も早く、これを聴きたくてたまりません。

とはいえ、当時は輸入盤を扱っている店も少なく、しかも値段が日本盤よりも高かったことを思えば、世の中の不条理を嘆くばかり……。もちろんアメリカへ行けば全てが解消することは分かっていましたが、その頃は今とは想像もつかないほどに、アメリカは遠い憧れの国……。

ところが、アメリカは身近に存在していたのです!

それは日本に駐留する米軍基地でした。そして中にある売店では、普通にアメリカの商品が売られていたのですから、レコードだって同じことです。

もちろん、そこへ一般の日本人がノコノコと入っていけるはずもありません。ですが、米軍関係者や基地内の労働者に知り合いがいれば、全ては解決するのです♪♪~♪

つまりそういう友達や知り合いに買い物を頼むという裏ワザがっ!

これを教えてくれたのは、先輩のお姉様のご友人がプロのミュージシャンで、彼等は最新の音楽情報を得るために米軍関係者にお願いをしているというのです。ちなみに、この裏ワザは昭和20年代から行われていたらしく、音楽関係者の間ではプロレスでいうところのケーフィと同じだったと思われます。

当然ながら、税金の問題がありますから、基地内から商品を持ち出すことは大量には無理です。しかしレコードぐらいだったら、それほど問題にならなかったようですが、それでも違法行為なんでしょうか……。

まあ、それは時効ということで、これ以上は詳しく書きませんが、とにかくそうやって入手したスティーヴィー・ワンダーの新作アルバムには、それこそ全てが逆転したような凄い衝撃が詰まっていました。

もちろん基本はスティーヴィー・ワンダーが各種キーボードやドラムスを駆使して作りだした演奏パートと歌で占められていますが、そこへホーン・セクションやギター、そしてペースや打楽器、コーラスで加わっている少数のゲストの存在感も抜群のバランスで目立つという、そうした最高のプロデュースもスティーヴィー・ワンダー自らの才能の証明でしょう。また当然ながら、収録楽曲は全てが自作です。、

A-1 You Are The Sunshine Of My Life
 今ではスタンダードとなったスティーヴィー・ワンダー自作の名曲ですが、まずはアルバムに針を落とし、初めて聴いた時の吃驚仰天は今も忘れられません。
 鉄腕アトムの主題歌と同じようなコードの響きからエレピがホンワカと気持ち良いイントロ♪♪~♪ しかし歌が入ってくると、それはスティーヴィー・ワンダーの声ではありません!? そして続くパートでは、なんと女性の声が主旋律を歌うのです! その和みの美メロが素敵なだけに、これは??? もしかしたら、中身のレコードが違うんじゃないか? とさえ思った次の瞬間、サビに入ってから初めて、スティーヴィー・ワンダー自らのボーカルが聞かれるんですねぇ~♪
 あぁ、なんという遊び心!
 とてもアルバムのド頭に仕掛けるようなイタズラではありません。
 凄い自信というか、自惚れというか、否、これはスティーヴィー・ワンダーが一流の洒落なんでしょうかねぇ~。去っていくかもしれない愛しい人にせつせつと語りかける歌の内容があればこその美メロ主義が、ここまで効果的に表現される、その刹那の手段のあざとさには脱帽するしかありません。
 ちなみに、ここで最初にリードボーカルを聞かせる男性歌手が Jim Gilstrap、女性ボーカルは同じくコーラスで参加している Gloria Barley か Lani Groves のどちらかだと思われますが、この3人は当時のスティーヴィー・ワンダーのツアーバンドレギュラーだと言われています。
 さらに何といっても、この曲メロのハートウォームな素晴らしさ♪♪~♪ ボサロック系のリズムの和みも最高の極みですから、後にはシングルカットされ、もちろん大ヒットしたのも当然が必然なのでした。

A-2 Maybe Your Baby
 そして一転して始まるのがヘヴィなファンクピートが強烈な粘っこさ!
 その大部分がキーボードで作られているのも驚異だと思いますが、バックで絶え間なく弾きまくられるギターは、これも当時のバックバンドではレギュラーだったレイ・パーカーJr. です。
 ちなみにこの人はご存じ、後にはハービー・ハンコックのヘッドハンターズを経て独立し、ブラコン路線の甘~いバラードをウリにしてブレイクするのですが、こういうハードな仕事もやっていたのですよっ♪♪~♪
 そしてスティーヴィー・ワンダーのドラムスが、実に素晴らしいです!

A-3 You And I
 さらにまたまた一転、今度は完全にスティーヴィー・ワンダーが一人舞台というスローバラードの世界です。ピアノとシンセの響きが巧みに融合した演奏パートと静謐にして情熱的なボーカルの味わい深さは、本当に感動的ですねぇ~♪ もちろん曲メロの素晴らしさは言わずもがな、これも愛する人にせつせつと2人の存在の必要性を訴える歌詞の中身が、当時の作者の心情吐露でしょうか……。
 なにしろセッション前後のスティーヴィー・ワンダーは、シリータ・ライトとの離婚問題で悩んでいたそうですからねぇ。後には神の領域にまで踏み込んでいくスティーヴィー・ワンダーの姿勢を鑑みれば、こういう等身大の姿には共感を覚えてしまいます。

A-4 Tuesday Heartbreak
 これぞ、典型的な「スティーヴィー節」が楽しめるファンキーポップスの隠れ名曲♪♪~♪
 ワウワウなキーボード、ソウルフルなコーラスに加えて泣きまくるサックスが実に最高なんですが、これがなんとデイヴィッド・サンボーン!
 もちろん当時、サイケおやじはこの人の事は何も知りませんでしたが、その名前はこの演奏だけで、深く胸に焼き付いてしまいましたから、後年のフュージョン期の大活躍が待ち遠しいばかりに夢中になったのも、ご理解願います。

A-5 You've Got It Bud Girl
 シングル盤「迷信」のB面にもカッフリングされていた、これも「スティーヴィー節」が全開の名曲でしょう。そのミステリアスでハートウォームな曲メロの魅力に加え、ここではバックの演奏パートの緻密な構成がニクイほどです。
 当然ながら、それゆえに幾多のカバーバージョンが作られたのもムベなるかな、しかしクインシー・ジョーンズですら、このオリジナルバージョンを凌駕することが出来なかったのは、納得されると思います。
 ちょっと聴きには雑なシンプルさが、逆に凄いんじゃないでしょうか。

B-1 Superstition
 やっぱり、この曲はレコードの一発目が似合います!
 B面とはいえ、ド頭はこれしかありませんよっ!
 そうした気分はCDでは6曲目という位置取りが、ちょっと違和感もあるんですが、ダイレクトに選曲出来るという特性があれば、それでも許せますね♪♪~♪
 それでは皆様、ご一緒に踊りましょう♪♪~♪
 ちなみにシングルバージョンとは微妙にミックスが異なると感じるのは、私だけ?

B-2 Big Brother
 という奥の細道的な思いに浸る前曲最終パートのフェードアウトに被ってくるのが、スティーヴィー・ワンダーが十八番のキーボードによるギターのアルペジオ風味というイントロの爽やかさ♪♪~♪ もうひとつの得意技であるハーモニカも素敵です。
 そして極めてポップな感覚は、従来のR&Bというジャンルからは遠く離れた、まさにスティーヴィー・ワンダーだけの世界でしょう。それがあるからこそ、サイケおやじは夢中になったのですが、イノセントに黒人音楽に熱中しているファンからすれば……。

B-3 Blame It On The Sun
 という感覚は、この曲に引き継がれ、ピアノと生ギターで作られるイントロから静かに歌い出されるメロディの素晴らしさ! ちょっとポール・サイモンかポール・マッカトニーという雰囲気も濃厚です。
 愛する人が去って悲しい気分は、太陽が輝かない所為だとする大袈裟な失恋な歌も、最後にはお互いの責任を嘆くという、いやはやなんともの歌の中身を知れば、ここでの全てが笑いたいほどに滑稽なものに感じられますが、それを逆手にとった生真面目が尊いのかもしれません。
 その意味で曲と演奏の完成度は、流石だと思います。

B-4 Lookin' For Another Pure Love
 これが、ある意味ではアルバムのハイライト曲でしょう。
 フワフワしたメロディと脱力系のボーカルが化学変化したような、所謂AOR系の仕上がりなんですが、ギターで参加しているのが前作「心の詩」でも名演を披露したバジー・フェィトン、そしてジェフ・ベック!
 極めてジャジーな伴奏を聞かせるバジー・フェイトンに対し、感覚的な即興が冴えまくりというジェフ・ベックのギターソロが、こんな曲調とは相反する凄味を醸し出していきます。しかも澄みきったギターの音色そのものが、実に魅力的なんですねぇ~♪
 当時はR&Bが急速にロック化していった、所謂ニューソウル期の入口だったわけですが、こうしたロック系の人脈とも繋がりながら、全く自分の存在意義を失っていないスティーヴィー・ワンダーの天才性! それは今になっての後付け的な感想ではありますが、リアルタイムで聴いた時の不思議にゾクゾクする感覚は、サイケおやじにとっては未来永劫続くものでしょう。本当に激ヤバだと思います。

B-5 I Believe
 オーラスは再びスティーヴー・ワンダーが全てを独りで作り上げた感動のスローバラード♪♪~♪ ビートルズっぽくあり、ゴスペル風味も強く、そして何よりも「スティーヴィー節」のじっくりとした歌唱にシビレます。
 歌の内容は、もう一度、信じられる人に巡り合えて云々という、小柳ルミ子の「おひさしぶりね」の世界と通じるというか、未練な世界のような気もしますが、スティーヴィー・ワンダーの強固な決意表明は本物ということでしょうか。
 このアルバムはLP片面づつ、曲間が極端に短く、トラックによっては前曲のラストと被っているほどの構成と流れからして、その最後には、やはりこの曲しかないと感じてしまうのでした。

ということで、もちろんスティーヴィー・ワンダーには、この作品よりも素晴らしいアルバムが以降に作られていますし、個人的にも一番好きとは言えません。

しかし初めて聴いた時の衝撃度と喜びは何物にも優っています!

ロックとかR&Bの境界線が無い、しかしそれは曖昧では無いスティーヴィー・ワンダーの個性だと思います。まあ、作詞の一部にはシリータ・ライトやイヴォンヌ・ライトの手も入っていますが、それでも本人の歌の世界は不動でしょう。

またジャケットに点字が刻まれていたのも、当然のようで画期的だったんじゃないでしょうか。このあたりは日本盤LPや最近のCDでは、どうなっているのか分かりませんが!

とにかく全てが新しかったですねぇ~。それは今でも感じます。

最後になりましたが、これを入手したのと同じ裏ワザは、以降も使ってしまいました。ただし翌年になると、輸入盤屋が急速に開店し、いよいよLPも買い易くなったというわけですが、それは海賊盤地獄という、新しい罠に陥る前触れでもありました。

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