OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

アル・クーパーと少年ギタリストの冒険

2010-08-29 16:29:41 | Rock

Kooper Session / Al Kooper introduces Shuggie Otis (Columbia)

何時の世にも必ず登場するのが、所謂天才少年って奴でしょう。

本日ご紹介のアルバムで主役を演じるのが、才人のアル・クーパーに堂々と紹介される天才少年のシャギー・オーティスです。

しかもアルバムのサブタイトルが「スーパー・セッション Vol.Ⅱ」とまでされているんですから、驚愕です。もちろん本家の「スーパー・セッション」は、アル・クーパーがマイク・ブルームフィールドスティーヴン・スティルスとガチンコをやってしまった歴史に残る名演集でしたから、聴く前からこのアルバムの本気度に期待と不安を抱くのは偽りの無い気持です。

なにしろシャギー・オーティスはリアルタイムで弱冠15歳!?!

ちなみにアルバムが制作されたのは1969年というロックの黄金時代でしたし、アル・クーパーにしても前述の「スーパー・セッション」や続篇的なライプ盤「フィルモアの奇蹟」を出していた上昇期ということで、決して安易な作品は世間が許さないという状況だったと思います。

しかしシャギー・オーティスは、黒人R&Bの世界ではゴッドファーザー的な存在だったジョニー・オーティスの息子であり、実際に父親が主催するライプショウには幼少の頃から出演し、巧みなギターばかりか様々な演芸をやっていたというキャリアは侮れません。

ちなみにジョニー・オーティスは自らドラムスや各種打楽器、ピアノやヴァイブラフォンを演奏しながら歌い踊るというスタイルをやり通したバンドリーダーであり、率いる一座にはコミックショウや猥褻スレスレの出し物までも入れていた、まさに黒人大衆芸能の王道を極めた偉人ですから、ライプ巡業だけでなく、レコードも相当数を出しています。

そしてアル・クーパーは、その中から「コールド・ショット(kent)」というアルバムを聴き、まさに天才ギタリストぶりを発揮していたシャギー・オーティスを発見したという経緯が、ジャケット裏解説にアル・クーパー本人のライナーとして掲載されているのですが……。

 A-1 Bury My Body
 A-2 Double Or Nothing
 A-3 One Room Country Shack
 A-4 Lookin' For A Home
 B-1 12:15 Slow Goonbash Blues
 B-2 Shuggie's Old Time dee-di-lee-di-leet-deet Slide Boogie
 B-3 Shuggie's Shuffle

結論から言うと、まさにサイケおやじの好みにはジャストミートの偏愛盤♪♪~♪

実は告白すると、ここまで書いてきたような経緯や裏事情は知る由もなかった昭和45(1970)年、このアルバムは日本盤が出ています。そしてその時、サイケおやじは馴染みのレコード屋でこれを聴かせてもらい、自分と年齢も変わらぬシャギー・オーティスが堂々の自信で見事なギターを弾いている現実に圧倒されたのです。

もちろんアル・クーパーの音楽性にシビレたのは言わずもがなでしょう。

しかし悲しいかな、当時は千八百円だったこのLPを買うことは例によって叶わず、唯一度だけ聴かせてもらった両面の印象を強く脳裏に焼き付けたまま、時が流れました。

そして2年後、ようやく中古で入手したのが、本日掲載の私有盤というわけですが、それでも実際に自分の手で針を落とした時のワクワク感は、今でも本当に忘れ難いものがありますし、演じられている各楽曲の「自分好み度数」も、また同様です。

セッション参加メンバーはアル・クーパー(vo,key,g,etc)、シャギー・オーティス(g) 以下、マーク・ナフタリン(p)、ストー・ウッズ(b)、ウェルス・ケリー(ds)、ザ・ハリス・ロビンソン・シンガーズ(vo) 等々と、アル・クーパー本人が裏ジャケットで解説していますが、さらにアナログ盤A面が「The Songs」、またB面が「The Blues」と明確に分類してあるところが、如何にも「らしい」と思いますねぇ~♪

で、そのA面ド頭「Bury My Body」が、全くアル・クーパーならではのゴスペルソウルで、特有の泣き節と刹那のシャウトが全開という、これぞの十八番が早くも堪能出来ますよ。思わせぶりに自演するピアノとオルガンによるイントロからゴスペルピートがグイノリで炸裂する曲展開では、ザ・ハリス・ロビンソン・シンガーズによる熱気溢れるコーラスも良い感じ♪♪~♪ そして気になるシャギー・オーティスのギターは、幾分ジャズっぽいスケールも交えながらの早弾きや細かいリズムへの対処が流石の天才性ですし、フレーズを積み重ねる毎に熱くなっていくナチュラルなノリは、場数を踏んでいることを証明していると思います。

それは続くブッカー・TとMGsでお馴染みの「Double Or Nothing」で更に表出し、温故知新のスタイルとでも申しましょうか、そのギターから弾き出されるソウルフルな歌心満点のフレーズやリズムの刻み、あるいはリフの使い方の上手さは、とても15歳の少年とは思えないキャリアを感じさせるでしょう。

実際、同じ年代のサイケおやじは、既にギターはちょっぴり弾けるようになってはいたものの、未だ「エレキは不良」という世間の常識によって手にすることは出来ず、ようやく高校生になってエレキを抱いた時でさえ、とても追いつける世界ではありませんでした。

まあ、当然の話なんですが、それにしても!!?!

ですから3曲目になって突如ニューロックに突入する「One Room Country Shack」でのジミヘン調ギタープレイが、尚更に凄みを感じせます。ちなみに、この演目はモーズ・アリソンが広めた古い伝承歌と言われていますが、それをワウワウや疑似シンセで彩るというアレンジと多重録音駆使のプロデュースは、これまたアル・クーパーでしか許されない禁じ手かもしれませんねぇ。私は好きです。

そしてこれがアルバムのハイライトになった懐メロR&Bカパーの「Lookin' For A Home」は、本当に絶品! 胸キュンの曲メロを増幅させたアレンジも秀逸なんですが、とにかく甘くせつない語り口が冴えまくりというアル・クーパーの歌いっぷりが、最高なんですねぇ~♪

ちなみにオリジナルは黒人ディープソウル歌手のエディ・リトル・バスターが代表曲として人気も高いんですが、サイケおやじはアル・クーパーのバージョンが断然好きなんですよ。それはアル・クーパーの泣き節もさることながら、シャギー・オーティスのギターが伴奏&間奏で素晴らしすぎるんですよっ! そのハードなフレーズ展開の端々から滲み出る生粋のソウルフィーリングが、たまらんですねぇ~♪ 個人的は、このギターソロをコピーすることが人生の命題と思い込んでいた時期もあったほどです。

もちろんアル・クーパーのベストカセット、あるいは私的コンビレーションを編む時には必ず入れるほど気に入っていますし、とにかくこれは全世界の皆様に、お楽しみいただきたい名唱名演!

と、思わず力が入ったところでレコードをB面にひっくり返せば、そこは副題どおりに「The Blues」のゴキゲンなインストセッション♪♪~♪ まさに当時の「お約束」というブルースロックな世界が堪能出来るわけですが、そこはアル・クーパーのプロデュースですから、一筋縄ではいきません。

裏解説にある本人の言によれば、深夜の一発録りらしいのですが、自由に弾きまくるシャギー・オーティスはそうだったとしても、アル・クーパー以下バックの面々は案外ときっちり道筋を守っている感じです。

また「Shuggie's Old Time dee-di-lee-di-leet-deet Slide Boogie」は、意図的にSPレコードのような音質とSEを駆使した「造り物」で、これは好き嫌いがあるでしょう。

しかしスローブルースがど真ん中の「12:15 Slow Goonbash Blues」では、クビグビ唸るアル・クーパーのオルガンやマーク・ナフタリンのピアノが定型を脱していないのとは逆に、それを忠実に守ろうとしつつも意想外の若さを表出してしまうシャギー・オーティスが、なかなか憎めません。

う~ん、熱いぜっ!

そして快適なシャップルビートでノリまくったオーラスの「Shuggie's Shuffle」が、これまた気持良いです♪♪~♪ まさに教則本的なフレーズを連発しながらも、そこは天才少年の面目躍如がバッキングの上手さに証明されているんじゃないでしょうか。アル・クーパーも、そのあたりを百も承知の余裕というか、所謂大人の対応が好ましです。

ということで、特にB面ばかりに期待すると、これは前述の「スーパー・セッション」や「フィルモアの奇蹟」と比べて小粒と言わざるをえません。リアルな緊張感も足りませんし、なによりもシャギー・オーティスの「青さ」が目立つと思います。

しかし繰り返しますが、当時は弱冠15歳!

それでここまでやってしまう才能は、やっぱり凄いんですよねぇ。

特にA面での歌伴プレイの上手さ、それに合わせた歌心充実のギターソロ、そして時には過激な若さの発露が、絶対に侮れないはずです。アル・クーパーも、その点には合格点を与えんたんじゃないでしょうか。

しかし、このアルバムは、その話題性とは逆に評価は高くないのが現実のようです。

さらにアル・クーパーの芸歴を鑑みれば、このLPの前後には傑作ライプ盤「フィルモアの奇蹟」と自身初のソロアルバム「アイ・スタンド・アローン」が続け様に制作され、また発売時期も立込んでいましたから、そんな相乗効果というか、今となっては聴かず嫌いにされた1枚といって過言ではないのかもしれません。

そのあたりの事情の中では、サイケおやじにしても運良く、発売当時に例え一度だけでも聴けたことがあった所為で、その後に現物をゲットしようという衝動が続いたわけですし、残念ながら我国の洋楽ファンの間では結局ブレイクしなかったシャギー・オーティスのその後を思えば、所謂運命論者になる自分を感じるほどです。

それでも、とにかくこのA面だけは、決して聴いたことを後悔しないほとです。

これは断言しても良いんですが、まさにリアルタイムのロックが記録されたドキュメントでもあり、また偏愛盤になる可能性が絶大の1枚でしょう。

皆様には、ぜひともお楽しみいただけるよう、祈念するばかりです。

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