OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジェリー・ドリスコールの素敵な横顔

2009-06-29 12:09:19 | Rock Jazz

Open / Julie Driscoll &  Brian Auger (Marmalade)

ブライアン・オーガーはイギリスでロックジャズやキーボードロックをやり続けてきた偉人だと思いますが、ようやく近年になって我が国でも人気が出たのは嬉しいところです。

私がブライアン・オーガーを知ったのは昭和44(1969)年でしたが、告白すればブライアン・オーガーが先ではなく、ジェリー・ドリスコールという女性歌手を通じてのことでした。

それは彼女が歌う「Tramp」というR&Bのスタンダード曲をラジオの洋楽番組で聴き、その真っ黒な歌唱に完全KO! 早速翌日、レコード屋へ行って、またまた仰天! なんとジェリー・ドリスコールは白人だったという衝撃は、今も鮮烈な記憶になっています。

そして横揺れしながら、しかし強烈なロックビートを生み出すバックの演奏が、ブライアン・オーガーが率いるトリニティというバンドだったんですねぇ~♪

しかも気に入った「Tramp」には完全にアメリカ南部風味が濃厚なホーンセクションまでもが付いていたんですから、たまりません。ちょうどブッカー・TとMG's のようなトリニティの演奏は、それ以上にジャズっぽい味わいもサイケおやじの好むところでした。

とは言え、その時にはレコードを買うことが出来ませんでした。

何故ならば、その「Tramp」はシングル盤が出ておらずLPだけだったんですねぇ……。

こうして悔しい気持ちを抱えつつ、時が流れました。その間、ブライアン・オーガーはアメリカでも人気が出ていましたし、1970年代からのクロスオーバーやフュージョンのブームがあって、そのキーボードを主体とした演奏は「キモチE~♪」ものの代名詞となり、さらに近年のレアグルーヴとかモッドなんて呼ばれる流行にもジャストミートしていたらしく、ブライアン・オーガーの人気は定着していくのですが……。

肝心のジェリー・ドリスコールは様々な芸能界的な問題から、ついに大ブレイクすることがありませんでした。

さて、本日ご紹介のアルバムは前述した中学生のサイケおやじをシビレさせた「Tramp」が入っているジェリー・ドリスコールのデビューアルバムで、当然というか、リアルタイムの日本盤よりは遥かに素敵なデザインが最高のイギリス盤です。

そして実はこれを入手したのは1974年だったんですが、またまた驚いたことにA面がブライアン・オーガーのリーダーセッション、そしてB面がジェリー・ドリスコールの歌をバックアップするブライアン・オーガー&トリニティという構成になっていたのです。

 A-1 In And Out
 A-2 Isoal Natale
 A-3 Black Cat
 A-4 Lament For Miss Baker
 A-5 Goodbye Jungle Telegraph

 ブライアン・オーガーはイギリス生まれの白人ですが、そのオルガンスタイルはズバリ、ジミー・スミスです。どうやら最初はホレス・シルバーに熱中してモダンジャズのピアノを弾いていたらしいのですが、ちょうどイギリスでブームになっていた黒人ブルースやR&Bにも傾倒し、ついにジミー・スミスに邂逅してからはハモンドオルガンをメインに演奏するようになったそうです。
 当然ながら、そうした活動はイギリスでも当時は珍しかったそうですが、実際の仕事としてはロッド・スチュアートの下積み時代として有名なスティームパケットと名乗る一座に入って注目され、そこで一緒だったのが、ジェリー・ドリスコールでした。
 そしてイギリスでは広くコネクションを有するジョルジオ・ゴメルスキーという興行師に見出されるように、ブライアン・オーガーはトリニティという自分のバンドを結成し、同時にジョルジオ・ゴメルスキーが契約したジェリー・ドリスコールのバックバンドとなるのですが……。
 このあたりの経緯には諸説があり、一概に書くことは出来ません。
 ブライアン・オーガーにしてみれば、あくまでも自分が主役と思っていたら、実はジェリー・ドリスコールばかりが売り出されて腐っていたとか……。
 で、そんなこんながあって作られたデビューアルバム「Open」が、ジャケットの表にジェリー・ドリスコール、しかしレコードのA面はブライアン・オーガーという構成になったのはムべなるかな、しかも曲間には様々に工夫した効果音が入れられた疑似トータルアルバムになっているのも意味深だと思います。
 肝心のトリニティの演奏はモダンジャズがモロ出し!
 メンバーはブライアン・オーガー(org,p,arr,vo)、ゲイリー・ボイル(g)、デヴィッド・アンブローズ(el-b)、クライヴ・サッカー(ds) という4人を中心にビックバンド風のオーケストラが加わっていますから、言うなればジミー・スミスとオリバー・ネルソン楽団の共演作品のような趣があります。
 4ビートで痛快にスイングする「In And Out」、ボサロックな「Isoal Natale」と続く2連発にはモード手法も当たり前に使われ、ブライアン・オーガーのオルガンの素晴らしさにはイノセントなジャズファンも満足させられるはずです。
 また当時は高校生だったと言われるゲイリー・ボイルのギターがオクターブ奏法から過激な早弾きまで、全く見事! 後年の大活躍を鑑みれば、我が国の渡辺香津美とイメージがダブってしまいますねぇ~♪
 そしてブライアン・オーガーの些か暑苦しボーカルが空回りしたような「Black Cat」はご愛敬かもしれませんが、オルガンのアドリブは地獄の炎! さらに一転してシンミリしたピアノが印象的な「Lament For Miss Baker」のビル・エバンスっぽい味わい深さも絶品だと思います。
 ただし「Goodbye Jungle Telegraph」は自意識過剰というか、妙なアフリカ趣味が??? 当時の流行だった新しいジャズの試みとしては秀逸かもしれませんが、フリーなサックスやフルートは……。
 
 B-1 Tramp
 B-2 Why
 B-3 A Kind Of Love In
 B-4 Break It Up
 B-5 Season Of The Witch / 魔女の季節

 さてB面は既に述べように、ジェリー・ドリスコールをメインにしたR&Bのロックジャズ的な展開が最高に楽しめます♪♪~♪
 まずは「Tramp」の熱いフィーリングにグッと惹きつけられ、ビックバンドをバックにした「Why」の気だるいムードが、エグ味の強い彼女のボーカルで煮詰められていく心地良さは、完全にヤミツキになるほどです。
 ただし続く「A Kind Of Love In」は大袈裟なオーケストラが??? まあ、これも当時の流行だったのかもしれませんねぇ……。シャーリー・バッシーでも意識したんでしょうか?
 しかし「Break It Up」のグルーヴィな歌いっぷり、強靭なトリニティの演奏とのコラボレーションには溜飲が下がります。スキャットボーカルによるピアノとのアドリブの応酬が痛快至極! 全く短いのが勿体無い! ブライアン・オーガーのピアノが低音打楽器奏法でゴリゴリと迫ってくれば、ジェリー・ドリスコールがエッジの鋭い唸りで応戦するという、実に最高の瞬間が楽しめますよ。
 さらにオーラスの「魔女の季節」はご存じ、サイケフォークのドノバンがオリジナルの名曲ですが、それをモダンジャズとサイケデリックブルースの美しき化学変化に仕上げた傑作バージョンが、これです♪♪~♪ 実際、この「魔女の季節」という素材は、当時のジャズロックやニューロックでも頻繁に演奏されていたわけですが、ここでのブライアン・オーガーのジャズを愛して、ニューロックも視野に入れた姿勢は特筆すべきだと思います。
 もちろんジェリー・ドリスコールも、気だるいセクシームードとグイノリのR&Bフィーリングを存分に活かした熱唱が眩いばかり!

ということで、これは個人的な愛聴盤ではありますが、最近は相当に多くの皆様にもファンがいらっしゃるはずと、推察しております。

ちなみにジェリー・ドリスコールは当時、歌手としては売れずにヤードバーズのファンクラブを手伝ったり、いろんなアルバイトをやっていたそうですが、やはり美貌と歌手としての才能は周囲が放っておくはずもなく、ブライアン・オーガーと組んだ巡業は苛烈を極めるほどの評判になります。

しかし、またそれゆえに芸能界的なあれこれも当然あったようで、トリニティとのコラボレーションはアルバムをもう1枚、それにシングル曲と未発表テイクを幾つか残した後、心身ともにボロボロになってリタイアしています……。

またブライアン・オーガーにしても、契約では自分のリーダーセッションのはずが、出来あがってみれば脇役扱いだったことから激怒! 結局、マネージャーのジョルジオ・ゴメルスキーに直談判の末に、次作のアルバムはジャズ色が極めて濃いセッションとなりました。

そして以降、ブライアン・オーガーは自己のバンドをメインにイギリスばかりでなく、アメリカでもブレイクしたというわけです。

最後になりましたが、このトリニティというバンドはドラムスもベースも、なかなか黒っぽい部分に加えて、ロック魂もなかなかイケてます。おまけに4ビートもシャープですし、最近の再評価は、それゆえかもしれません。

残念ながら、このバンドは1970年末には解散を余儀なくされ、ブライアン・オーガーは新たにオプリヴィオン・エクスプレスという、さらにジャズ寄りのグループを結成するのですが、そこでは些かロック風味が薄まってしまった印象もあることから、トリニティの存在感は私の中で尚更に大切なのでした。

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