■Nine To The Universe / Jimi Hendrix (Polydor)
現在、巷で大いなる話題のジミヘン驚異の新作(?)アルバム「ピープル、ヘル&エンジェルズ」は、確かに凄い!
まあ、そんなふうに思い込んでいるのはサイケおやじだけかもしれませんが、とにかく車の中じゃ~、ほとんど鳴りっぱなしという現状は、周囲の迷惑考慮せず!
そんな困った顰蹙おやじの典型をやっています。
で、本来であれば、それを書けばいいんでしょうが、その前にど~しても触れておきたいのが、掲載のLP「ナイン・トゥ・ザ・ユニバース」です。
A-1 Nine To The Universe (1969年5月29日録音)
A-2 Jimi / Jimmy Jam (1969年3月25日録音)
B-1 Young / Hendrix (1969年5月14日録音)
B-2 Easy Blues (1969年4月24日録音)
B-3 Drone Blues (1969年4月24日録音)
ご存じのとおり、ジミヘンの急逝以降、契約レコード会社が「公式」という錦の御旗で未発表音源から仕立て上げたアルバムを様々に出していた事は、1970年代ロックの歴史でもあったわけですが、一方では天才の下積み時代の音源が様々な大儀名分の下に出回っていたのですから、ファンや信者にとっては泣き笑いの現実がありました。
中でも賛否両論だったのは、ジミヘンが心ならずも未完成にしていた音源にレコード会社側が勝手にスタジオミュージシャンを起用してのダビングを施したフェイク盤、例えば1975年に発売されたLP「クラッシュ・ランディング」がバカ売れしてしまった異常事態でしょう。
今日では、それを否定するのが一般常識になってはいるのですが、リアルタイムではウケまくった事実がある以上、ある意味では素直にそれを認めるのも、サイケおやじは吝かではありません。
と言うよりも、本音を吐露すれば、「クラッシュ・ランディング」には、なかなか気持の良いロック的快感が確かにあると思うんですよ。
ところが、それに浮かれたレコード会社が、続けて同じ手法による「ミッドナイト・ライトニング」を出したあたりから雲行きが怪しくなりました。
つまり、それは呆れかえるほどの失敗作で、どんなに贔屓目に聴いても、ジミヘンが残した明らかに不十分な原材料へ強引に新規ダビングを施したのは、愚行愚策としか感じられません。
なにしろ元ネタのテープスピードが一定していないところさえあるのですから、流石に凄腕のスタジオミュージシャン達にしても、労多くして、なんとやら……。
それはアナログ時代でしたから尚更だったと言えば、ミもフタも無いんですが、しかし現代の最新デジタル手法を用いたとしても、選んだ素材や企画そのものに無理があったというのが結論でしょう。
当然ならが世評も芳しくなく、件のLPは一時期、中古屋に溢れかえっていた事も、はっきり記憶しているほどですし、ほどなく廃盤になった事は言うまでもなく、以降のジミヘン発掘商売は、少なくとも真っ当なレコード会社では中断された感がありました。
ですから、本日ご紹介の「ナイン・トゥ・ザ・ユニバース」が1980年に突如として発売された時も世間の風は冷たく、ひっそりしていたんですよ。
しかし実際に針を落して、吃驚仰天!
ガッツ~~~ンっと後頭部を殴られたような衝撃が忽ち全身をシビれさせたほど、そこはジミヘンのギターが炸裂しまくった激ヤバ世界で、こんな地獄があるもんかぁ~~~~~♪
心底、茫然とさせられましたですねぇ~~~~♪
そこであらためて裏ジャケ掲載のデータ等々を確認してみると、演奏の基本メンバーはジミヘン(g,vo) 以下、ビリー・コックス(b) にミッチ・ミッチェル(ds) ではありますが、トラックによってはバディ・マイルス(ds)、ジム・マッカーティー(g)、ラリー・リー(g,vo?)、ローランド・ロビンソン(b)、そしてラリー・ヤング(org) 等々の名前が!?!?
特にラリー・ヤングは当時、最も先鋭化していたモダンジャズのオルガン奏者として、マイルス・デイビスのレコーディングやトニー・ウィリアムスのライフタイムに参加していた俊英ですから、前々から噂になっていたジミヘンと本格派ジャズミュージシャンの共演が、ついに公になった記録です。
それがB面ド頭、10分を超えるジャムトラックの「Young / Hendrix」で、如何にも「ビッチェズ・ブリュー」なリズムパターンを用いつつ、お互いの腹の探り合いを含んだジミヘン対ラリー・ヤングは疑似名勝負でしょう。
と書いてしまったのも、やはりこれはジャム、あるいはリハーサルの段階でしかありえない、場あたり的な感じが強く、裏を返せば、何かとんでもない期待を抱かせたままに終ってしまうところが、恐ろしいとしか言えません。
う~ん トラック終盤で例の「Here My Train A-Comin'」のフレーズを用いたジミヘンの情念が熱いっ!
もちろん、これは後に出た4枚組ボックスセット「ウエスト・コースト・シアトル・ボーイ」に倍近い長尺バージョンが入れられ、さらに危険な予兆に接する事が出来るわけですが、リアルタイムでは、ここに聴かれるだけで充分過ぎるほどでした。
また、直後にカクタスに参加するジム・マッカーティーとのジャムセッションから作られた「Jimi / Jimmy Jam」は、これまた後にカクタスに参加するローランド・ロビンソンのアグレッシヴなペースプレイもあって、何度でも聴きたくなりますよ。
その意味で、4ビートで演じられる「Easy Blues」が本当に凄くなってきたところで終ってしまう編集には完全に???
ですから、同曲が前述の新譜「ピープル、ヘル&エンジェルズ」に新ミックスのロングバージョンで収録されているのは朗報ですし、こちらの初出バージョンに馴染んだ煮え切らなさ(?)に思わず有難味を感じてしまうのは、苦笑いでしょうねぇ~♪
そして「Drone Blues」で炸裂するワウ&ファズの響きこそ、ジミヘン永遠の存在証明! ナチュラルディストーション(?)との兼ね合いも実に良い感じなんですよっ!
さて、肝心のアルバムタイトル曲「Nine To The Universe」については、う~ん、なんと申しましょうか、ビリー・コックスとバディ・マイルスを率いたバンド・オブ・ジプシーズによる凄まじい演奏でありながら、ほとんどヤケッパチとしか思えないジミヘンのプレイが逆に虚しいと述べれば、許される発言ではないでしょう。
ただし、それを自覚していても尚更に感じるのは、当時のジミヘンの「もどかしさ」なんですよ……。
不遜にも後の天才の最期を知っているだけに、何か「生き急ぎ」しているとしか思えないのですが、いかがなものでしょうか。
ということで、しかし我々はジミヘンに感謝の念を忘れてはなりません。
透き嫌いは十人十色でしょうが、これだけ熱くさせられるミュージシャンは、そんなにはいないでしょう。
ですから本人が天国へ召された後になっても、新譜は常に渇望され、例えそれが疑問符付きであったとしても、最初は我知らず謹聴してしまうのが自然の成り行きなのです。
正直に告白すれば、この「ナイン・トゥ・ザ・ユニバース」が出た頃のサイケおやじは、パンクやテクノやニューウェイヴに荒らされ、また産業ロックと称された「事なかれ主義」の洋楽には辟易し、オールディズやモダンジャズ周辺に逃避していたんですが、図らずもその類に入っていたジミヘンの新発掘音源によって、前向きなロック魂を取り戻すことが出来たような気がしたものです。
それは例によって、サイケおやじが得意の大袈裟かもしれませんが、本人はすっかり「その気」になっていたんですよ。
まあ、そんな事も含めまして、このアルバムには思い入れも強いですし、またまた熱くさせられた「ピープル、ヘル&エンジェルズ」を聴きまくってはいても、忘れられない1枚というわけです。
最後になりましたが、ジミヘンのレコーディングに関するデータは日進月歩といていうか、常に訂正が頻繁にあって、どれが正当なのか、サイケおやじには見当もつきません。
この「ナイン・トゥ・ザ・ユニバース」収録の各トラックにおける演奏メンバーや録音年月日についても、とりあえずLP裏ジャケのデータに基づいた記述に致しましたが、それもどうやら誤認とされていますので、ご注意下さいませ。
ただし、そのあたりに拘る以前に、ジミヘンのエネルギーには圧倒されるんですけどねっ!
毎度、コメントありがとうございます。
ボウイの新譜も素晴らしいのですかっ!
よろしければ、感想をお聞かせ下さい。
お尋ねの「サウス・サタン・デルタ」は基本、アウトテイク集で、アナログ盤LP「ルーズ・エンド」あたりの拡大版という趣でしょうか。
一方、新譜の「ピープル、ヘル&エンジェルズ」も当然ながら未発表テイク&バージョン集ではありますが、音質の統一性が図られているのが好印象なんで、とりあえずこちらを先にオススメ致します。
些かネタばらしになりますが、ロニー・ヤングブラッドとの共演トラックは強烈に激しいジミヘンが!!
未発表音源ということでいうと「South Saturn Delta 」の方も気になっているのですが。どちらがお勧めでしょうか?
ジャケ写的には、おしゃれさんより、ダサ・ファッションのジミの方が似合っていると思うのですが。
そういえば、デビット・ボウイの新作「The Next Day」、相当良いようですよ。こちらも、入手しようと思います。