OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

緊張、痛快、ドキドキ、ヒヤリ、そして和み♪

2006-03-21 15:53:18 | Weblog

今日はイケイケ、ゾクゾク、ヒヤリ、グェッ、ヤッタ~♪ バンザ~イです♪

いやぁ~、WBCで日本が世界一! 本当に熱くなりました。そして爽快な疲れが、ということで、本日の1枚は和みのこれを――

Line For Lyons / Favrizio Bosso meets Gianni Basso (Philology)

若手では実力世界一のイタリア人トランペッター=ファブリッォ・ボッソとベテランのテナー奏者=ジャンニ・バッソが、ジャズの歴史上名高いコンビのチェット・ベイカー&ジェリー・マリガンに挑戦したアルバムです。

録音は2005年4月6日という新録音物、もちろん演目はそれにちなんだものばかりで、メンバーはボッソ&バッソをフロントに、リズム隊は没個性派のアンドレア・ポッザのトリオが努めていますので、全体にツボをしっかりと掴んだ仕上がりになっています。

01 Line For Lyons
 オリジナル演奏の雰囲気を大切にした穏やかモードの仕上がりで、和みます。とにかく全員が力んでいないのが好印象です。特にジャンニ・バッソは余裕の極みで、こういう人を聴くとハリー・アレンとかスコット・ハミルトンの存在が???になってしまいます。

02 My Fanny Valintine
 チェット・ベイカーのあたり曲にファブリッォ・ボッソが果敢に挑戦しています。もちろんボーカルではなく、トランペット1本で迫りますが、ジャンニ・バッソがベテランの味で好サポート♪ ですからここでも、和みが前面に出ていますが、ファブリッォ・ボッソは一瞬の高速フレーズを交えて健闘しています。

03 Song For Strayhorn
 これも和みの曲の極みというか、アンドレア・ポッザの絶妙なイントロに導かれたジャンニ・バッソのテナーサックスが最高の歌心を聞かせます。これはストレートにテーマを吹奏しているだけなのですが、その節回し、その「間」の取り方、そしてふくよかな音色の素晴らしさで、完全KOされていまいます。アンドレア・ポッザのピアノも存在感の薄さを逆手とった透明感が魅力になっています。

04 Love Me Or Leave Me
 お待たせしました、ここでようやく演奏のテンポがあがって、明るく楽しい雰囲気が全開していきます。この曲もマリガン&ベイカー組が十八番にしていたスタンダードですが、ここでの演奏もそれに負けない歌心が満喫出来ます。
 まず先発でファブリッォ・ボッソがベテランの味を発揮すれば、続くファブリッォ・ボッソは溌剌としていながら、味わい深いアドリブを展開していきます。もちろん高速フレーズ、ハイノートも炸裂! リズム隊もスマートな好演です。

05 The Nearness Of You
 再びバラードの時間ということで、ここではファブリッォ・ボッソが一人舞台でソフトな情感を表現しています。それはややハスキーな音色を駆使しての丁寧な吹奏ですが、これは意図的なもので、徐々に艶やかな音色に変化していくあたりが流石です。さらにピアノソロを挟んでの後半では天才的なテクニックと歌心を見事に融合した名演となって、本当に身も心も酔わされてしまいます♪ あぁ、いつまでも聴いていたなぁ……♪

06 The Lady Is A Tramp
 いきなりジャンニ・バッソが快適なテンポでテーマ吹奏からアドリブに入っていくあたりが、まず痛快です。そして続くファブリッォ・ボッソはミュートを付けての、これも快演! やや粘りが足りない気も致しますが、そこが如何にも白人らしいといえば、そのとおりです。それよりもここではリズム隊の素晴らしさに注目して聴きなおすと、楽しさが一段と増すようです。ホーン2本の絡みも爽やかに絶妙です。

07 Estate
 近年、急速に人気が出てきたラテン系の哀愁曲が、ここでも定石どおりジックリと料理されています。 まずテーマを吹奏するファブリッォ・ボッソの素晴らしさにKO状態♪ ピアノのアドリブを挟んでのラストテーマの展開も絶品です!

08 If You Could See Me Now
 ピアニストのアンドレア・ポッザが独壇場のソロを聞かせてくれます。何度か書いていますが、この人は没個性が個性という非常に得な存在感があって、それが安らぎを与えてくれるのでした。

09 Time After Time
 個人的にとても好きなスタンダード曲を、ジャンニ・バッソがベテランの味でリードしながら演奏してくれますので、もう私はここで悶絶です。なにしろこの人のスタイルはコルトレーンなんて、知らないねぇ~♪ という保守伝統派で、それはレスター・ヤング&コールマン・ホーキンスの良いとこ取りの素晴らしさです。
 続くファブリッォ・ボッソもミディアム・テンポのノリを壊さない歌心を発揮して、なおかつ、溌剌とした輝きを聞かせてくれるのですから、最高です。

10 My Foolish Heart ~ If You Could See Me Now
 ジャンニ・バッソとアンドレア・ポッザが、これぞテナーサックスとピアノのデュオの見本という素晴らしい演奏を聞かせてくれます。醸し出されるこのムードには、もはや何人もつけ入るスキがないでしょう。それほど充実した時間が、たったの5分41秒! 至福の時間の短いことが残念ではありますが♪

ということで、このアルバムはド派手な演奏はありませんが、そのムード、その和み、そしてその歌心の完成度というあたりは、自宅で好きな酒でも嘗めながら、じっくり浸る私的な時間にぴったりの逸品です。

これは前述したように新録音物ですが、あぁ、現代でもこういうジャズが演奏されているんだなぁ♪ という快感も味わえるのでした。ちなみに同一企画のアルバムが、同じメンツでもう1枚出ているので、それも入手しようと決意しております。

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突指御免

2006-03-20 17:38:43 | Weblog

イテテテ……、突き指してキーボードが叩けないので、本日の1枚はお休みさせて下さい。実際はたいした事はないんですが、湿布が大袈裟なんで、トホホです。

う~ん、歳かなぁ……。明日はとりあえず、WBC観てすごします♪

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超越的盛り上がり♪

2006-03-19 20:03:49 | Weblog

やった~ぁ~♪ WBCはついに韓国に圧勝して決勝進出です! う~ん、一時はどうなることかと思いましたが、先日の冬季五輪の荒川静香的な興奮が蘇えりましたねぇ~♪ こうなれば、もう、大団円の大爆発を期待してしまいますが、実は私は、もう満足しています。

それにしても、日本でここまで盛上がるとは誰が予想していたでしょう。

ということで、本日はそんな1枚を――

Alone Together / Dave Mason (Blue Thumb)

近年、メキメキと評価を上げていると、私が勝手に思っている名盤です。いや、裏名盤かなぁ……。まあ、それはさておき、とにかく私は生涯、聴き続けるに違いないアルバムです。

その内容は、スバリ、スワンプ・ロック! しかもその最初の完成形でしょう。主役のデイブ・メイソンは英国の実力派ゴッタ煮バンド=トラフィックに在籍しながら、出たり入ったりの問題児でしたが、何故かトラフィックには欠かせない人気者という扱いでした。その秘密は素晴らしい作曲能力です。実際、トラフィックといえば天才の称号が与えられているスティーヴ・ウィンウッドが一番目立つと思いきや、私にとってはデイブ・メイソンが作った曲の方が好みでした。

ですから、このアルバムは私の感性にジャストミートの1枚です。もちろん全曲がデイブ・メイソンのオリジナルです。そして主役を支えるメンバーはレオン・ラッセル(key,g)、ジョン・サイモン(key)、ラリー・ネクテル(p)、カール・レイドル(b)、ジム・ゴードン(ds)、ジム・ケルトナー(ds)、デラニー&ボニー(vo) 等々の他、西海岸派&スワンプ系の腕利きが書ききれないほど参加しています。そして録音されたのは1969年の夏~秋、発売は1970年ということは、当時ジワジワと盛上がっていたスワンプ・ロックの決定打になるはずだったのですが、実はリアルタイムではほとんど話題になることがなかったと思います。

しかし内容は素晴らしい♪ それは――

A-1 Only You Know And I Know
 いきなりズバッと始まる生ギターのコード弾きから躍動的なリズム隊のキメ、さらにルーズにカッコ良いエレキギターのイントロ、そして若干オトボケ気味のデイブ・メイソンのボーカルが、仄かに脱力していて、もう、最高です。
 この生&エレキギターの組み合わせは、後のドゥビィー・ブラザースのノリにパクられていますが、元祖・本家はこの曲でしょうね。とにかく豪快なカッティングとオカズの入れ方が、最高にツボです。もちろん強烈にドライブするベースとドラムスのコンビネーションも♪ まずは聴いていただければ、虜になりますよ♪

A-2 Can't Stop Worrying, Can't Stop Loving
 複数で絡む生ギターの響きが心地良い出だしから、当にメイソン節全開のメロが素敵な曲です。しかもドラムスとベースが、かなり重たいビートを弾き出しているので、安易に甘い方向には流れていません。しかし、それでも和んでしまうのはデイブ・メイソンの人徳? はっきり言って、好きです。

A-3 Waitin' On You
 とにかく思いっきりスワンプ・ロックしています。それは力んでなお、脱力のボーカルと熱い女性コーラスの絡み、重いビートのリズム隊、さらに伝統を大切にしたロック&ブルースなノリがミソになっています。
 ちなみに元ネタは夭折した1950年代の天才ロッカーであるバディ・ホリーなんですが、それと知ってか知らずか、この曲のノリ&展開は当時の日本のロック・バンドがさかんにパックています。例えば伊藤銀次の「日射病」とか、聴いてビックリの似たものどうしですよ。おぉ、そういえば、今回の紙ジャケ再発の日本語ライナーは伊藤銀次! 

A-4 Shouldn't Have Took More Than You Gave
 これなんか、全くトラフィックそのものという曲で、私は大好きです。実際、再結成のステージでは演じていましたですね。この幻想的でありながら、どこか土の香りが漂ってくるのが、デイブ・メイソンの持ち味のひとつです。ここではワウワウのギターが全篇を支配するんですが、リズム隊の重いノリは、完全にサイケロックとは違う、土着的なものを作り出しているのでした。

B-1 World In Changes
 マイナー調のメロディが冴える人気曲ですが、やや型にはまった展開が個人的にはイマイチです。後半のオルガン・ソロからの盛り上がりもクライマックスでフェードアウトするのでした。

B-2 Sad And Deep As You
 これもトラフィックの影を引きずった名曲です。清々した生ギターとピアノ響き、達観したかのようなデイブ・メイソンのボーカルが最高です。聴いているうちにキース・ジャレットが演奏しているのではないか? という錯覚に陥るほどで、ぜひカバーして欲しいですねぇ~♪

B-3 Just A Song
 これも1970年代の日本語ロックの元ネタのひとつという裏名曲です。ここではバンジョーを入れたカントリー・ロック仕立ですが、コーラスの重ね方や重いビートのジャズっぽさは、後のイーグルスに繋がるものが感じられます。

B-4 Look At You At Me
 最後を飾るのは力強い1970年代ロックそのものという曲です。オルガンとギターのキメやその後のギター・ソロという展開がお約束の楽しさになっています。
 デイブ・メイソンのギターは若干、センが細く、それゆえに泣きもありますが、いつも同じようなフレーズしか弾かないということで、それほど凄いギタリストではないんですが、味だけは天下一品です。
 それとこのアルバムで確立しているアコギのリズムギターにエレキのソロとキメという奥の手は、CS&Nのスティーブン・スティルスと共通していますが、この曲あたりは、それが一番感じられます。

ということで、実はこのアルバムはエリック・クラプトンのソロ第1作目の雛形でもあります。それは聴いていただければ、すぐにご理解いただけると思いますが、出来は圧倒的にこちらが上と、私は強く思っています。ただし、クラプトンのアルバムも別の意味で、私は大好きなのです。

あと、この作品は曲毎の出来の素晴らしさに加えて、全体の流れも上手く仕上がっています。そしてジャケットの魅力も大きく、オリジナル・アナログ盤は三つ折にカンガルー・ポケット、さらにデイブ・メイソンの顔が大きなハンガーになるという、凝ったものでした。それが今回、紙ジャケ仕様のCD復刻でミニチュアながら見事に蘇えっておりますので、ぜひともご確認下さいませ♪ あぁ、紙ジャケはやっぱり良いなぁ~♪

そして私の車には常時装備の1枚です。初期ドゥビィー・ブラザースあたりが好きな人にもオススメ致します。おそらく初っ端の1曲で完全降伏でしょう。

 

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お宝発掘

2006-03-18 18:10:27 | Weblog

今日は休日だというのにバタバタしてしまったなぁ。狙ったように訪れてくる人、久々に電話してくる人、とにかく朝から今まで人に会いっぱなしの1日でした。

で、ようやく息抜きに聴いたのが――

Koln Concert / Chet Baker (RLR)

ジャケ写はたぶん1970年代のものでしょうが、中身は1955年のライブです! つまりチェット・ベイカー全盛期のもので、しかもこれまで完全未発表だったという超発掘物が入手出来ましたので、ご紹介致します。

メンバーはチェット・ベイカー(tp)、リチャード・ツワージク(p)、ジミー・ボンド(b)、ピーター・リットマン(ds) という4人組の欧州巡業をとらえたもので、録音は1955年10月9日、場所はタイトルどおりケルン! そうです、あのキース・ジャレットの名盤でジャズ者には有名なケルンですよ♪

で、演目は以下――

01 Announcement by Gigi Campi and Chet Baker
02 Exitus
03 Announcement by Chet Baker
04 Tommyhawk
05 Imagination
06 Chet Baker presents Dick Twardik's solo feature
07 Yellow Tango
08 Someone to watch over me
09 C.T.A.
10 My Funny Valentine
11 Announcement : Campi introduce Hans Koller and Willi Sanner
12 Cool Blues
11 I'll remember April
14 Exitus(Theme)/Closing word by C.B.

結論から言うと、音質はまあまあ、と言うか、マニア向けです。ソースになったテープのヨレもありますし、高音質を期待してはなりませんが、しかし普通にちゃんと聴けるものになっています。

肝心の演奏は、なんと言ってもチェット・ベイカーの若々しさが魅力で、もちろんミスもあったりして荒っぽいんですが、なかなか熱いものが迸っています。そしてもうひとつのウリが、今や幻のピアニストと呼ばれるリチャード・ツワージクの参加♪ この人は幻想的なコードワークと鋭いツッコミが特徴で、ここでもその味を存分に発揮しています。中でも「Yellow Tango」はこのピアニストを中心としたリズム隊のみのトリオ演奏で、その不思議な存在感は緩~いラテン調のグルーヴにびったりです。もちろんハードバップの猛烈なスイング感も素晴らしいものがあります。

実はこの人は、このステージの12日後にパリでヘロインの打ちすぎから客死するのですが、そのあたりも含めて、聴いているうちにズルズルと深みに落とされそうになる魔界の演奏とは、このことです。

主役のチェット・ベイカーは初っ端のブルース「Exitus」では色気のある黒っぽさを聴かせ、また「Tommyhawk」や「C.T.A.」ではバリバリのハードバップに挑みます。バックではピーター・リットマンのドラムスが強烈にスイングしており、本当に痛快! リチャード・ツワージクも熱演です。

そして皆様が一番気になるスロー物では、なんと「My Funny Valentine」がトランペットだけの演奏です! しかしあの歌は「Someone to watch over me」で、じっりと……♪

さらにクライマックスというか大団円は、この日のタイバンからハンス・コラー(ts) とウィリ・サナー(bs) が加わってのジャム・セッションで「Cool Blues」と「I'll remember April」の2曲が演奏されていますが、ハンス・コラーがクール・スタイルでなかなか素敵です。

ということで、これはチェット・ベイカーのファンならば必聴の1枚ですが、初心者にはオススメ出来ません。しかし、ジャズの日常的演奏は、こんなものだという、そういう真実は確実に記録されています。つまりスタジオ盤ほどの出来ではないが、アドリブという瞬間芸は、その荒っぽさや出来の悪さまでが魅力なのだという、苦しい言い訳的な仕上がりということです。それが私は好きですね♪

ちなみにこのCDはスペイン盤で、デジパック仕様、ブックレットには当時のお宝写真も掲載されています。

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日本人の心意気

2006-03-17 17:35:43 | Weblog

WBCはメキシコの奮闘とアメリカの自滅によって、日本がどうにか準決勝に進むことが出来ました。とにかく嬉し~い! と素直に喜んでいます。当に正義は勝つ! という昔懐かしいフレーズが出ますね♪ そして今度こそ、韓国に勝って欲しいところです。

そういう気分で聴いた本日の1枚は――

Among Friends / Atr Pepper (Trio / Interplay)

1975年のアート・ペッパー本格的カムバックの報はジャズ者を狂喜させました。しかもその再起を飾るアルバムが、古巣のコンテンポラリー・レーベルから発売されるとあって、ジャズ・マスコミも大々的に盛上がったのは、今でも鮮烈な記憶です。

しかし、発表されたアルバムは賛否両論でした。なにしろそこには、繊細な感覚に満たされた往年のアート・ペッパーでは無く、1960年代のジョン・コルトレーンに毒されたような、すっかり歌心を忘れ、感情に先走った無残な演奏が記録されていたのです。

確かにアート・ペッパーは娑婆との生活から切り離され、反省と自己を見つめる時間が長かったとはいえ、それまでの自分の素晴らしさを放棄してしまうのは愚行と、私には感じられました。あるいは昔と同じでは進歩が無いと看做されるのが嫌だったのか……。

とにかくそれ以降、発表されるアルバムは、ほとんどがコルトレーン流のモードに侵された演奏が主流となり、なんとエルビン・ジョーンズ(ds) と共演したライブ盤まで作ってしまうのです。もちろんそれらは、流石天才! という部分も確かに感じられるのですが……。

そんなこんなの中、1978年末に突如、日本で発売されたのがこのアルバムです。そしてそのあまりの素晴らしさに、ファンは忽ち虜になったのです。メンバーはアート・ペッパー(as)、ラス・フリーマン(p)、ボブ・マグヌッセン(b)、フランク・バトラー(ds) という新旧西海岸派によるワン・ホーン体制で、録音は1978年9月2日とされています――

A-1 Among Friends
 快適なテンポでグルーヴするブルースです♪ とにかくイントロからリズム隊がゴキゲンで、ペッパーも気持ち良くブルースを吹きまくりますが、それはもちろん、ペッパーだけの愁い満ちた絶妙な歌心が溢れ、まず1分52秒目、2分14秒目あたりのスパイラルなフレーズには、往年のファンならずとも、ゾクゾクしてくるでしょう♪
 というように、ここにはファンが待ち望んだ、あのアート・ペッパーが姿を現していたのです。つまりコルトレーンに毒されていないアート・ペッパーです♪
 また久々にジャズを演奏するラス・フリーマンも快調ですし、新鋭のボブ・マグヌッセンとベテランのフランク・バトラーのリズム・コンビネーションも上手くいっています。

A-2 Round About Midnight
 モダンジャズの人気曲をアート・ペッパーが演じるというだけで、ジャズ者には心躍るニクイ選曲ですが、個人的にはあまり好きではありません。何というか、あまにも当たり前な出来になっているような感じます。もちろん、これだけ情感満点な正統派ジャズは、フュージョン全盛期の当時では、誰も出来なかった演奏ではありますが……。

A-3 I'm Getting Sentimental Over You
 アート・ペッパーとラス・フリーマンの名コンビによって1956年に吹き込まれた「The Art Pepper Quartet (Tampa)」で決定的な名演が残されているスタンダード曲の再演という、これも嬉しい選曲です。ここではイントロにちょっとモード風なアレンジが施されているので、最初は嫌な予感に包まれるのですが、テーマを吹奏するアート・ペッパーは唯我独尊に昔を懐かしむノリを聞かせてくれます。
 そしてアドリブ・パートでも十八番のペッパー・フレーズを連発して、聴き手を安心させてくれるのですが、悲しいかな、やはり1956年の演奏にはかないません。まあ、それがあまりにも神がかりだったと言えば、全くそのとおりなんですが、もうこれ以上は皆様の耳でお確かめ願います。ただし、ここでの演奏も捨てがたい魅力があります。

A-4 Blue Bossa
 モダンジャズの人気曲で、タイトルどおりに哀愁のボサ・ロックが演じられます。そしてこういうラテン物はアート・ペッバーの十八番とあって、絶好調のフレーズが、これでもかと溢れ出ています♪
 共演者ではボブ・マグヌッセンが手数の多いノリで技巧派としての面目躍如のソロとバッキングで奮闘していますし、フランク・バトラーも軽快でいながら、要所で重いキメを多用して盛り上げています。

B-1 What Is This Thing Called Love
 これまた1956年にアート・ペッパー&ラス・フリーマン組によって吹き込まれた「Modern Art (Intro)」で大名演が残れさているスタンダードが選ばれました。そしてここでも「A-3」同様、モード風のアレンジが施されていますが、それをものともしないアート・ペッパーが最高です。快調なテーマ吹奏から余人が真似出来ない絶妙なブレイク、そして緊張感溢れるアドリブ・パートの展開が続き、これにはファンならずとも悶絶するでしょう♪ もちろん例のペッパー・フレーズがたっぷりです♪
 このあたりは、当時のアート・ペッパーがキメにしていた、まるっきり豚の鳴き声のようなブキーッという、ファンが一番嫌っている激情のフレーズが出るのではないかという嫌な予感をぶっ飛ばす快演になっています。そしてそんなバカをやらなくとも、アート・ペッパーは時代を超越した最高のアドリブ名人であることが、この演奏を聴くとあらためて痛感されるのでした。 

B-2 What's New
 これもジャズ者には嬉しい選曲ですが、「A-2」同様、やや型にはまった演奏です。しかしその「型」がアート・ペッパーしか持ち得ない素晴らしいものですから、たまりません♪ じっくり聴いて、さらに納得の演奏です。

B-3 Besame Mucho
 これも嬉しすぎる選曲ですが、前述した1956年の「The Art Pepper Quartet  (Tampa)」収録のバージョンが決定的なので、ここでは……? と不安が先立つのも、また事実でした。しかし、これも名演! ウルトラ級の哀愁と押さえた激情の吐露♪ 個人的には甲乙つけがたいところです。とにかく聴いて欲しいとしか、言えません。ラス・フリーマンも快演です♪

B-4 I'll Remember April
 オーラスはモダンジャズでは定番のスタンダードがアップテンポで演じられます。イントロは、これまたモード味になっていますが、そこで思わせぶりを演じたアート・ペッパーが颯爽とテーマ吹奏に滑り込んでいく瞬間が、まず快感です♪
 そして瞬間芸のブレイクからアドリブ・パートに入っては、スピード感と独自のタメを活かした素晴らしいフレーズの連発です。しかも若干、今風というか、モードがかった新しい部分も入れ込んで、それをイヤミ無く溶け込ませた躍動的なところが、これまた快感になっています。これぞ当にアート・ペッパーの真髄です。
 リズム隊も絶好調で、大団円ではドラムスとの対決が用意されていますが、どうしてもアート・ペッパーの凄さに太刀打ち出来ていません。あぁ、聴くたびに感動してしまうこの演奏は、最後にはモードの海に沈みながら消えていくのでした。

というこのアルバムは、当時猛威を振るっていたフュージョンをぶっ飛ばすほどの勢いがありました。ジャズ喫茶でも堂々のリクエスト第1位だったと思います。そしてアート・ペッパーはこれを境にして往年の旋律性を取り戻し、新境地に臨みつつ晩年を過ごしていくのです。

その意味でも、このアルバムは名盤となっていますが、これが日本人によって製作されたことは、なんとも嬉しいことです。

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後のミック・ジャガー

2006-03-16 17:03:53 | Weblog

WBCの日韓戦、またまた嫌な雰囲気でしたね。しかし、それというのも日本に実力が無いと、素直に認めましょう。

で、そんなモヤモヤを吹き飛ばすのが、このアルバム――

12 × 5 / The Rolling Stones (Abkco)

ストーンズのアメリカにおける2枚目のアルバムで、けっこうファンには人気があると思います。その秘密は黒~い雰囲気満点な選曲・演奏に加えて、彼等のオリジナル曲がフォークロックやソフトロック風味になっているという、微妙なアンバランス感ではないでしょうか。

そのあたりは皆様に聴いていただく他はないんですが、今回の紙ジャケ復刻盤は音が抜群に良くなり、おまけに初登場のステレオ・バージョンが収められています。

まず「Around And Around」「Empty Heart」「If You Need Me」の3曲が初登場のリアルステレオ・バージョンになっていました。

そして彼等のオリジナル・インスト曲「2120 South Michigan Avenue」が、なんと1964年の発売当時にドイツ等、一部の欧州の国だけで出回ったロングバージョーンに差し替えられています。おまけにこれも、初登場のリアルステレオ・バージョン! ちなみにこの曲は米国巡業の際にシカゴのチェススタジオで録音したもので、今回のロングバージョンでの最後のギターソロは、ブルースの偉人であるマディ・ウォーターズが弾いているとされています。

またアナログ盤でリアルステレオ・バージョンが出ていた「Confessin' The Blues」が、今回初めてCDで復活しています。

さて、肝心の演奏は、やっぱり黒人音楽に対するリスペクトが強くて、素敵です。そしてこういうのを聴くと、ビートルズというバンドが、如何に当時は変態であったか、よく分かると思います。つまりそれはゴッタ煮音楽であり、対するストーンズはイノセントに黒人音楽を追及していたのですが、しかし、ビートルズの大成功に追従し、それを乗り越えんとするには独自のオリジナル曲が必要と気がついた彼等は、少しずつそのベクトルを強くしていきます。

そんなところがストーンズのバランスの悪さであり、憎めないところではありますが、逆にそれが危ういところで保たれたのが、このアルバムだと思います。その意味で彼等のオリジナルではありませんが、ここに収められた「Time Is On My Side」には、次なるストーンズのステップが如実に感じられると思います。ちなみにこのCDではオルガン・イントロ・バージョンが収録されています。

それとジャケ写にもご注目♪ ミック・ジャガーが一番後ろですよ~♪ なんか、分かる気がしますねぇ。

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ホォ~ンキ、トンク♪

2006-03-15 15:56:29 | Weblog

昨日はホワイトディだとか、なんとかで、すっかりタカラれてしまいました。ネが下心でいっぱいの私としては、もちろん女の子にチヤホヤされるのは嬉しくないはずはないんですが、それは叶わぬ願いで、散財だけが残ったのでした。

そして本日は――

The Rolling Stones Hot Rocks 1964-1971 (Abkco)

ホッホッホォ~、ついにストーズの紙ジャケ盤、出ましたですね♪ 全部買わないと、全ての特典がもらえないという、えげつない商魂に見事にノセられた私は、もうどうにでもしてくれ~、という心境です。

そこで昼メシ時に、とりあえず聴いたのが、この1972年発売のベスト盤ですが、おぉ♪ 最初にCD化されたものと、違っているぞっ! オリジナル・アナログ盤と同じ仕様かと思いきや、それとも違ってんじゃねぇか? というような、これも罪作りな再発のようです。

実は3年ほど前に発売されたリマスターCDは買っていなかったので、それとの聴き比べは出来ないんですが、どうやら今回の復刻は、そのマスターを使っているという情報があります。

で、このアルバムで言えば、まず従来のCDではモノラルに近いミックスにされていた「Honky Tonk Women」が、オリジナル・アナログ盤と同じステレオミックスに戻っていますね。やっぱり例のギターのリフが中盤からホーン・セクションに置き換えられるワザが、ステレオの左右に分かれていかないと、私のようなオールドウェイブな人間はダメです。う~ん、快感♪

それにしても、この調子では全CDとアナログ盤を聴き比べなければ、納まりがつかなくなってきました。これは私が生きている証として、取り組むべき課題!

というのは大袈裟にしても、決意表明としてやるしかないでしょう。

ちなみに、このストーズの紙ジャケット復刻は、なかなか良く出来ています。店頭で見たら、すぐに欲しくなるでしょう。とりあえず、「サタニック」の3Dジャケット盤だけでも、速攻でゲットすることをオススメ致しますが、若干、セコイ雰囲気もただよっています(^_^;

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抱きしめたい♪

2006-03-14 17:36:29 | Weblog

ここ数日、実はビートルズばかり聴いています。それはようやく発売になるアメリカ盤復刻CD第2弾について書くために、いろいろと聞き比べをしているからで、楽しいのをとおり越して、けっこう苦痛の瞬間もあるのですが、やっぱりビートルズは凄いです。

それは強烈なオリジナリティと汎用度の高さが共存しているところで、誰がどんな風に演じても、絶対にオリジナルを越えられないのですが、反面、そのカバー・バージョンにも魅力的なものが多々あるという素晴らしさです。で、これもそのひとつ――

I Want To Hold Your Hand / Grant Green (Blue Note)

1964年に全米、否、世界を飲み込んだビートルズには、常にヒップな音楽としてのモダンジャズも無抵抗ではいられませんでした。つまり忽ちジャズ・バージョンのカバーが次々に演奏・録音されていったのですが、このアルバムもそのひとつです。もっとも、ビートルズ・ナンバーはタイトル曲だけですが♪

メンバーはハンク・モブレー(ts)、グラント・グリーン(g)、ラリー・ヤング(org)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、硬軟とりまぜた不思議な顔合わせ! 録音は1965年3月31日です。

A-1 I Want To Hold Your Hand / 抱きしめたい
 ご存知、ビートルズか世界を制覇するきっかけとなった大名曲にブルーノートの看板ジャズメンが挑戦したというだけで、ジャズ者ならば不安とバカらしさを抱きつつも、聴いてみたいという心境でしょうか?
 で、その内容は、完全にボサノバ調にアレンジされたラウンジ系の仕上がりになっています。特にラリー・ヤングのオルガンが、何時もとは逆に涼しいこと♪ グラント・グリーンのギターも黒さを押さえて、淡々とメロディをフェイクしていくテーマ処理がたまりません。
 しかしアドリブ・パートでは何時ものペースを取り戻しますが、何となくウェス・モンゴメリーやジョージ・ベンソンのフレーズが出てくる瞬間があり、それゆえに楽しくなってしまいます。またハンク・モブレーがイナタイ雰囲気で、独特の歌心を聞かせてくれるので憎めません。
 おまけに聞き逃せないのが、エルビン・ジョーンズの重量感溢れるドラムスです。ボサ・ビートをさらにポリリズムに変換していくあたりは、ひとりジャズ魂を守り抜く根性の表れでしょうか。

A-2 Speak Low
 モダンジャズでは定番のスタンダードを、ここではなかなか硬派のハードバップとして演奏しています。その原動力はエルビン・ジョーンズの白熱のドラムスで、それに煽られて、まずハンク・モブレーが絶好調のアドリブを聞かせれば、グラント・グリーンも負けじと快調に飛ばします。もちろんその中には、十八番の針飛びフレーズ、つまり執拗に同じ音を繰り返すところがあって、本当にジャズを聴いている雰囲気になります。
 そして大団円はエルビンの大車輪ドラム・ソロ! 当に怒りの一撃という素晴らしさです。

A-3 Stella By Starlight
 これもお馴染みのスタンダードを、ここでは伸びやかな雰囲気で演奏しています。ということは、もちろんハンク・モブレーが本領発揮! 独特の「間」を存分に活かした和みのソロを聞かせてくれます。

B-1 Corcovado
 当時もうひとつのブームだったボサノバの名曲に挑んだ演奏ですが、意外なほど洒落た雰囲気が横溢しています。それはラリー・ヤングのオルガンのセンスの良さ、ハンク・モブレーの溢れるソフトな歌心がポイントでしょう。またグラント・グリーンもギラギラした感覚と冷めた情熱を上手くちりばめて、絶妙なアドリブ・ソロを展開しています。途中で一瞬、変態コード弾きというか、擬似オクターブ奏法を披露する場面もあります♪

B-2 This Could Be The Start Of Something
 スタンダードの隠れ人気曲で、私は好きです。ここでは快適なミディアム・テンポでスマートにテーマを提示、そこではエルビン・ジョーンズのブラシがサクサクと気持ち良いかぎりです。
 そして流れるようにアドリブに入るグラント・グリーンが、このアルバムでは一番本領を発揮していると思いますが、それは黒いフレーズではなく、正統派ジャズ・ギタリストの本分というところです。
 ちなみにここではハンク・モブレーが抜けているのが残念なところです。

B-3 At Long Last Love
 これも隠れ人気があるスタンダード曲で、ギタリストが良く取上げるのは偶然でしょうか? ここでは穏やかなビートとノリでスタートしますが、アドリブ・パートでは徐々にハードバップに移行していくあたりが、如何にもブルーノートというレーベル・カラーを感じさせてくれます。
 もちろん、その原動力はエルビン・ジョーンズのヘヴィなドラムスです。そしてハンク・モブレーは十八番のR&B色があるモタレのフレーズをたっぷりと繰り出して、最後はゴスペル風味まで漂わせたアドリブを展開していますし、ラストテーマでの合の手も最高です。
 う~ん、それにしてもエルビン・ジョーンズはいいですねぇ♪

ということで、実はジャズ喫茶全盛期には鳴っていなかったのが、このアルバムでした。それが近年、なんとなく再発見されそうになっては消えていくという、典型的な聴かず嫌い盤の1枚として、ご紹介致しました。

ちなみに私は、もちろんハンク・モブレーの棚に入れています。

さあ、またビートルズに戻ろう……。

コメント (2)
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おかしいなぁ

2006-03-13 17:57:36 | Weblog
あれ~、今日も、またダメだぁ~。どうしてアップ出来ないんでしょう……。

とりあえず「サイケおやじ館」にビートルズアメリカ盤についての復刻情報掲載してあります。「特報」をご覧下さいませ。

http://www12.ocn.ne.jp/~nacky/
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リズムだなぁ♪

2006-03-12 18:08:33 | Weblog

おぉ、今日はすんなり更新出来ました。原因は全く不明ですが、気分は良いですね♪

で、本日の1枚は――

Walkin' / Miles Davis (Prestige)

ジャズ名盤選に必ず登場するアルバムですが、長い間、私にはいまひとつ、ピンッときませんでした。しかし、ある日突然というか、リズム隊中心に聴くようになってからは、おぉ、なんて素晴らしい演奏なんだろう! と虜になったのです。

そのリズム隊とはホレス・シルバー(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) という、黒さと落ち着き、さらに独特のシンコペーションでグルーヴを生み出す面々です。ドラムスとベースは、名盤「ジャンゴ (Prestige)」を生み出した初期MJQのリズムコンビですし、ホレス・シルバーはアート・ブレイキー(ds) とのコンビで、当時バリバリ売り出していた俊英でした。

この「当時」というのは、ビバップがハードバップに変質発展していく、当にその時、黒人ジャズ復権の真っ只中という時期で、つまりこのアルバムの演奏が吹き込まれた1954年は、モダンジャズが大きな人気を獲得しようとしていた上昇期にあたるわけです。

で、ここには、その年の4月3日と4月29日に行われたセッションからの曲が収録されていますが、実はこの形態になる以前に2枚の10インチLPとして出されていたものを、あらためて再編集して、1957年に発売したものです。ただし、そこに1曲だけ、未発表だった、所謂ボーナストラックをつけたものになっています。

メンバーは既に述べたようにリズム隊が共通で、フロント陣がA面はマイルス・デイビス(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、ラッキー・トンプソン(ts) で、録音が1954年4月29日、B面がマイルス・デイビス(tp)、デイヴ・シルドクラウト(as) で同年4月3日の録音になっています。

A-1 Walkin' (「Miles Davis All Star Sextet : Prestige 182」初出)
 後年までマイルスが演奏し続けたブルースのオリジナル演奏がこれです。粘っこいフィーリングの迫力の合奏からスタートしますが、既にそのバックではリズム隊の3人がそれぞれバラバラにアクセントをつけ、ハードバッブ的なポリリズムを生み出しています。
 アドリブ・パートの先発はもちろんマイルスが、「間」を活かした思わせぶりなスタイルを全開させて絶妙なブルース・フィーリングを披露し、続くJ.J.ジョンソンは超人的なテクニックで、これも落ち着いた上手い演奏に終始します。
 しかしこのあたりが私には不満なところで、例えば同時代ならばクリフォード・ブラウン(tp) がアート・ブレイキー(ds) やマックス・ローチ(ds) と繰り広げていた熱くて黒っぽい演奏と比較すると、どうしてもストレートに楽しめないのですが、冒頭に述べたように、ここはリズム隊中心に聴いてみると、特にホレス・シルバーの絶妙な合の手と絡み、唯我独尊のパーシー・ヒースのベースワークが、実はそれまでのジャズと全く違うシンコペーションに満ちていて、そのフィーリングがフロント陣とリズム隊のどちらからともなく、新しいノリ、つまりハードバップのファンキー感覚を生み出していることに気がつくのです。
 そしてそれが、続くラッキー・トンプソンの豪快なテナーサックス・ソロを大いに盛り上げ、その背後ではホーンのリフとリズムのキメが炸裂するクライマックスが現出されています。
 さらに次のホレス・シルバーのアドリブ・パートでは、単純明快なピアノのフレーズが逆に奥深いファンキーさですから、大団円を導くマイルスの再度のアドリブが一層輝くのです。それはバンド全体で烈しく燃え上がるラストテーマ、特にケニー・クラークのドラムスが強烈に煽るリフの合奏が、当にハードバップしていることで明白になるのでした。

A-2 Blue 'n' Boogie (「Miles Davis All Star Sextet : Prestige 182」初出)
 ビバップ時代からの定番ブルースが迫力のアップテンポで演奏されています。そしてここでもリズム隊は素晴らしく好調ですから、先発のマイルスも気持ち良くアドリブを展開させ、当時としては、なかなかバリバリに吹きまくっています。
 続くJ.J.ジョンソンも、相変わらずのバカテクで飛ばしますが、やはりこの人は凄いとしか言えません。そしてその背後では、パーシー・ヒースがかなり思いきったウォーキング・ベースを披露しています。
 演奏はこの後、お約束の中間リフを挟んでラッキー・トンプソンのタフ・テナーが大爆発しますが、その背後でマイルスとJ.J.ジョンソンがリズム隊と共同で、物凄いリフの追い討ちを掛け続けるのです。このあたりが、もう完全にハードバップの醍醐味です♪
 さらにホレス・シルバーのピアノでは左手のゴンゴンいうコード弾きがド迫力! ソロ自体もリズミックで、ゴンゴンガンガン、イキまくりの快演です!
 そして最後はテーマ・リフの乱れ打ちで、大団円が訪れるのです。

B-1 Solar (「Miles Davis Quintet : Prestige 185」初出)
 ここからはフロントの相方がアルトサックスのデイヴ・シルドクラウトで、そのスタイルはリー・コニッツに近いものがある所為か、なかなかクールな演奏になっています。そしてそういうものならマイルスは十八番ですから、得意のミュートで絶妙な泣きを聞かせてくれます。
 で、特筆したいのはリズム隊の軽やかなグルーヴで、その要はケニー・クラークのブラシです。しかしけっしてリズムが流れていないのは、やはりホレス・シルバーが要所で締めているからでしょう。

B-2 You Don't Know What Love Is (「Miles Davis Quintet : Prestige 185」初出)
 有名スタンダードをミディアム・スローで演奏していますが、マイルスはもちろん十八番のミュートを一人舞台でジックリと聞かせてくれます。そしてその背後ではリズム隊が様々なパターンを駆使して、暗い情念とムード、ファンキーなノリを生み出しているのです。

B-3 Love Me Or Leave Me
 このアルバムが初出となった演奏で、もちろんスタンダート曲ですが、アップテンポでハードバップに変換されています。リズム隊では、何と言ってもケニー・クラークのスピード感溢れるブラシとファンキーにゴンゴン迫ってくるホレス・シルバーのコード弾きが強烈です。
 マイルスはここでも最初からミュートで鋭く斬り込んでいきますが、リズム隊にやや押され気味です。しかしそれが逆にカッコイイ! そしてブッ飛んでいるのがデイヴ・シルドクラウトのアルトサックスで、この人はこのセッションが一番有名ですが、そのクールで熱いスタイルは魅力的♪ チャーリー・パーカーとリー・コニッツの折中と言ってしまえばミもフタもないんですが、この時代ではかなり前衛だったのかもしれません。私は好きです。

ということで、最初に述べたようにマイルス中心に聴くとイマイチかもしれませんが、リズム隊を聴くという姿勢だと、これは物凄い演奏集だと思います。おそらくリアルタイムでこのアルバムに接したファンは、そのリズムとビートの新しさ、凄さに驚嘆されたのではないでしょうか!? それは実に羨ましい限りですが、実は今、この時でもそれはリアルに体験出来るという、不滅の名盤がこれっ! というわけです。

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