なんでだろうなぁ、フリーサイトだから、容量がオーバーなのか?
いずれ、ここに掲載したものは、メインサイトの「電脳JAZZ喫茶」に改訂して移すつもりですが、それを早めなければならないのでしょうか……。
いや、もっと深読みすれば、メインサイトに力を入れろという思し召しか?
ということで、メインの中の「偏愛キネマ館」に「生贄夫人」を掲載しました。
よろしければ、ご一読願います。
いよいよ春らしい天候になってきました。ポカポカと暖かい陽射し、適度に冷たい空気、こういうのは、けっこう好きですね。仕事は忙しいですが、気分は少しずつ高揚しています。そんな気分の時にはこれを――
■Jazz Alive ! A Night At The Half Note (United Artists)
ジャズの人気企画といえばバトル物、つまり同一楽器による対決セッションということで、例えばテナーサックスで似た者同士が丁々発止の共演を繰り広げるところが、興奮を呼ぶというわけです。
それはレコーディングのためのスタジオ録音だけでなく、ジャズ全盛期の現場では頻繁に興行が打たれていたようで、むしろこっちをライブ録音したレコードに秀作が多いのは、その場の雰囲気ごとに自然体のグルーヴを満喫出来る結果というところでしょう。
このアルバムはそういう人気盤のひとつで、録音されたのは1959年2月6&7日、場所はジャズでは有名なクラブの「ハーフノート」です。そして演じているのはテナー・バトルの人気チームのひとつ、アル&ズートに加えて、フィル・ウッズが特別参加しているという豪華版です。メンバーはアル・コーン(ts)、ズート・シムス(ts)、モーズ・アリソン(p)、ネビル・トーター(b)、ポール・モチアン(ds)、そしてB面でフィル・ウッズ(as) が加わります。それが――
A-1 Lover Come Back To Me / 恋人よ我に帰れ
モダンジャズでは定番のスタンダード曲を、アル&ズートは快適なテンポで聞かせてくれます。まずテーマの吹奏からして2人が絶妙の絡みを展開し、そのまま先発のソロがアル・コーンです。もちろんレスター・ヤング直系の流れるようなフレーズと豊かな歌心が満点ですし、しかもややハードな音色でドライブするそのアドリブは最高です。
そして次が同じスタイルで迫るズート・シムスですが、こちらは柔らかくてふくよかな音色が特徴です。しかしそのドライブ感はアル・コーンに優るとも劣らない素晴らしいもので、むしろズートの方が場合によってはハードな面が感じられるほどです。ここでもその魅力が存分に発揮され、勝負はズートに軍配が上がりそうです。
またその2人を支えるリズム隊は、おそらく当時のアル&ズートのレギュラーだったと思われる面々ということでコンビネーションも良く、モーズ・アリソンを中心としたピアノ・トリオの部分も快調です。
こうして演奏はクライマックスで2人の短い掛け合いからラスト・テーマでの絡みが楽しめるのでした。
A-2 It Had To Be You
あまり演奏されないスタンダードですが、和みの名曲です。もちろんテーマ部分はアル・コーンがリードしての絶妙の絡みがあって、もう最高です。そしてアドリブ・パートでは先発のアル・コーンが素晴らしい歌心を発揮すれば、ズート・シムスは絶妙の「間」を使って安らぎの美メロを聞かせてくれます。
う~ん、素晴らしい雰囲気ですねぇ~♪ ところがいっしょに録音されている観客のザワメキを聴くと、かなり演奏そっちのけの会話や笑い声が入っています。まあ、それが当時のジャズクラブの実態だったんでしょう。ちなみにこの「ハーフノート」というクラブはウェス・モンゴメリー(g) やジョン・コルトレーン(ts) の名演ライブが録音された場所ですが、写真でみると内部は本当に狭くて、息苦しい感じですから、臨場感は本当に満点だったんでしょうねぇ。なんか咳払いやグラスの触れ合う音までレコーディングされています。
B-1 Wee Dot
ここからいよいよフィル・ウッズが加わっての白熱のジャム・セッションがスタートします。曲は天才トロンボーン奏者であるJ.J.ジョンソンが書いたハードバップのブルースですが、先発でアドリブを始める肝心のフィル・ウッズが絶不調……。まあ、それなりの演奏と言えばミもフタもありませんが……。
おまけに続くズート・シムスが、これまた調子が出ていません。ただし徐々にペースを掴んで盛り上げていくところは手に汗握るというか、贔屓の引き倒しというか……。しかしアル・コーンはどうにか面目を保ったハード・ドライブなソロで、場を盛り上げていきます。
B-2 After You've Gone
いきなり早いテンポで演奏されますが、アル&ズートが絡むテーマ吹奏にフィル・ウッズもなんとか参加して、そのまんま、ズート・シムスが絶好調のアドリブ・ソロに突入していきます。そしてそれに刺激されたフィル・ウッズもハードバップ丸出しで迫るのですが、気力が空回りというか、いつものウッズ節が虚しく響くだけというか、荒っぽくてギスギスした部分ばかりが目立ちます。
しかし続くアル・コーンが両者の中間を行くようなスタイルで、なんとかその場を収める快演を聴かせくれるのです。そしてもちろん最後は3者入り乱れの大乱闘♪ 本当に演奏が乱れてしまうのは、ご愛嬌でしょうか……。
ということで、これは圧倒的にA面が素晴らしく、それゆえB面が肩透かしなんですが、逆に言えばA面が奇跡の快演というところでしょう。とにかく和みますよ♪
本日も仕事責めでした。息抜きも出来ない苦しさに、つい手を伸ばしたのが、この嬉しい再発盤でした――
■Kenton Presents Sessions / Claude Williamson (Capital / Fresh Sound)
白人ピアニストのクロード・ウィリアムソンのトリオを中心としたキャピトル録音を集めた、これは本当に嬉しい再発です。
タイトルにある「Kenton Presents」とは、白人ジャズ・ビックバンドの最高峰である「スタン・ケントン・オーケストラ」のバンドリーダーだったスタン・ケントンがプロデュースしていたシリーズ作品で、もちろんその内容は、自分のバンド内の優れたミュージシャンをフィーチュアしたものです。
例えば、シリーズではフランク・ロソリーノ(tb) のリーダー盤あたりが特に有名ですが、、とにかくスタン・ケントンの楽団には1950年代ウエスト・コースト・ジャズの精鋭が集められており、大衆的でありながら、物凄く進歩的な演奏を聞かせていましたので、その「Kenton Presents」として発表される作品は素晴らしいものばかりです。
で、クロード・ウィリアムソンもその中のひとりですが、実はこれ以前にかなりの実績があったピアニストで、すでに1940年代後半から注目され、1949年にはチャーリー・バーネットの楽団から「Claude Reigns」という、自分のピアノを100%前面に押出したヒット曲を放っています。
そしてその後に、スタン・ケントン・オーケストラに入るわけですが、すぐにリーダーのお気に入りとなって、売り出しのセッションを持つことが出来たわけです。
それは都合5回のレコーディングからSP,EP,LPと様々な形で発売されていきましたが、このCDはその全21曲を纏めたもので、データーは以下のとおりです。
01. Bouncing with Bud (1954年7月29日録音)
02. Salute to Bud (1954年7月29日録音)
03. Penny (1954年6月29日録音)
04. Thou Swell (1954年7月29日録音)
05. Woody'n You (1954年6月29日録音)
06. Obsession (1954年6月26日録音)
07. Indiana (1954年6月29日録音)
08. Over the Rainbow (1954年6月29日録音)
09. Bean and the Boys (1954年6月29日録音)
10. I Remember You (1954年7月29日録音)
11. All God's Chillun Got Rhythm (1954年6月26日録音)
12. Get Happy (1955年5月19日録音)
13. On the Atchison, Topeka, and the Santa Fe (1955年5月19日録音)
14. Spring is Here (1955年5月2日録音)
15. Like someone in Love (1955年5月19日録音)
16. My Heart Stood Still (1955年5月2日録音)
17. Of Thee I Sing (1955年5月2日録音)
18. Don't Get Around Much Anymore (1955年5月19日録音)
19. Yesterdays (1955年5月19日録音)
20. The Kerry Dance (1955年5月19日録音)
21. Between the Devil and the Deep Blue (1955年5月2日録音)
「01」~「11」までは1954年のセッションで、この頃のスタイルはバド・パウエルに心酔しきったというよりも、ほとんどコピーというような部分もあるとおり、まさに白人パウエルと揶揄される演奏になっています。ちなみにサポート・メンバーはカーティス・カウンス(b) とスタン・レビィ(ds) という、ガチガチのバップ野郎です。
しかしその演奏は、あくまでも白人らしいスマートな感覚で、それゆえに物足りない部分も多々あるのです。ただしそこが好きというファンが多いのも、また事実です。しかも演目がバド・パウエルの愛奏曲中心というところが、絶妙なクスグリです。
実際、大スタンダード曲の「I Remember You」は白人ピアニストらしい快演ですし、バド・パウエルの代表的なオリジナル曲である「Bouncing with Bud」は、巨匠に対して敬意を表しつつも、憧れの方が強く出た演奏です。それがクロード・ウィリアムソンのオリジナル曲「Salute to Bud」では、当にバド・パウエルのフレーズを研究しつくしたタイトルどおりの熱演で結実しています。
後半の「12」~「21」はピアノ・トリオ盤では非常に人気が高い「Keys West (Capital)」をそっくり収めたものですから、いずれも保証付きの名演です。共演者はマックス・ベネット(b) &スタン・レビィ(ds) 組が1955年5月2日のセッション、バディ・クラーク(b) &ラリー・バンカー(ds) 組が同年5月19日のセッションということで、これも素晴らしいトリオというわけです。
しかもクロード・ウィリアムソンの演奏スタイルが、この頃になるとバド・パウエル一辺倒からハンプトン・ホースの影響に近いファンキー・フレーズも織込んだ、幅広いものに変化しており、それがこのアルバムの人気の秘密です。
ちなみにクロード・ウィリアムソンは、前述した「Claude Reigns」の頃はクラシック~正統派白人スイングの王道スタイルでしたが、同時にバド・パウエルが提示したビバップのピアノ奏法も研究しての成果が、このCD前半の演奏でした。
ということで、ジャズ入門者向けではありませんが、ピアノ・トリオ好きには堪えられない再発でした。
忙しくて眩暈しています、いや、本当に……。そして今日は、過労死が現実になったら、と柄にも無いことまでが心を過ぎりました。
しかし幸いなことに、嬉しい再発盤が届きましたので、本日はこれを――
■The Giants Of Jazz (Atlantic)
1960年代後半からのニューロック・ブーム、フリージャズの大嵐、そしてジャズロックの台頭等々で、正統派モダンジャズは完全に息の根を止められたかのような1970年代初頭に、それではならじと奮起したかのようなベテラン達によるネオ・バップ・ブームがありました。
ネオ・バップとは、ようするに往年の名プレイヤーが正統派ビバップを演奏するという、リバイバル現象です。その発端のなったのが、有名な興行師のジョージ・ウェインが仕掛けた「The Giants Of Jazz」というコンサート・ツアーでした。
このアルバムはその巡業のイギリス好演をライブ録音したもので、オリジナルはアナログ盤の2枚組でした。メンバーはディジー・ガレスピー(tp)、カイ・ウィンディング(tb)、ソニー・ステット(as,ts)、セロニアス・モンク(p)、アル・マッキボン(b)、アート・ブレイキー(ds) という、1940年代から活躍し、モダンジャズを創生した大物達! 録音日は1971年11月14日、その内容は――
A-1 Tin Tin Deo
ディジー・ガレスピーの当り曲で、オリジナルはラテン・キューバン系の楽しい演奏でしから、このメンツでお祭騒ぎと思いきや、逆に淡々とガレスピーがただ独りでアドリブ・ソロを展開するという肩透かしのスタートが思わせぶりです。そしてようやく、2分20秒目あたりからアル・マッキボンのベースが、あの楽しいリフを弾きながら登場するのですが、ここでテーマを演奏するのが、またまたガレスピーだけなんですねぇ……。
なんじゃ、これっ! と聴き手はガックリというのが正直なところでしょうが、しかし演奏はそれなりの密度があり、この2人の絡みとアドリブ・ソロは聴き応えがあります。そして6分目からは、お待ちかねのセロニアス・モンクが不協和音がいっぱいのピアノ伴奏をつけてくれます♪ もちろんアル・マッキボンは、それを全く無視して唯我独尊のベース・ソロを展開するところが、最高の聴きどころです。
A-2 Night In Tunisia
ビバップ~ハードバップでは定番の名曲で、全員によるテーマ吹奏は大迫力! そしてもう皆様ご推察のとおり、アート・ブレイキーが大暴れします。しかしそれが長すぎます。なにしろ全篇、10分21秒の演奏時間中でドラムソロがその半分以上という異常事態! ホーン隊でソロをとるのがガレスピーだけという、これもある意味で肩透かしの演奏です。
B-1 Woody 'n' You
これもビバップ期に誕生した定番曲で、ここでようやく全員が揃っての火の出るような演奏となります。その先発はソニー・ステットのアルト・ソロで、チャーリー・パーカー直系のフレーズを使いつつも独自のステット節がたっぷり披露されます。また続くカイ・ウィンディングも闊達なノリで迫力があり、もちろんガレスピーも快調です。
そしていよいよセロニアス・モンクが登場♪ 例の訥弁フレーズとブチキレのビートでその場を撹乱してくれますが、特筆すべきはアート・ブレイキーの烈しくも繊細なドラムスで、アドリブ・ソロを演じる各々のミュージシャンの個性を大切にした煽りは流石です。
B-2 Tour De Force
またまたビバップの定番曲が快適なテンポで演じられますが、ジャムセッション風のステージでありながら、アレンジされた部分は完璧に演じられています。ソロの順番はカイ・ウィンディング、ソニー・ステット、セロニアス・モンク、ディジー・ガレスピー、アル・マッキボンと続きますが、いずれもアイディア豊かなアドリブで、特にソニー・ステットはテナーサックスでハードバップそのもののドライブ感を聞かせてくれますし、ガレスピーはベースとドラムスだけをバックに濃密な瞬間を何度も現出させる名演です。もちろんここでもアート・ブレイキーのドラムスが冴えわたっています。
C-1 Allen's Alley
アップテンポの大ハードバップ大会です。なにしろアート・ブレイキーが鬼にようにバックから煽りたてるのですから、各アドリブ・プレイヤーも燃えないわけにはいきません。先発のソニー・ステットは荒っぽいながらも十八番のフレーズを連発し、カイ・ウィンディングが悠然と大ブロー、そしてガレスピーは衰えぬハイノートをヒットします。
それにしてもアート・ブレイキーは怖ろしい! バックでの煽りに加えて、大団円は大車輪のドラムソロですから♪
C-2 Blun 'n' Boogie
これもハードバップそのものといった演奏ですが、ここでは先発のセロニアス・モンクが元気いっぱいです♪ ベース&ドラムスとの息もぴったりの熱演で、ちなみにモンクはこのステージの翌日に、同じトリオでアルバム3枚分の録音セッションを行っており、それが公式にはラストレコーディングになっています。
で、こちらの演奏はその後、カイ・ウィンディングが大爆発して興奮を増幅させ、ソニー・ステット、ガレスピーの熱演を導くのです。もちろんアート・ブレイキーも烈しいドラムスで応戦していく、これは本当に熱い演奏です。
D-1 Everthing Happens To Me
ソニー・ステットが一人舞台の名演です。曲は泣きの有名スタンダードですが、まずセロニアス・モンクの絶妙なイントロから痺れます。そして艶やかな音色でテーマを吹奏していくソニー・ステットは、時折、高速フレーズを織込んで変奏しつつも、オリジナルのメロディを大切にして歌い上げていくのです。そしてアドリブ・パートではテンポを自在に操り、最高のフレーズばかりを吹きまくりです。
正直言うと、ソニー・ステットはメジャー・スケールを中心に使うので、個人的にはあまり好きではないのですが、物凄く上手い、本当の名人なので、ここでの名演もアサメシ前というところかもしれませんが、実はアート・ブレイキーの絶妙なドラムスがあってこその結果ではないでしょうか。
D-2 Dizzy's Rap
タイトルどおり、ガレスピーの漫談です。
D-3 Blue Monk
クライマックスはセロニアス・モンクの十八番ブルースです。ここではミディアム・テンポで演じられますが、その気だるい雰囲気がアート・ブレイキーの素晴らしいドラムスによってファンキーに変換されています。
そしてそのビートの中をホーン隊が縦横無尽に名人芸を披露していくのです。しかし演奏はあくまでもモンクが輝くように進み、何度聞いても独特の虚無的な世界に引き込まれてしまいます。
D-4 Round Midnight
セロニアス・モンクと言えば、この曲が出なくては納まりません。今日的にはマイルス・デイビスの演奏が決定版とされていますが、作者のモンクはそれには満足していないどころか、否定的だったと言われていますから、大物ホーン隊を従えたここで、どのような答えが出ているのか興味津々です。
で、それは自然体のグルーヴが極まったモンクのピアノ・ソロと、むしろ穏やか感覚のホーン隊とのコントラストが目立つ、成行き任せの展開が???です。つまり緊張感が薄いのですが、それゆえにモンクも心置きなく十八番の演奏を聞かせて、大団円としております。
ということで、これは大物達が昔の名前で出ていますと言われれば、全くそれまでの演奏なんですが、やはり心躍って聴いてしまう、否、聴かずにはいられないアルバムです。ただし、はっきり言うと、もっと出来るはずという部分も否定出来ません。しかしロックに侵食されて落目になっていた当時のジャズに得体の知れないものを感じていたガチガチのファンには、この作品がオアシスであったことも、また事実でした。
ジャズらしいジャズとしては、天下一品です。あぁ、疲れきった心身に気持ち良い……。
たまにはお昼のお茶も、お洒落に楽しみたいので、本日はこれを聴きました――
■Pyramid / The Modern Jazz Quartet (Atlantic)
ジョン・ルイス(p) がリーダーですが、ジョン・ルイス・カルテットと名乗らないところが、MJQの凄いところです。つまりグループとしての観念を徹底させている証に他なりません。そのメンバーはミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、コニー・ケイ(ds)という一騎当千の凄腕達です。
もちろんジャズということで、これだけのメンバーが揃うと、各々の自己主張が主体となった演奏になるのは当然なのですが、それをあえて押さえつつ内向的なグルーヴを醸し出すところが、同時代の他のバンドとは異なった魅力です。
このアルバムはそれが良く出た1枚で、録音は1959~60年にかけて行われています。
A-1 Vendome (1960年1月15日録音)
ジョン・ルイスの作曲で、バロックとビバップの巧みな融合が快感の演奏です。それはまず、曲テーマに顕著なバロック・フレーズがいつしかミルト・ジャクソンの主導でビバップに変貌していきますが、ジョン・ルイスがそれをバロックに引き戻す展開が素晴らしく、クラシックと黒人モダンジャズの鬩ぎ合いが絶妙です。
このあたりは、どこまでがアドリブかアレンジか、判別つかないほど緻密な演奏で、それはもちろんドラムスとベースのパートにまで及んでいるのでした。
A-2 Pyramid (1959年12月21日録音)
ゴスペル・ブルース味が非常に強い、究極のスローブルースです。もちろん、こういう曲調になるとミルト・ジャクソンの存在感が一段と強まりますが、ジョン・ルイスも負けていません。
日本の評論家の先生方はジョン・ルイスはブルースが下手と決めつけている傾向がありますが、大きな間違いだと思います。それはここでの「間」を生かしたバックでの演奏やソロ・パートの巧みさを聴けば納得出来るはずで、幾分、線の細いそのブルース・フィーリングは独自の洒落た雰囲気に直結していくのです。
もちろんミルト・ジャクソンは期待どおりのクールな熱演です♪ またテンポを自在に操りながら、ゴスペル調のビートを送り出すコニー・ケイのドラムス、淡々としていながら、実は粘っこいパーシー・ヒースのベースにもご注目下さい。
A-3 It Don't Mean A Thing (1959年12月21日録音)
「スイングしなけりゃ意味ないね」という全くそのとおりの邦題がついているデューク・エリントン作の有名曲を、MJQは独自のアレンジで演奏していますが、その基本姿勢は曲タイトルどおりです。中でも思わせぶりなジョン・ルイスがニクイところです。
B-1 Django (1959年8月22日録音)
あまりにも有名なMJQの当り曲の再演バージョンですが、それほど変わったところはありません。アドリブ・パートがややテンポアップしているのですが、リズムのキメ等は同一ですし、アドリブそのものも存在のアドリブというか、充分に煮詰められた美味しいものです。ただしそれがジャズ的には??? このあたりが評論家の先生方から厳しいことを言われる要因かもしれません。しかし安心感のある楽しさは捨てがたいところです。
ちなみにこのアルバムではステレオ盤とモノラル盤とで、この曲のテイクが違うという情報がありますが、個人的には確認していないので、話はここまでとさせていただきます。
B-2 How High The Moon (1960年1月15日録音)
モダンジャズでは定番のスタンダード曲を、MJQは大幅にアレンジし、最初は全くなんの曲か分からないほどです。なにしろベースのアルコ弾きをバックにミルト・ジャクソンがクラシックを意識したアドリブに改変しているテーマ提示部分から、そのまんま本格的なアドリブ・パートに突入してしまうのですから! しかもその部分のテンポが極めてフリー! そして快適な4ビートになってスイングしまくるアドリブ・パートの中盤で、ようやく聴き手は和めるのですが……。
B-3 Romaine (1959年8月25日録音)
白人ギタリストのジム・ホールが作曲した畢生の名曲にMJQが挑んだ結果がこれです。もちろんバラードの名人であるミルト・ジャクソンが、その歌心を存分に発揮して味わい深い演奏を聞かせてくれるのです。しかしここでの白眉はジョン・ルイスのもったいぶったピアノによる、間の芸術的なアドリブでしょう。そこに絡むミルト・ジャクソンやパーシー・ヒースの相手を理解した感情移入も素晴らしい限りです。
そういう展開ですから、これも即興とは言い難いところがミエミエになっていますが、しかしこれだけ完成度の高いジャズがあるでしょうか……。いや、ジャズとは云々、と言う前に、聴いて気持ち良ければ結果オーライという気分にさせられます。
ということで、とても素敵なアルバムです。1960年前後の日本では、モダンジャズがファンキー・ブームと共に盛り上がり、その中でも特にMJQは幅広い人気を集めました。その魅力は洒落た落ち着きとクールなグルーヴというところでしょうか、とにかく下品な部分が無いので、ある意味ではジャズを超えてカッコイイ音楽なのです。
それは現代でも充分に通用するところで、お洒落な音楽を求めるならばMJQもお忘れなく♪ インスタント珈琲も、旨くなる雰囲気です
天候が良かったので、実家から赴任地まで、バイクをぶっ飛ばしてきました。久々に「不良番長のテーマ」が頭の中で鳴りましたが、やっぱり寒い……。そこで熱い珈琲にこのアルバムを――
■Romantic Warrior / Return To Forever (Sony)
フュージョン全盛期を彩った人気盤ですが、イノセントなジャズファンからは徹底して嫌われた1枚でもあります。
リターン・トゥ・フォーエバーというグループは、もちろんピアニストのチック・コリアをリーダーとしてフュージョンの地平を切り開いてきた名バンドですが、それはあくまでもジャズに拘った方針があってこその人気で、もちろんそれを支えていたのが、ガチガチのジャズファンでした。
しかし1973年に突如としてロック寄りのバンドに変身し、とにかくハードでギンギンのサウンドを作り出していくのです。このアルバムはその方針転換が最も優れた形で結実した傑作というわけですが、それゆえにジャズ喫茶ではある意味で困った存在でした。
メンバーはチック・コリア(p,key)、アル・ディメオラ(g)、スタンリー・クラーク(b,elb)、レニー・ホワイト(ds) という鬼のような超絶技巧の4人組で、録音は1976年2月とされています。その内容は――
A-1 Medieval Overture / 中世序曲
いきなり左右に飛びまくる単音フレーズの中を、ビシッとキメられたリフと16ビートの嵐が吹荒れて、聴いている者を疲れさせる出だしが強烈です。とにかくレニー・ホワイトのドラムスが半端ではありませんし、4人のアンサンブルが一糸乱れぬウルトラ級の快演!
曲そのものにクラシックや現代音楽の影響が感じられるのは作者であるチック・コリアの趣味丸出しというところで、アドリブパートらしい部分はほとんど無く、あくまでもバンド全体の演奏力の凄さに感じ入るのが、正しい聴き方ではないでしょうか……。正直言って、疲れます。
A-2 Sorceress / 女魔術師
レニー・ホワイト作曲のファンク・ロックですが、メローな響きのチックのエレピやシンセが魅力的です。しかし演奏はすぐさま、アル・ディメオラのファンキーなギター・カッティングとハードロックなギター・ソロによって現実に引き戻されます。そしてそういう対比が曲全体の進行を左右して行き、中間部で突如として現れるチックの生ピアノによるソロが、ジャズ者の気持ちを落ち着けてくれるのでした。これも快演です!
A-3 The Romantic Warrior / ロマンの騎士
前曲まではエレクトリックな楽器を中心として演奏されていましたが、この曲に限っては全員がアコースティックで勝負しています。もちろんそれでも、曲は超絶技巧のキメの連続と驚異の早弾き、鬼神のリズムとビートの嵐で、完全にエレクトリックを凌駕しています。
チックの作曲したテーマも幻想とロマン、恋と冒険に満ち溢れた雰囲気があり、アドリブ・パートの展開も波乱万丈です。まずスタンリー・クラークがアルコ弾きとピチカートを対比させつつ、聴き手を仰天させるベース・ソロを展開すれば、アル・ディメオラは十八番の早弾きフラメンコのリックを多用して応戦、もちろんそのバックではレニー・ホワイトの反応が素早いドラムスが炸裂していきます。
そしてクライマックスはチック・コリアの生ピアノ・ソロで、その凛とした佇まいと白熱のアドリブ展開は最高です♪ 何度聴いても感動すること請け合いです。う~ん、それにしてもここでバックをつけるスタンリー・クラークとレニー・ホワイトも、神がかりです。
B-1 Majestic Dance / 荘厳な舞踏
アル・ディメオラが作曲し、極めてロックに近い演奏になっていますが、実は演奏者その人たちが一番楽しんでしまったかのような仕上がりです。このあたりのノリは英国ロックのブランドXやイエス、キング・クリムゾンというプログレ・バンドにも共通するところがありますが、この超絶技巧を駆使した演奏は、基本はジャズ演奏家という矜持を保つためのものでしょうか……。それにしてはアル・ディメオラのギターが唸り過ぎですが♪
B-2 The Magician / 手品師
スタンリー・クラーク作曲ですが、まるっきり得意のベースソロのフレーズを繋ぎ合わせたかのような展開がテーマになっています。つまり音のコラージュという雰囲気ですが、それなりに惹き込まれて聴いてしまうところが怖ろしい……。
B-3 Duel Of The Jester And The Tyrant / 道化と暴君の決闘
大団円に相応しい組曲です。チック・コリア作曲ということで、クラシックからラテン、ファンキー、ロック、そしてもちろんジャズの要素までもが幅広く取り入れられているので、聴き応えがあります。
まず超絶のキメをすり抜けて登場するアル・ディメオラが圧巻のギター・ソロで燃え上がります。その凄まじさには、流石の3人のバックでの煽りも通用していません。そこでチック・コリアが哀愁モードのシンセ・ソロを繰り出して勝負に出ます。そしてこれがなかなか気持ち良く、演奏はいつしかイケイケの展開になっていきます。もちろんアル・ディメオラも時折、ファンキーなギター・カッティングを入れてきますし、レニー・ホワイトは背後から強烈に煽ります。
こうして演奏は第2部に入り、細かいキメのリフとスタンリー・クラークの超人的なビートのベース・ソロ、またまた飛び出すアル・ディメオラの早弾きギター・ソロが、ついにはレニー・ホワイトを中心とした、4人の感情の縺れ的なソロの応酬に発展していくのです。
しかし演奏そのものは、けっして暴走することなく、きちんと盛り上がり、収束していくのです。しかもそれが予定調和になっていないのは、驚異的です。
ということで、あまりにもエレクリック&ファンキー・ビートが強すぎて、これはロックだ、と決めつけたかのように、当時の正統派ジャズ喫茶では積極的に鳴らしていた店は少なかったようです。しかし演奏者がチック・コリアということで完全無視も出来ず、しかたなく「A-3」だけ鳴らしている店もありました。つまりそれだけ、このタイトル曲が凄い出来ということです。
ちなみに、このアルバム、特にタイトル曲は、日本の人気ミステリ作家である島田荘司のお気に入りということで、そちらのファンもかなり買ったという噂がありますが、どうなんでしょう。なにんせよ、このアルバムはこの1曲だけでも絶大な価値があると、本日も断じます。気持ちイイですよ。
うん、いつもまでもバイクに「不良番長」じゃ、ダメだなぁ、「ロマンの騎士」でいきましょうかね♪
あまりに忙しさに苦しんで、逆に進んで苦しさを求めたくなっています。ちょっとM的ではありますが、本日は苦行の1枚を――
■Pithecanthropus Erectus / Charlie Mingus (Atlantic)
名盤ガイド本に必ず載っているのが、このアルバムですが、けっして人気盤ではありません。その理由は、聴いていて疲れるというか、私はそう感じています。
もともとミンガスの演奏するジャズは、単なる娯楽ではなくて、そこに常になんらかの自己主張を盛り込もうとしているフシがあります。実際、ステージでは観客に向かって説教をしたり、自分のバンド・メンバーが気に入らないプレイをすると殴ったり、また演奏が自分の意に沿わない方向に流れたりすると、そこで中断した挙句に最初からやり直したりしていたそうです。
そして残された録音からも、そういう危ない雰囲気が感じ取れるのですが、しかし発表された作品群には、駄作というものが、ほとんどありません。それゆえに、全く和めない演奏が多いのですが、よしっ聴くぞ! と気力が充実していれば、これほど快感に結びつくジャズもありません。
このアルバムはそういう最右翼の1枚で、録音はハードバップ全盛期の1956年1月30日でありながら、すでにハードバップを超越しているというか、全く独自のミンガス・ジャズになっている強烈な作品です。
メンバーはチャーリィ・ミンガス(b) をボスに、ジャッキー・マクリーン(as)、J.R.モントローズ(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ウィリー・ジョーンズ(ds) という一癖ある連中が揃っています。特にフロントの2人は私がとても好きなサックス奏者なので、ワクワクしているのですが――
A-1 Pethecanthropus Erectus / 直立猿人
あまりにも有名なタイトル曲は、ミンガス自身の解説によれば「進化」「優越感」「衰退」「滅亡」という4パートに分かれているらしいのですが、聴いてみても私にはピンっときません。しかしその演奏はモヤモヤ、ゴテゴテ、ドロドロ、グリグリのハードバップで、突然に変化する演奏スピードや刺激的なリフ、妙なハーモニーと不揃いのイントネーションが渾然一体となった、良く分からないけれど凄いんだろうなぁ……、というのが正直な感想です。
しかしその中で泣きながら咆哮するジャッキー・マクリーンや屈折した心情吐露に終始するJ.R.モントローズは、やはり素晴らしくハードバップしています。
A-2 A Foggy Day
モダンジャズでは定番のスタンダード曲ですが、ミンガスのアレンジではホーン隊が車のクラクションを真似たり、ピアノやベースが街のザワメキを描写したり、そこへパーカッションが刺激を与えたりするという、なかなか凝ったテーマ提示がなされています。
もちろんこのあたりは、デューク・エリントンの影響が大きいのですが、その中からお馴染みテーマが現れてくると、ホッとします。恐らくそこが狙いだったのでしょうが、アドリブ・パートでは油断がならず、突如として前述したようなアレンジのリフが被さってきます。つまり、ノッて騒いで、イェ~! というような普通のハードバップでは無いのです。
B-1 Profile Of Jackie
タイトルどおり、ジャッキー・マクリーンを中心としたスロー・ナンバーです。もちろん、これが哀切のメロディ、泣きのフレーズがいっぱいという、ファンにはたまらない演奏となるはずなんですが、ミンガスおやじは、それを許しません。3分ちょっとの短い演奏時間の中で、参加メンバー全員に自己主張させようとするのです。しかしそれが完全に出来ているのはミンガスのベースだけで、伴奏というよりはベース・ソロをやっているように聴こえます。もちろんマクリーンは好演ですが……。
B-2 Love Chant
きわめてフリーに近い要素を含んだ曲、というよりも曲になっていない曲とでも申しましょうか、なんとも不思議な雰囲気のうちにアドリブ・パートになっている展開が痛快です。マクリーンは激情的に泣きますし、J.R.モントローズも独自のフレーズばかりで豪快にブローしています。そして素晴らしいのがマル・ウォルドロンのピアノ! ソロにバックに刺激的なコードと絡みのフレーズを連発します。またミンガスのド迫力のベース・ソロも強烈で、圧倒されますねぇ~♪
ということで、全くつまらない演奏と言えば、そう言えるわけですが、やはり凄いっ! そう認めざるを得ないものが、ここに詰まっています。繰り返しになりますが、単なるハードバップではありません。ジャズを愛するって、苦しい……。
今朝は雪がかなり積もっていましたが、昼頃には融けはじめ、三寒四温を実感しています。こういう時には、やはり熱い珈琲とアルバムがいいですね。例えば――
■Carlos Santana & Buddy Miles ! Live ! (Colmbia)
サンタナが好きだ! なんて愛の告白ではないけれど、サンタナというグループもサンタナというギタリストも好きなんです。その理由は簡単で、聴いていていつも気持ち良いからですが、それに加えて何とも言えぬ物凄さ、得体の知れない不気味な快感を覚えた最初のアルバムがこれです。
メンバーはカルロス・サンタナ(g)、ニール・ショーン(g)、ロバート・ホギンズ(key)、ロン・ジョンソン(b)、バディ・マイルス(ds,vo)、グレッグ・エリコ(ds,per)、コーク・エスコベード(per)、ミンゴ・ルイス(per)、マイケル・カラベーロ(per)、ルイス・ガスカ(tp)、ハドリ・キャリマン(ts,fl) 等々が参加して、1971年の大晦日にハワイでライブ録音されたことになっていますが、今となっては後にスタジオで手直し、再録音されたことは常識になっており、しかもそれ故に演奏メンバーの詳細も怪しくなっています。
まあ、それはそれとして、とにかく白熱の演奏であることは間違いありません。それは――
A-1 Marbles
A-2 Lava
湧き上がる拍手の中で、テンションの高いリフが始まり、上記2曲がメドレーで演奏されますが、グォ~ンとせり上がって来るオルガンがまず圧巻です。そしてすぐさま、オルガンのリードで演奏は白熱し、もちろんその背後にはラテンリズムとロック、ソウルのビートが渦巻いていくのです。
そんな中でカルロス・サンタナのギターはワウやトレモロを使いまくった激しいソロを聞かせますが、それは今までのサンタナとしてのイメージを覆すというか、物凄くジャズっぽく、前衛的なものを含んでおり、まるっきりジョン・マクラフリンかジミ・ヘンドリクスの影響がモロ出しになっているのです。またそれに後半で絡んでくるニール・ショーンのギターも短いながら強烈です。
演奏はこの後、ラテン・パーカッションの乱舞から2曲目の「Lava」に突入しますが、それも前曲のリフの改変曲という雰囲気で、ここではニール・ショーンのギターが大暴れします。ちなみにこの時のニール・ショーンは若干16歳! 当に天才です。もちろん観客は大喜びの大歓声です♪
A-3 Evil Ways
A-4 Faith Interrlude
A-5 Them Changes
これもメドレー形式で演奏されますが、まず「Evil Ways」はご存知、サンタナの大看板ヒット曲! ここでは従来のラテン味に加えて、より一層、ソウル味を強めて演奏されています。その原動力はドラムス&ボーカルのバディ・マイルスの存在です。この人はジミ・ヘンドリクスとのバンド・オブ・ジプシーズでの活動が有名ですが、ここではラテン・ソウルという水を得て、本当にイキイキと歌いまくりです。
演奏では炸裂するホーン隊のリフ、白熱するオルガン・ソロ、渦巻く打楽器群のビートには完全降伏のエキサイト状態に持っていかれます。さらにハドリ・キャリマンのコルトレーン派丸出しの激烈テナーサックス・ソロ、ルイス・ガスカのハイノート・トランペットも興奮を煽ります。う~ん、こんなん生で見たら発狂でしょうねぇ♪
そしてその興奮の頂点で、いきなり和みのホーン・リフが演奏され、これが「Faith Interrlude」という曲なんでしょうが、お待ちかね、サンタナの官能のギターが登場してきますので、ここが最高のに気持ち良さで、心底、痺れます♪ 本当に短いのが残念ですが、その未練を残しつつ、演奏はクライマックスの「Them Changes」へ突入します。
ここはフリージャズっぽい混濁に満ちたパートを経ているので、大興奮のリフが始まると、もうたまりません♪ この南部ソウル的なノリにラテンリズムのスパイスは最高ですねぇ! バディ・マイルスのボーカルも、とことん黒っぽく、サンタナのギター泣きまくりです。ただし物凄く前衛暴力的というか、ここでもジョン・マクラフリンの影響がモロ出しになっています。ちなみにこのあたりになると、完全にスタジオで手直ししているのが分かるのですが、ライブ特有の熱気を見事に再現していると思います。
B-1 Free Form Fnukafide Filth
タイトルどおり、フリージャズとファンクの融合を狙ったジャムセッションです。もちろん拍手や歓声が聞こえるのでライブ演奏かと思いきや、これは完全にスタジオで加工されている演奏です。それは明らかに複数聴こえる各種楽器の絡み等から明らかですので、じっくりお楽しみ下さい。というか、実はあまりそのあたりを気にするのも不粋な話ですね……。
さて、演奏は思わせぶりな出だしから、激烈ファンクの嵐となり、このあたりはマイルス・デイビスが出てきそうな雰囲気さえ漂います。もちろんサンタナのギターは官能と泣き、明暗のはっきりしたフレーズをたっぷり聞かせてくれます。またハドリ・キャリマンはバリバリのジャズメンとしての矜持を保つ貫禄のソロ、バディ・マイルスはどこまでも重いビートで勝負しています。
そして中盤はラテン・パーカッションの乱舞の中で、参加メンバー各々が自己のペースを掴もうと暗中模索していきますが、そこから全員がひとつのグルーヴを作り上げていくあたりが圧巻です。もちろん録音編集操作によって、演奏は幾重にも重ねられ、あるいは切り貼りされているのですが、それが逆にプログレ味まで出ており、混濁的快感に浸れるのです。
さらに後半はバディ・マイルスの即興的な歌まで飛び出し、ハドリ・キャリマンのテナーサックスやサンタナ&ニール・ショーンのギターも熱く炸裂して大団円を迎えるのでした。
ということで、これは熱いアルバムです。そしてカルロス・サンタナというギタリストが単なるラテンロックの範疇からジャズ・フュージョンに大きく踏み出した、その第一歩を記した作品でもあります。この後、グループとしてのサンタナは「キャラバン・サライ」という、凄いけれども、その反面、煮えきらず、つまらない傑作盤を出すことになります。そしてそれ故にバンドはメンバーの出入りが激しくなり、純粋のバンドではなくなってしまう時期に突入するのですが、その発端はこのセッション・アルバムだったように思います。
今にして思えば、それはそれで正しい道だったようにも思いますが、今日でもバリバリの第一線で活躍するカルロス・サンタナとグループとしてのサンタナは、驚異の不死鳥とでも申しましょうか、ここで聞かれるグルーヴは永遠に不滅です。
昨日は仕事でゴッタゴタのメチャクチャな1日でしたので、ブログも嘆き節だけでしたが、実は聴こうとしていたのが、これでした――
■The Rotters' Club / Hatfield And The North (Virgin)
1970年代後半のフュージョン・ブームは、それまで頑なにロックを拒絶していたガチガチのジャズファンの目を、結果的にロックへ向けさせる役割も果しました。そしてその流れから再発見されていった分野のひとつが、今日でいうところのカンタベリー・ミュージックです。
しかしそれは当時、イギリス流ジャズロックの根源的なバンドであるソフト・マシーンから意味づけして聴かれていったもので、あくまでも「ジャズ」に拘ったものだったと、私は回想しています。
と同時に湧き起ったAORブーム、当時はシティ・ミュージックと呼ばれていましたが、その洒落た雰囲気としなやかなグルーヴを持った音楽が求められたことから、カンタベリー・ミュージックが急浮上したという経緯もありました。
で、私の場合は、その「カンタベリー」云々についてはほとんど意識することなく、ただ英国プログレからの流れで聴いていたのです。つまりキング・クリムゾンあたりのジャズの香りが強いバンドのひとつとして、ソフト・マシーンやハットフィールド&ザ・ノースに辿り着いたわけです。
特にハットフィールド&ザ・ノースはとても刺激的でありながら浮遊感も満点という、なかなか気持ち良いバンドでした。しかもジャズ味もたっぷり♪ メンバーはフィル・ミラー(g)、リチャード・シンクレア(b,vo)、ピップ・パイル(ds) を中心に、デイブ・スチュアート(key) を加えた4人組が基本です。そしてライブやレコーディングでは随時、ホーン隊やコーラス隊を加え、1975年に発売されたこの2ndアルバムも、その基本線が守られています。
演奏内容はズバリ、フュージョンですが、これが世に出た当時はクロスオーバーでもジャズロックでも無く、プログレ扱いでした。その内容は――
A-1 Share It
アメリカではけっして生まれることの無い、独自の英国ポップスというメロディアスな屈折ボーカル曲ですが、軽快なリズム、シャープなビートが聴くほどに心地良くなっていきます。間奏のキーボード・ソロからは完全にフュージョンの香りが漂い、アレンジも綿密であることが確認出来ます。
A-2 Lounging There Trying
前曲からいきなり繋がるギター・インストですが、これも完全にフュージョンしています。ギターも味わい深いですが、跳ね回るベースが魅力的です。
A-3 Big John Wayne Socks Psychlolgy On The Jaw
A-4 Chaos At The Greasy Spoon
A-5 The Yes No Interlude
A-6 Fitter Stoke Has A Bath
A-7 Didn't Matter Anyway
上記5曲がメドレーで演奏されていきますが、鉄壁のアレンジと完璧な演奏に圧倒されます。特に「The Yes No Interlude」は強烈なアドリブ合戦展開されますが、そのウラでは緻密なアレンジが遂行されていくという二面的な演奏が、ある時は宇宙空間を、またある時は深海底での蠢きを、そして時には異次元ジャズの世界を現出させていきます。それにはゲストのホーン隊も参加し、全くのジャズになっている部分では当時の最も過激なジャズが演奏されていると思います。
そしてこの猛烈な部分が過ぎて始まる「Fitter Stoke Has A Bath」のノーテンキな歌が、たまらんほどに心地良いのです♪ ちなみにバンドでボーカルを担当しているのは、ベーシストのリチャード・シンクレアだと思いますが、それにしても後半のスキャットと弾むような楽しい演奏は、後のA0Rや日本のニューミュージック系歌謡曲にダイレクトに繋がるものだと思います。
また最後の「Didn't Matter Anyway」は正統派プログレ丸出しのボーカル曲♪ ゲスト参加のジミー・ヘイスティングスのフルートは、もう最高です!
B-1 Underdub
最近、フロアDJ達に発見され、にわかに人気が出てきたインスト曲です。とにかくキーボートが素晴らしく、隠し味的なリズムギター、ベースとドラムスの躍動感も最高です。このあたりの完成度は、当時のジョー・ザビヌルやハービー・ハンコック、チック・コリアあたりの演奏と比較しても負けるものではないと思います。
B-2 Mumps
4つのパートからなる組曲ですが、最初と最後は「Your Majesty Is Like A Cream Dount」と名付けられた同じ曲というか、つまりジャズのテーマ提示と同じ役割になっているという、極めてジャズっぽい展開になっています。そしてアドリブパートにあたるのが「Lumps」というタイトルの部分ですが、過激なフリーロック、白熱のポリリズム、ハードロック等々が渾然一体となって、しかも暗黙の了解で進んでいきます。さらに全体に浮世離れしたような女性コーラスまでもが用いられ、激烈な部分と気持ちよく浮遊していくコントラストが絶妙の流れで展開していくのでした。特に鋼のようにしなやかで強靭なリチャード・シンクレアのベースが凄い!
そして続けて何事も無かったかのように、そのシンクレアが白々しく歌ったりもしますが、これが何とも言えない味の世界です。また後半の泣きギターとハードなテナーサックス・ソロは、如何にもフュージョン満点♪
さらに第3部になっている「Prenut」はコーラスとキーボードが壮大な音の壁をつくり、ドラムスがそれを壊さんとして奮闘するあたりが、良く出来ています。
ということで、両面約50分にわたる心地良い時間が終わります。しっかり聴いても良いですが、本日、久々に聴いてみたら、けっこうBGMとしてもイケるところがありますねぇ♪ ジャケットも素敵ですし、案外そのセンも狙っていたのかもしれません。
ちなみにこのバンドのメンバーはキャラバン、マッチング・モウル、デリヴァリー、ゴング、エッグといったカンタベリー系の有名バンド出身者で構成されており、デビューは1974年です。このアルバムは前述したように2枚目の作品ですが、なんとこれだけ完成度が高いものを出した直後に発展的に解散! ナショナル・ヘルスという、よりジャズに近づいたバンドを結成・活動していきます。そして所謂「カンタベリー・ミュージック」というジャンルの中心として評価されるのですが、実はその一番良い時期が、このアルバム製作時だというのは、聴けば納得出来ると思います。
なお、現行CDは未発表ライブ録音のおまけ付き♪