■E.C. Was Here / Eric Clapton (RSO)
昭和49(1974)年10月のエリック・クラプトン初来日公演は、所謂ひとつの事件でした。
それは極東への神の降臨であり、我国のファンの中でも特にギター好きならば、万難を排して会場へ参集する儀式に他なりませんでしたが、なんと東京では武道館で2回の開催予定だったチケットが、瞬時に売れ切れ! さらに追加公演もアッという間に……。
それでもサイケおやじは必死で、どうにか追加された11月2日を入手出来たのですが、ここで友人から初日の分と交換してくれ、と懇願され、それはなかなか良い席だったので、なんのためらいもなく了承したのですが……。
さて当日、なんとサイケおやじの都合が厳しくなり、やっと会場へ入った時、神様は2曲目の「Let It Grow」をアコースティックでやっていました。
その時の来日メンバーはエリック・クラブン(g,vo) 以下、ジョージ・テリー(g)、ディック・シムズ(key)、カール・レイドル(b)、ジェイミー・オールデイカー(ds,per)、イヴォンヌ・エリマン(vo,g)、マーシー・レヴィ(vo) という、まさにバリバリの現役バンドでしたから、実は来日が決定した頃から、ライプの初っ端はどんな曲で始まるのか? ファンの間では様々に予想され、私も友人達と語り合っていたのです。そして希望的観測としては「いとしのレイラ」が一番人気だったと記憶しています。それが……。
私の聴けなかったオープニングには、チャップリンの映画音楽だった「Smile」が地味に演じられそうですし、3曲目にはレイドバックと称された、私にとっては気抜けのビールという「Better Make It Through Today」が、それこそ茫洋と歌われたのです。あぁ、強烈な肩すかし!?!
それでもファンは拍手していましたよ。私も含めて、なんとか自ら盛り上がらないと申し訳ないような気分じゃなかったでしょうか……。
ですから4曲目に「Badge」が出て、それ以降の中盤は「愛の経験 / Have You Ever Loved A Woman」をメインに据えたブルース大会が披露されると、グッと会場には熱気が充満し、もちろん私も大満足♪♪~♪ ついに神様の降臨です。
ところが終盤になると、例の大ヒット「I Shot Tha Sheriff」等々、ユルユルのレゲエ大会……。なんとかラストの「いとしのレイラ」で溜飲は下がったものの、アンコールの「Blues Power」は、やっつけ仕事だと感じたほど……。
まあ、今となっては、神様と同じ空間を共有出来たというか、エリック・クラプトンがそこに居ただけで満足してしまった感動が、確かにありました。
それゆえに、本日ご紹介のライプ盤が翌年発売され、その中身の「熱さ」と「濃さ」には圧倒されましたですよ。そして忽ちサイケおやじの愛聴盤となったのは、ご理解いただけると思います。
A-1 Have You Ever Loved A Woman / 愛の経験 (1974年7月19日録音)
A-2 Presence Of The Rord (1974年7月20日録音)
A-3 Drifting Blues (1974年7月20日録音)
B-1 Can't Find My Way Home (1974年7月20日録音)
B-2 Rambling On My Mind (1974年12月4日録音)
B-3 Further On Up The Road (1975年7月20日録音)
録音されたのは1974年7&12月と翌年の7月の音源から、上手く編集されていますが、とにかくエリック・クラプトンの充実、その本領発揮度は素晴らしいかぎり♪♪~♪ 前記したバンドメンバーとのコンビネーションにも強い信頼の絆が感じられ、とても良い雰囲気なんですよ。
それはまず冒頭、「愛の経験」の、まさに歌詞通りの人生を送っていた当時のエリック・クラブンが、歌と言うよりも、己のギターに託しての心情吐露が畢生の名演!
今では良く知られているように、その頃のエリック・クラプトンは親友のジョージ・ハリスンの妻だったパティとの不倫関係というか、どちらかと言えばエリック・クラプトンの自虐的な片思いが通じていたドロドロの時期だったとはいえ、それゆえに悪いクスリや酒に溺れ、また友情と恋愛感情の狭間で神様とは思えぬほどの弱さを露呈していたのですから、たまりません。
密やかに忍び寄るイントロのワンフレーズから、胸を締めつけられるようなチョーキングによるブルース衝動、そしてほとんど半分しか歌詞を歌わず、あとはギターに代弁させるという、まさに「ブルースを歌うギター」の神髄は、時に激した感情の爆発も含めて、筆舌に尽くし難いものです。そしてジョージ・テリーの上手い助演からのバトルと協調も素晴らしすぎますねぇ♪♪~♪
実はエリック・クラプトンのプイベートな事情は、これをリアルタイムで聴いていた時には、それほど知らなかったのですが、後になってそれを知るほどに、ますます味わい深い名演になっていくのも、凄いところだと思います。
これぞっ、ブルースロックの極みつき! これを聴けただけで、アルバムの価値は十分すぎるほどです。
しかし嬉しいことに、他の演奏も素晴らしいんですねぇ~♪
同じく黒人ブルースの古典曲「Drifting Blues」では前半をアコースティック、そして中盤からはエレキに持ち替えてのクラプトンのブルースギター、その秘密が解き明かされますが、スライドでのチューニングが幾分、甘いのはご愛嬌でしょう。こういう普段着姿の神様にも好感が持てますし、ここでもジョージ・テリーの繊細なプレイが感度良好です。ちなみにアナログ盤ではフェードアウトで終わるパートが、CD化された時にはロングバージョンとなり、続く「Rambling On My Mind」もしっかり楽しめる嬉しいプレゼントになっています。
その意味ではアナログ盤に正規収録の「B-2 / Rambling On My Mind」が尚更に興味深く、エリック・クラプトンの掛け声の指示によってキーを変えていく転調技が、流石のバンドアンサンブルで堪能出来ますよ。もちろん全員のブルースロック見本市は見事の一言です。ちなみに、ここで聴かれるダーティなギターの音色は、もしかしたらギブソン? この時期の神様はフェンダーのストラトキャスターが有名ですが、やっぱりギブソンを使ってくれると、個人的には嬉しいですねぇ。
それと「Presence Of The Rord」や「Can't Find My Way Home」といった、ブラインド・フェィス時代の代表曲が、コーラス隊として参加している女性ボーカリストのイヴォンヌ・エリマンとのデュエットとして演じられているのも、なかなか良い感じ♪♪~♪ と言うよりも、実は彼女の歌いっぷりがあってこそ、後半で炸裂するエリック・クラプトンのギターが凄い「Presence Of The Rord」には、絶句して歓喜悶絶ですよっ! なんて、強烈なっ!
こうして迎える大団円が、アップテンポのロックビートが冴えまくる「Further On Up The Road」ですからねぇ~♪ もうエリック・クラプトンが絶好調の怖いフレーズを連発すれば、力強いバックメンバーのノリも最高ですから、ついつい一緒にギターを弾きたくなりますよ。
ということで、これはエリック・クラプトンのギターを堪能出来る人気盤♪♪~♪ 確かに今となっては、その後のライプ過多症候群を鑑みて、一抹のマンネリ感もあると思います。しかし当時は、これしか、無かったんですよ、ブルースを存分に弾きまくってくれるエリック・クラプトンのレコードは!
そして後年、この音源を拡大したものに、その他の1970年代ライプを追加した4CDのセットも発売されるのですが、基本はやはり、このアルバムじゃないでしょうか。それは私の勝手な思い入れが強いところでしょうし、確かにエリック・クラプトンのギタープレイは不遜にも手癖が散見されるのですが、こんなに気持良い「手癖」を持っているのは、神様の証です。
まあ、本人は「神様」扱いが迷惑で、それゆえに「ギター」よりも「歌」を優先させていた事実は歴史になっていますが、やっぱり、ねぇ~。ファンはギターを弾くエリック・クラプトンが好きなんですよ。
このアルバムが、あえて作られたのだって、それが分かっていた結果だと思います。