犬のいる暮らし(四) Y・S
ボブを飼い始めてから散歩がストレスになってきた。彼の性格が頑固で凶暴な上に超わがままときているからだ。散歩中、気に入らないとてこでも動かない。座り込んで飼い主をじっと睨み付ける。負けじと強引に引っ張ると寝そべって抵抗する。かと思うといきなりま逆な方向へ走り出す。体は十キロ程のチビだが、全身筋肉の塊で、頭と足の大きさは大型犬並み、足裏の肉球などはまるで熊のようだ。ボブに引っ張られて何度転びかけたり、腕や足の筋を傷めたことか。大型犬のオスに出会うと闘争心丸出しで鼻息が荒くなるので、私は毎回必死で喧嘩をさせないように努める。すると彼は面白くないので腹いせに、一緒に散歩をしている家族である老犬に嚙み付くのだ。先住の老犬はすっかりボブにおびえきっている。「先輩の犬になにをするか!」ボブを叱りつけていると、動物虐待と間違えられそうになったこともある。彼の風貌が玩具のように可愛く愛らしいので、周りの人々に勘違いをさせるようだ。実に腹立たしい。
近年、この犬を見かけなくなった筈だ。あまりに飼い難いので需要がないのだろう。
散歩中「珍しい犬ですね。なんという種類?」とよく声を掛けられる。犬種が解る人には「ほぉー、珍しい」と意味深に感慨深げに言われる。人間にはまったく興味がないのか頭を撫でられてもボブは尾を振ることもなく、知らん顔をしている。愛想のない奴だ。
他の犬を極力避けて散歩をするのが私の日課となっていた。そんなある日の夕刻。小さい公園で小さな犬に逢った。中年のおじさんが連れていたその子犬は、おじさんからおやつをもらっていた。ボクも匂いにつられて近づいた。いままでボブは小さい犬を喧嘩の対象と見ていないのか、喧嘩をしたことは一度もない。私もつい気が緩んでいた。と次の瞬間、すごい唸り声とともに取っ組み合いが始まった。しまった! 相手は子犬だ。殺してしまうかもしれない。どうしよう。私はもうパニック寸前。
「やめろ! ルナ」おじさんが怒鳴った。はっ? ルナ? よく観るとボブがやられている。一瞬、状況が飲み込めずにぽかんとしてしまった。おじさんは二匹を引き離すと「大丈夫か、悪かったな。怪我してへんか?」しきりに謝りながらボブの体を見ている。「いいえ、そんな、怪我なんて・・・」あとは言葉が続かない。ボブがしっぽを巻いて逃げてきたなんて。それもあんなに小さな犬に、しかもメスに。どうにも笑いが止まらない。
この話を家人にしてもしばらくは誰も信じてくれなかった。が、どうやら彼はカワイイ女の子(犬)には弱いというのがわかってきた。犬のクセになんという奴。わが夫はこんなボブをことのほか可愛がっている。頑固者どうしで気が合うのかもしれない。(続く)
ボブを飼い始めてから散歩がストレスになってきた。彼の性格が頑固で凶暴な上に超わがままときているからだ。散歩中、気に入らないとてこでも動かない。座り込んで飼い主をじっと睨み付ける。負けじと強引に引っ張ると寝そべって抵抗する。かと思うといきなりま逆な方向へ走り出す。体は十キロ程のチビだが、全身筋肉の塊で、頭と足の大きさは大型犬並み、足裏の肉球などはまるで熊のようだ。ボブに引っ張られて何度転びかけたり、腕や足の筋を傷めたことか。大型犬のオスに出会うと闘争心丸出しで鼻息が荒くなるので、私は毎回必死で喧嘩をさせないように努める。すると彼は面白くないので腹いせに、一緒に散歩をしている家族である老犬に嚙み付くのだ。先住の老犬はすっかりボブにおびえきっている。「先輩の犬になにをするか!」ボブを叱りつけていると、動物虐待と間違えられそうになったこともある。彼の風貌が玩具のように可愛く愛らしいので、周りの人々に勘違いをさせるようだ。実に腹立たしい。
近年、この犬を見かけなくなった筈だ。あまりに飼い難いので需要がないのだろう。
散歩中「珍しい犬ですね。なんという種類?」とよく声を掛けられる。犬種が解る人には「ほぉー、珍しい」と意味深に感慨深げに言われる。人間にはまったく興味がないのか頭を撫でられてもボブは尾を振ることもなく、知らん顔をしている。愛想のない奴だ。
他の犬を極力避けて散歩をするのが私の日課となっていた。そんなある日の夕刻。小さい公園で小さな犬に逢った。中年のおじさんが連れていたその子犬は、おじさんからおやつをもらっていた。ボクも匂いにつられて近づいた。いままでボブは小さい犬を喧嘩の対象と見ていないのか、喧嘩をしたことは一度もない。私もつい気が緩んでいた。と次の瞬間、すごい唸り声とともに取っ組み合いが始まった。しまった! 相手は子犬だ。殺してしまうかもしれない。どうしよう。私はもうパニック寸前。
「やめろ! ルナ」おじさんが怒鳴った。はっ? ルナ? よく観るとボブがやられている。一瞬、状況が飲み込めずにぽかんとしてしまった。おじさんは二匹を引き離すと「大丈夫か、悪かったな。怪我してへんか?」しきりに謝りながらボブの体を見ている。「いいえ、そんな、怪我なんて・・・」あとは言葉が続かない。ボブがしっぽを巻いて逃げてきたなんて。それもあんなに小さな犬に、しかもメスに。どうにも笑いが止まらない。
この話を家人にしてもしばらくは誰も信じてくれなかった。が、どうやら彼はカワイイ女の子(犬)には弱いというのがわかってきた。犬のクセになんという奴。わが夫はこんなボブをことのほか可愛がっている。頑固者どうしで気が合うのかもしれない。(続く)