遅ればせながら、歴史的なこの闘いを、例によってメモなどを取りつつ詳細に観たので、論評を記しておきたい。歴史的なというのは、確か5年以上勝ったことがない川崎に2対0で勝ったということを指している。また、以下のような事情もあるので、この闘いの快挙は大きなものに見えた。この直前のアジアチャンピオンズリーグFCソウル(去年の韓国リーグチャンピオン)戦でこれまた歴史的と言って良い勝利を収め、直後の浦和戦で0対3という大敗北を喫していたのである。このシーソー勝敗で、どちらが本当のグランパスなのかという視点も、連覇を狙うグラとして重要になる。そういう連覇を占う意味でも、何年も何年も勝てなかった川崎に2対0で勝ったという事実は、とてつもない朗報と言えるのではないか。
さて、ゲームの出だしから、川崎がそれらしく打って出ていた。チームとしての非常なプレス能力を発揮して好位置でボールを奪うと、多人数でゴール前に殺到して行こうといういつもの戦い方である。ボール奪取も上手いし、奪取後にはとにかく多人数で攻めていく。ところで、そんな川崎に対して、いつものグランパスと違うらしい場面が3分にはもう2回も演じられていた。人数かけた川崎カウンター攻撃のボールを、上手く奪って切り返したのである。対する川崎もまた、プレス・カットで切り返す。こうして、攻守の切り替えが早い激しい攻防が、めまぐるしく展開されていく。
20分、その展開に変化が見え始めた。グラが走り勝ち、プレス・カット・反転で押し始めたのである。トゥーリオ(右後方)からサントス(左前方)への見事なサイドチェンジも数回など、走り勝っているだけではなく、敵のプレスを交わすやり方も見られたように思う。「正確なショートパスと安全なロングパスの併用」と、そんな印象だろうか。パススピードもかなり鍛え、速くなったのではないか。そのトゥーリオが25分に千代反田に負傷交代したが、グラ優勢という基本が変わらなかったのは、こういうことだと思う。「ボール繋ぎの走り」と「攻から防への切り替え走り」など「攻防切り替え時の走りの質と量」でやや競り勝ち始めたのだと。ストイコビッチ監督がこう述べていた作戦自身も、功を奏していたのかも知れない。
「川崎には長いボールをカットされてきたので、選手間の距離を大切にした」
そんな35分。玉田の得点は見事だった。技術的にも驚くようなところがいくつかあったのだが、大変激しい攻防から精神的有利へとチームをくぐり抜けさせていった点で見事な得点であったと思う。
敵ゴール前、向かってやや右よりでケネディの戻しを、右脚で鮮やかに蹴り抜いたのである。敵ディフェンダー1人が、玉田の真っ正面で両脚を広げて飛び上がるようにインターセプトを試みたが、ボールがその相手の前を通り過ぎるまでぎりぎり待って、右外側で厳しく射貫いたシュートと見えた。玉田にとって右は利き足ではなく、よほど落ち着いていないと出来ない技と見たが、どうだろうか。
「ケガからの復帰戦で、先発に使ってもらえたので、期するところがあった」
ゲーム後の玉田の言葉だが、それだけではあるまい。83分の 彼の2点目も極めて難度が高いものであって、心身の調整が非常に上手くいっているのではないか。好調永井を良い意味の刺激に換えた円熟と見たが、どうだろうか。
後半に入って川崎は、中村憲剛の育ての親・天才・ジュニーニョを入れてきた。彼の動き自身は、いつも、怖いこと、怖いこと。が、今日のグランパスはちょっと違っている。ゴール前への戻りが速くって、特にゴール正面には2重どころか、時に8人ほどで3重の防御が築かれているという調子。また、川崎は、カウンター攻勢をチームとして何回も盛り上げようとしていることアリアリだったが、なかなか良い位置でボールが奪えない。「味方の距離を大切にした」というストイコビッチの指示が厳守されているかのごとくに。でも、この「距離」そして「防御への戻りの速さ」! これらは、よほど走力を鍛えていないとやろうとしても出来ることではないと見た。ちょうどあのFCソウル戦(当ブログ、4月20日拙稿参照。右カレンダーを「前月」にして、20日をクリックすれば出ます)がこういうゲームだったのを思い出していたものだ。
そして83分、玉田のダメ押し得点。 敵ゴール前左側でまたしてもケネディ。彼を挟み込んだディフェンダー2人から左外に逃げるようにしながら、その2人の狭間から右斜め前方へ、ゆるめのヒールパスを通す。そこへ走り込んだのが、今度も玉田。フェイントも交えて左右にめまぐるしく動いていたように見えたが、結局DFたちの右側にボールを持ち出して、右脚シュート。キーパーも含めて3人ほどの敵を交わして、極めて難度の高い得点と見た。
その後のグラ、みんながみんな、本当によく走ったこと。その典型が永井だ。攻撃だけでなく防御にも、もの凄く効いているのは誰の目にも明らかだろう。
選手の距離感だけではなく、ピクシーがこう語っているのを目の前で見たような気がしたが、どうだろうか。
「走り切らない者は、使わない。若手でも走り通せる者から、チャンスを与える」
週2回以上、こういうゲームばかりはなかなかできないだろう。浦和戦は、FCソウル戦の疲れが残っていたに違いない。そういう時に、代ることの出来る若手を、どんどん試している真っ最中なのではないか。
「絶対的なスピード以外にも、持久走力もシュート力もある永井を得て、玉田が最高の円熟期に達したかに見える今、こういう中期計画に成功すれば、常勝チームが出来上がるかも知れないな。ただ、こういうゲームをしていくならば、屈強なセンターバックが、もう1人いるのではないか」
こんな思いが頭をかすめたゲームだった。