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随筆「ハーちゃんのバイバイ」  文科系

2011年09月30日 07時04分13秒 | 文芸作品

 ハーちゃんはいわゆるバイバイを、10か月過ぎからやり始めていたと思う。肘を曲げて微笑みながら、首か胸の前辺りに広げた右手を遠慮がちに小さく左右に動かす、優しげで地味なものだ。
ところが、このバイバイ、どうもおかしい。大人が声に出してもやらぬ時がかなりはっきりしているようだし、それも気まぐれというのでもなく、どうも「その意味」をちゃんと分かっているのかどうか。それで、暫く観察してみた。やる時とやらぬ時の観察などから、やがて分かってきたことがある。

 やらない時はこんなふうだ。好きな大人が家の外などへ帰っていく時。そしてやる時とは、大人と一緒に自分が外出する時なのである。彼女にとってのバイバイはこうして、「さー私は出かけますよー。外出は楽しいなー」と、そんな意味なのである。大人が一般に使用する「別れの挨拶」を、まー自分にとって良いとこ取りしているわけだ。そこで思い付いたことがあった。「俺もう、帰るわな」という「相手が出て行って、いなくなる合図」には、その意味が分かっているからこそ「私、いや。バイバイしない」ということなのかもしれない。解釈の難しいところだが、どうも意識的な拒否があるらしい。鞄などを手にとって立ち上がった時など目ざとくこちらを見つめたり、別れる時によく大泣きするところを見ると、「バイバイなど簡単にしてやるものか」と暗黙の内に語っているのではないか。これが正解なら、この言葉の意味を正しく捉えているということになるのだが。

 以上のことは、周囲にも説明して、実際に半分は確認できたことだ。連れ合いなどは、こう言ったものだ。ハーちゃんには、「外出するよ-、楽しいなー」のバイバイしかないのではないか、と。
 子どもの言葉、行為などを、それがどれだけ単純に見えることでも、大人流に解釈してはいけないと、つくづく感じたものだった。
 
コメント
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