ヴィトルト・リプチンスキ,春日井 晶子 訳「ねじとねじ回し - この千年で最高の発明をめぐる物語」早川書房 (ハヤカワ文庫 2010/05)
2003年の単行本の文庫化.欧米のこの手の本はいたずらに重厚長大なものが多いが,これはちいさく瀟洒にまとまっている.
自分の工具箱から始め,時代を遡って行くと,ヘロンの発明になるねじ式圧搾機に行き着く.技術革新はローマ人の専売特許で,ギリシャ人の才能は哲学や芸術に向けられていた,というのは誤解だったのだ.
しかしねじとねじ回しという組み合わせが出来上がるのは,つぎのミレニアム.
「機会屋の性 (さが)」という章では,鉄と性 (しょう) が合うのは才能で,音楽家が絶対音感を持つようなものとされる.(このたとえはちょっと疑問だが) 芸術的工作屋は確かに存在する.広く考えればアルキメデスやダ・ヴィンチもその一員.
解説の小関智弘さんは作家にして元旋盤工とのこと.小説は読んだことがないが,この解説にも芸術的機械屋が登場する.
ぼくの学生時代には理工系学生実験の一環に機械工作があった.大学の工作室のおじさんは,今の大学でもそうかもしれないが,なかなか芸術家肌であった.
機械を分解したとき,2時4時6時...の位置の6個のねじで止まっていたら,組み立て直す時には,2時にあったねじは2時の位置へ戻せ,4時にあったねじは4時の位置へ戻せ...と教えられたのを覚えている.戦後のねじの精度が悪かった時代の名残りだったのだろうか.
別な加速器屋の先生は,機械ほど可愛いものはないとおっしゃっていた.人間も犬も猫も苦しければ泣きわめくが,機械は文句ひとついわず,ある日突然故障する...あるいは,死んでしまうからだそうだ.この言葉は「はやぶさ」ご担当の皆さんにもご賛同いただけると思う.
そして産業革命も,巨大加速器も,宇宙飛行も,ねじなしには達成できない.
図版は多いが,この著者には図を用いて説明するという親切心はない.
カバーイラストの「ね」という字に+と-がはめこんであるのが判別可能だろうか.
2003年の単行本の文庫化.欧米のこの手の本はいたずらに重厚長大なものが多いが,これはちいさく瀟洒にまとまっている.
自分の工具箱から始め,時代を遡って行くと,ヘロンの発明になるねじ式圧搾機に行き着く.技術革新はローマ人の専売特許で,ギリシャ人の才能は哲学や芸術に向けられていた,というのは誤解だったのだ.
しかしねじとねじ回しという組み合わせが出来上がるのは,つぎのミレニアム.
「機会屋の性 (さが)」という章では,鉄と性 (しょう) が合うのは才能で,音楽家が絶対音感を持つようなものとされる.(このたとえはちょっと疑問だが) 芸術的工作屋は確かに存在する.広く考えればアルキメデスやダ・ヴィンチもその一員.
解説の小関智弘さんは作家にして元旋盤工とのこと.小説は読んだことがないが,この解説にも芸術的機械屋が登場する.
ぼくの学生時代には理工系学生実験の一環に機械工作があった.大学の工作室のおじさんは,今の大学でもそうかもしれないが,なかなか芸術家肌であった.
機械を分解したとき,2時4時6時...の位置の6個のねじで止まっていたら,組み立て直す時には,2時にあったねじは2時の位置へ戻せ,4時にあったねじは4時の位置へ戻せ...と教えられたのを覚えている.戦後のねじの精度が悪かった時代の名残りだったのだろうか.
別な加速器屋の先生は,機械ほど可愛いものはないとおっしゃっていた.人間も犬も猫も苦しければ泣きわめくが,機械は文句ひとついわず,ある日突然故障する...あるいは,死んでしまうからだそうだ.この言葉は「はやぶさ」ご担当の皆さんにもご賛同いただけると思う.
そして産業革命も,巨大加速器も,宇宙飛行も,ねじなしには達成できない.
図版は多いが,この著者には図を用いて説明するという親切心はない.
カバーイラストの「ね」という字に+と-がはめこんであるのが判別可能だろうか.