古沢 嘉通 編・訳「Arc アーク ベスト・オブ・ケン・リュウ」早川書房 (2012/5).
表題作の映画化に際して出版された9編からなる短編集.文庫本の「Arc アーク」のタイトルは「円弧」にアークのルビだったそうだが,そちらの方が良いと思う.
著者は中華人民共和国生まれで 11 歳のとき家族とともにアメリカに移住した.SF マガジンやハヤカワ文庫 SF のイメージがぼくには強いが,この本の編訳者があとがきで言うように物語作家 (ストーリーテラー) と呼ぶのが適当だろう.
表題作のテーマは不死.「母の記憶に」はウラシマ効果を扱っているが似たようなものだが,すでにこちらにも2本の映像化作品があるそうだ.
「紙の動物園」はアメリカに「買われて」来た中国人妻が作る数々の折り紙の動物たちが登場する.もっとも(日本の折り紙がもともとは中国伝来と聞いてはいるが) 動物を写実的に折るのはもっぱら日本で,しかも最近になってからだとは思う.
「もののあはれ」について,著者は「主人公は問題解決のたる積極的に行動しなければならない」という西欧的ストーリーテリングの「規則」に従わない語りに興味をいだいてこの作品を書いたと言う.しかし皮肉なことに,読後印象に残るのは日本人主人公のヒロイックな行動.はじめて邦訳されたケン・リュウ作品というのも宜なるかな.
編訳者が twitter 上で行った,気に入ったケン・リュウ作品投票では「良い狩りを」「紙の動物園」「結縄」がベスト3.もちろん全部が収録されている.
図書館で借用した.
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