竹久野生 (のぶ),オフィス K (2011/4).
著者は辻まことと武林イヴォンヌ(父母は武林無想庵・文子)の長女.竹久夢二の次男・不二彦の養女となって竹久姓になる.ちなみに辻まことの父母は辻潤と伊藤野枝.辻まことが実父であることを知らず,ずっと面白いおじさんと思っていたそうだ.
申し訳ないことだが,こうした係累への興味がなかったらこの本を手に取ることはなかったと思う.著者は祖父・辻潤をずっと敬遠していたそうだ.その気持ちは理解できる...と思う.本書には戦時下で辻潤が滞在した気仙沼を訪れ,その直後にあえて書いた「孫から T・J 氏への手紙」という文章が心を打つ.
造園家の夫とともにコロンビアへ移住.現在は絵画作品を発表している.本書は空を飛んで個展のために日本各地を巡った記録が中心だが,ときどき著者のこれまでの半生が織り込まれている.日本人との交流を通して,南米文化の一端をのぞくこともできる.
画廊の個展には,賃貸で場所を借りる形式と,画廊が展覧会を企画する方式があるという.今回はほとんどが後の形式だが,その実行には人脈が必要.本書の読みどころはその人脈で,矢内原伊作,宇佐美英治など,辻まことと交流のあった人たちも登場する.
帯の CM.
- 日本は本当に 私のルーツ なのか?
- アンデスの大地と空の下で,捨て子のようにそこに座り込んで,あたりに咲く花や草々をじっと眺めている少女.少女の幻想はかなり移り気だが屈託がない.---画家・野見山暁治
- 生来のコスモポリタンとして生きる彼女の絵画に自己の存に処のような懐かしさを感じるファンは多い.南米コロンビア在住42年,日本列島を全国行脚しつつ,日本についての気持ちをまとめた旅日記.
5ページの色刷りで著者の絵画が紹介されている.野見山の文章は彼女の絵を見て感じたことではないだろうか.本文はうまくはないが堅実で,内容は豊富だが文章は普通のおばさんの作文という感じ.1-2ページにわたって改行がなかったりするのは,ちょっと閉口だ.
「今の日本で元気なのは中高年世代の女性,(若者は) たいていはなんとなくうつむいてうちにこもっている感じでかわいそうな気がした.彼らが未来に夢を持てない社会を作ったのが,我々・元気な世代だと思うと,その元気が疑わしく見えてくる.体全体で世界の危機の「空気」を読めるのが若者で,読めない鈍感な存在が中高年なのかもしれない」...反面,発展途上にあるコロンビアでは,数々の難問題をかかえながらも,学生たちは前向きで,ラテン特有の現在を味わいたい生き方を楽しみ,活気に溢れている,と著者は言う.
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