オリヴァー・サックス,大田直子訳「音楽嗜好症(ミュージコフィリア)脳神経科医と音楽に憑かれた人々」ハヤカワノンフィクション文庫 (2014/08).
裏カバーに記載された紹介*****雷に打たれ蘇生したとたん音楽を渇望するようになった医師、ナポリ民謡を聴くと発作を起こす女性、フランク・シナトラの歌声が頭から離れず悩む男性、数秒しか記憶がもたなくてもバッハを演奏できる音楽家……。音楽と精神や行動が摩訶不思議に関係する人々を、脳神経科医が豊富な臨床経験をもとに温かくユーモラスに描く。医学知識満載のエッセイは、あなたの音楽観や日常生活さえも一変させてしまうかも? 解説/成毛眞*****
カバーデザイン 吉田朋史.カバーフォーマット 坂野公一.タイトルのフォントが凝っている.
解説に曰く「2010年に単行本で発売された当初は2500円という価格だったので,音楽好きの若い読者にとってはハードルが高かったかもしれない」.若くはなかったがハードルは高かった.
音楽嗜好症だけを扱っているのではなく,内容は「音楽病」てんこ盛りで,とても面白い.巻末に文献リストはあるが,索引がないのは残念.
ここで扱われている事項を症例中心に抜き出してみると...
突発性音楽嗜好症,音楽発作,音楽誘発性癲癇,脳の中の音楽,脳の虫(しつこい音楽・耳に残るメロディ),音楽幻聴,
失音楽症,絶対音感,蝸牛失音楽症,片耳だけの立体知覚,音楽サヴァン症候群,音楽と視覚障害の関係、共感覚,
記憶喪失,失語症と音楽療法,運動障害と朗唱,音楽とトゥレット症候群,リズムと動き,パーキンソン病と音楽療法,幻の指(片腕のピアニスト),ジストニー.
といったところが第1部-第3部で記述され,第4部は「感情、アイデンティティ、そして音楽」だが,その目次は「音楽と精神・神経性疾患との関係:音楽の夢,音楽に対する無関心,音楽と狂気と憂鬱,音楽と感情,音楽と側頭葉,ウィリアムズ症候群,認知症と音楽療法」である.
以下はかってな連想.
この本が指す「音楽」はクラシックを中心とする西洋音楽である.したがって12音階ではない音階を用いる世界では,この本の内容はほとんどチャラである.200年前の日本やアフリカやアラブで,著者が (現在と同じ知見を持っていると仮定して) このような本を書いたら中身は全くちがったものになるはずだ.それは裏カバーのCMに記載された,ナポリ民謡やシナトラやバッハを別な歌や歌手に入れ替えればよいという問題ではない.
ここにある症例はすべて西洋文明に固有の「文明病」ということになる.
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