Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

科学蘊蓄小説 「月まで三キロ」

2021-07-09 21:05:19 | お絵かき
伊与原新 「月まで三キロ」新潮文庫(2021/7).単行本は2018/12刊行.

科学ネタを使うがSFではなく,ふつうの中間小説.著者は横溝正史ミステリ大賞受賞の経歴があるが,ミステリでもない.
短編6,掌編1に,解説代わりの逢坂剛との対談.
帯には,新田次郎文学賞,静岡書店大賞受賞,未来屋小説大賞第1位とある.

著者は東京大学大学院で地球惑星科学を専攻したそうだ.「月まで三キロ」は自殺願望者が,拾ったタクシーの運転手に月までの距離を講釈されると言う内容,と書いてしまうと身も蓋もないが,読後感は悪くない.後は,雪の結晶,アンモナイト,...など,前半は著者の専攻から遠くない話題がからんでくる.

この科学の蘊蓄を垂れる傾向はページを追うごとに希薄化する.しかし主役ではないとしても,科学者が登場し,その人格+博学で,主人公に影響することは共通している.
「エイリアンの食堂」には16トンの古巣であるつくばの研究所も登場.ここで女性科学者が女子高校生を相手に語る「138億年前に宇宙と一緒に生まれた水素原子が,いろんなヒト・いろんな生物・いろんな水素化合物を.地球の陸・海に限らず,宇宙空間をを転々としている」というお話が,ホーム・ランよりスケールが大きく,おまけに絵空事(ばかり)ではない.
「山を刻む」の,一眼レフを手に家出した主婦が山小屋を買う決心をするという結末は,悪く言えば突飛にすぎ,よく言えばロマンだなあ.

巻末の対談でも触れているが,とくに (会話ではない) 地の文章は,個々の文が短く,修飾語が少なく,理工系の論文と共通している.内容もふつうの小説なので,安心して読めた.
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