「須賀敦子が選んだ日本の名作: 60年代ミラノにて」河出書房新社 (文庫 2020/12).
トップ画像は原書 Bompiani 版 第1巻 (1965/1) の表紙.
ここには,森鴎外「高瀬舟」,太宰治「ヴィヨンの妻」などの有名作が並んでいる.
「春は馬車に乗って」も有名作だと思うが自分には初読...だと思う.タイトルからの想像を裏切り,陰々滅々だった.ここに選ばれた名作は暗いものが多く,イタリア人はどう思うだろうか.
以下は選んだことに個性を感じる作品群より :
坪田譲治「お化けの世界」は児童文学に分類するのが常識かもしれないが,子どもたちがふざけて父親の首を絞める場面があったりする.「お化け...」と同じ善太と三平が登場する「風の中の子供」は,東京朝日新聞夕刊 1936年9月5日から11月6日 に連載されたそうだが,須賀はイタリア版の解説で「避けようもなく真っ逆さまに戦争に向かう日本にあって」「家庭では子どもたちも親と一緒になって読んでいた」と書いている.16 トンの母親も読んでいたらしい.
深沢七郎「東北の神武たち」.東北の貧農の次・三男は飼殺し.セックスも一生経験できないという状況下に起こるハプニング.髪も髯も伸び放題なのが神武天皇の御真影を思わせるから,彼らはズンム (神武) とも呼ばれる.日本人なら「神武」の文字に反応すると思うが,須賀の解説は神武天皇には触れていない.
庄野潤三「道」.穏やかな作風の作家と思っていた.どこかメルヘンっぽかったり,晩年は晩年は老夫婦と孫とのふれあいを描く私小説ふう...という先入観があったが,この「道」は初期の作品.パン職人 とその妻にして2児の母,妻とパン店主の関係がタネで,節度も緊張もある小説的な小説だった.
石川淳「紫苑物語」は「狂風記」をコンパクトにしたような,はちゃめちゃ作品... と書いたものの,狂風記については印象が残っているだけでストーリーは全く覚えていない.紫苑...を忘れるのも時間の問題.忘れるために読書しているようなものだ.
須賀さんの解説は,日本では狐狸が化けるという話から始まる.この作品も設定はそういう意味で日本的だが「日本の読者は西洋起源のシンボリズムに作品解釈の鍵を見出す」と方向転換している.あまりイタリア人向きの解説ではないかも.
須賀さんの解説は,日本では狐狸が化けるという話から始まる.この作品も設定はそういう意味で日本的だが「日本の読者は西洋起源のシンボリズムに作品解釈の鍵を見出す」と方向転換している.あまりイタリア人向きの解説ではないかも.
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