
栗原康,岩波現代文庫(2020/1).単行本は 2016/3 岩波書店.
Amazon の内容紹介*****
女性を縛る結婚制度や社会道徳と対決し,貧乏に徹しわがままに生きたアナキスト,伊藤野枝.パートナーの大杉栄とともに国家に惨殺されるまでの28年の生涯を,体当たりで描き話題を呼んだ,爆裂評伝.「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」.100年前を疾走した野枝が現代の閉塞を打ち破る! 解説=ブレイディみかこ.
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タイトルは勇ましいが,伊藤野枝の創作「白痴の母」「火つけ彦七」から取ったもの.内容は編年体に近い普通の伝記.こどもに本を読み聞かせるとき,相手の顔を見ながら「すごいね」「かわいそうだね」などと付け加えることがあるが,そう言う文体.これを良しとするか,馬鹿にしていると思うかで,著者に対する評価が分かれそう.著者によるあとがきは「この本をかいているあいだに,かの女ができた」で始まる.
「はじめに」によれば,故郷・今宿では伊藤野枝はいまでも「淫乱女」ということになっているそうだ.この本が語るのは野枝の恋愛感が中心で,アナキストとしての側面はよくわからない...あまり深い思想は持っていなかったのかもしれない.彼女の発言はもっばら罵詈雑言だが,その権威に対する罵詈雑言は100年後の今でも立派に通用する.
淫乱の喜びは若い時のこと,もし彼女が婆さんになるまで生きながらえたらどうなったかと,想像したくなる.同じ想像について,ブレイデイみかこさんが解説に書いていることは現実的でない.
断片的なエピソードもおもしろい.
- 赤ん坊が小便したらおむつを絞ってまた当てる.大便は庭にふるい落とす.
- 義理が悪い親類縁者に平気で金をせびりに行く.
- 大杉ら同志によれば,料理が手早くうまい.ただし平塚らいてうの評価は「まずくてきたない」.
- 銭湯が苦手.これは多分銭湯ルールが守れないためだろう.
- ...
関東大震災直後,甘粕大尉らに虐殺されたのだが,それでも一応裁判はあり,甘粕に懲役10年が判決されたのは知らなかった.野枝については辻まことの母親として知っていた程度であった.
岩波さんはイメージチェンジを図っているのかと思わせる一冊.
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