Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

裁判の非情と人情

2017-07-20 08:53:36 | 読書

原田 國男,岩波新書 (2017/2).

帯に釣られて購読.岩波書店の「世界」連載をまとめたもの.連載から転載されたらしい挿画 (赤池佳江子) が楽しい.

著者が歩いてきたのは一貫して刑事畑だから,憲法とか原発とか,あるいは権力に迎合しないと出世できない,などという話題はない.最後に近く「本書を手に取った方には,元裁判官による鋭い裁判批判や最高裁批判を期待した向きもあろう.その期待には残念ながらこたえていない」という文章があるが,まことにその通り.この本は心温まるエッセイ集以上でも以下でもない.

目次は...
第1章 裁判は小説よりも奇なり―忘れがたい法廷での出会い / 第2章 判事の仕事―その常識・非常識 / 第3章 無罪判決雑感(「合理的な疑い」とは何か?/ 第4章 法廷から離れて―裁判所の舞台裏 / 第5章 裁判員と裁判官―公平な判断のために求められるもの

それぞれの章が 4 ページほどの断片集.どこを取っても発見がある.しかし,北尾トロ「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」などにくらべるといかにもお行儀がいい.

著者は最高裁調査官を務めたのだが,最高裁の裁判官に対しての「御主任」「御審議」その他やたらと丁寧な言葉遣いに違和感.普通の会社なら,外部に対する文章で,社員が社長に対して敬語を使うことはないと思うが...

「人生の達人」として紹介されるもと上司,石田穣一氏がおもしろい.著名な鉄道マニアで,国鉄・私鉄前線完全乗車の実績がある.石田氏によれば,仕事と両立させつつ余暇をうまく使うというのはダメで,まず余暇を入れて,その残りで仕事をしなければならないのだそうで,そのように後輩にも助言していたらしい.著者によれば,こういう方がいること自体奇跡であると同時に,裁判官の世界の奥深さを示していることになる.

☆☆☆★

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