Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

タブー挑戦小説「息子と狩猟に」

2020-05-09 08:42:28 | 読書

服部文祥,新潮文庫(2020/05),単行本は2018/6.

著者の名はテレビ番組「大自然グルメ百名山」で覚えていた.妻・娘と新潟県の早出川源流域で,自給自足の5日間を過ごした記録.その連想とカバーイラスト (千海博美) から,アウトドア家族小説を連想したが,全く外れた.でも収穫だった.

 

そういう小説なら読んでみよう,と思う方がおられると思うので,ネタバレ禁止というタブーを破って,ここに収められた2編が挑戦したネタ=タブーを紹介してしまおう.

「息子と狩猟に」では,ヒトを銃殺して黙っていていいか?  良しとする.

「K2」では,人肉を食べて良いか? 良しとする.

である.

 

「息子と狩猟に」では,狩猟に来た親子が,オレオレ詐欺集団のトラブルから死体を遺棄しに来た犯罪者と山中で鉢合わせする.父が相手を銃殺する (この過程は意外にあっけない) が,その後息子と,ケモノを殺すこと・ヒトを殺すことについて問答する.

父「殺したのが人間だからって,特別に気に病んでいたら,これまで殺してきたケモノたちに申し訳がたたない,狩猟をすればわかる」

子「あの人も食べちゃう?」

父「おまえ,おもしろいこと言うなあ.そうだ.ほんとうは食べたほうがいいのかもしれない」

でも最後に 2m の大熊が現れて犯罪者の死体を持ち去ってくれるあたりは,いかにも娯楽小説.

 

「K2」では 8000m 峰で遭難したふたりが雪洞で,遭難死したイタリア人の装備を身ぐるみはいでしまった上,その肉を食べて4日間を生き延びる.最後は頭を割って脳を食べてしまう.

 

著者は K2 頭頂の経験を持つサバイバル登山家だそうだ.帯の俳優・井浦新の文章「登場する人物たちの山での所作.些細であるがゆえにリアリティをます緻密な表現が臨場感と躍動感を与え...」が的を射ている.

しかし,かって食べるためにケモノを殺したマタギと比べ,この親子の狩猟はリクリエーションである.またヒマラヤ登山もお遊びといって言えないこともない.そこがひっかかる.


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« いまいちな風景画 on CDケー... | トップ |  昨日の収穫 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事