予想もしなかった出来事が相次いだ1年。日刊スポーツ社会面では連載「2022年の記憶」をスタートし、随時掲載します。初回は7月の参院選応援中に銃撃され命を落とした安倍晋三元首相の地元で混乱する、後継問題。来春予定される衆院山口4区補選まで4カ月と迫る中、決まる見通しがなかなか立たない。衆院小選挙区の区割り変更を受けて避けては通れない候補者調整も絡んで、元首相の突然の死で揺れた地元はさらに揺れている。

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 7月8日、日本中に衝撃を与えた安倍氏の銃撃死から5カ月が過ぎた。事件捜査は今も続くが、安倍氏不在の影響は今も政界に残る。安倍派は今も後継会長を決められない。安倍氏の地元衆院山口4区も同じだ。

12月31日をもって閉鎖される安倍晋三元首相の下関市の事務所(撮影・中山知子)

  地元事務所は今月31日をもって、閉鎖される。片付け作業は静かに進む。今月、下関市の事務所を訪ねた。事務所の壁に張られていたポスターもなくなり、「あべ晋三事務所」の看板だけが残る。関係者は多くを語らなかった。市民の1人は「人の出入りもほとんどなくなった」と話した。

 安倍氏の死で欠員になった同区は、来年4月23日にも補選が行われる。選挙まで4カ月だが、後継候補は決まらない。補選は、現在の小選挙区制で行われるが、次期衆院選からは10増10減に伴い、山口は選挙区が4→3へ1減となる。現在、4区以外は自民党現職が議席を持つ。補選で当選しても、次の衆院選で選挙区を得られる保証がないことが、難航の一因だ。

 先代の安倍晋太郎元外相から続く安倍家の名前を残そうと、当初は親族の擁立に期待があったが、待望された昭恵夫人は固辞。実弟・岸信夫首相補佐官の長男、信千代氏(31=元フジテレビ記者)も候補とされたが、今月11日に岸氏が次期衆院選不出馬と信千代氏の後継に言及。親族の可能性は「完全に消えた」(地元関係者)。今は安倍氏に近い国会議員らの名前が出るのみだ。比例単独の杉田水脈衆院議員の名前が一部で浮上するが、党内では賛否が割れているとされる。

 下関市は中選挙区の旧山口1区時代、安倍氏と林芳正外相(61)の父親同士が激戦を繰り広げ、「下関の角福戦争」と言われた。小選挙区移行に伴い林家は比例代表に回り、林外相は参院で当選を重ね、昨年の衆院選で現3区にくら替えした。新たな区割りで下関市は新3区となり、林氏の今の地盤の一部も含む。下関との縁から「林さんが新3区を取りに行くだろう」(県政関係者)。補選で当選しても候補者調整で林氏に勝てないとの見方も、補選の候補調整に影を落とす。

 安倍氏は17年衆院選で10万4825票を獲得したが、21年衆院選は8万448票。圧勝だったが約2万4000票減らした。10万票割れは25年ぶり。永田町では存在感があったが、地元では「安倍氏離れ」の兆しが見え始めていた。

 下関市の有権者に話を聞いた。「応援していたのに」「今も信じられない」。悲しむ声とともに「世代交代、イメージ刷新のチャンスかもしれない」という声もあった。【中山知子】

 ◆来春の衆院補選 

  1票の格差をめぐる最高裁判決が3月15日までに確定すれば4月23日投開票となる。山口4区以外に、岸本周平氏の知事選出馬で欠員となった和歌山1区でも自民党の候補者調整がこれから本格化する。和歌山で力を握る二階俊博元幹事長、将来的な衆院鞍替えが取りざたされる世耕弘成参院幹事長らの動向に注目が集まる。「政治とカネ」の渦中にある薗浦健太郎衆院議員が近く議員辞職すれば、千葉5区でも補選が行われる。