【余禄】:1970年代初頭に加藤登紀子さんが歌ってヒットした…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【余禄】:1970年代初頭に加藤登紀子さんが歌ってヒットした…
1970年代初頭に加藤登紀子(かとう・ときこ)さんが歌ってヒットした「知床(しれとこ)旅情」。元歌は森繁久弥(もりしげ・ひさや)さんが主演した映画「地の涯(はて)に生きるもの」(60年)のロケ地、北海道羅臼(らうす)町でギター片手に作ったという。戸川幸夫(とがわ・ゆきお)さんの小説「オホーツク老人」が原作で知床の番屋を守る老人を演じた
▲小紙の記者から作家に転じた戸川さんは執筆にあたって知床半島をたびたび船で取材し、危ない目にもあった。「暗礁が多く、船の墓場といわれるこの一帯の怒濤(どとう)は凄(すさ)まじく……私を頭からずぶ濡(ぬ)れにした」と書いている
▲乗客・乗員26人を乗せた知床半島ツアーの観光船が消息を絶った。世界遺産の絶景を楽しみにしていた観光客が強風の中、荒海に投げ出された可能性も高い。救助活動は難航し、ようやく発見された一部の乗客も死亡が確認された
▲知床はシベリアからの寒風がふきつけるオホーツク海に面し、流氷が流れ着く場所としては北半球で最南端とされる。その自然がアザラシやシャチ、陸上のヒグマなど豊かな生態系を支える。一方で春でも海温は低い
▲他の業者は大型連休からの運航を予定していた。強風、波浪注意報の中、なぜ出航したのか。船は昨年、浅瀬に乗り上げる事故を起こしている。船体に異常はなかったのか。検証が必要な疑問点は多い
▲「海に生きる人でもよほどでなければ、この荒海に乗り出さない」。六十余年前の戸川さんの言葉である。技術の進歩でより安全になったとはいえ、船を出す側に隙(すき)があれば、自然は牙をむく。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2022年04月26日 02:03:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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