【社説①・11.27】:国立公園の観光 保全優先の視点忘れずに
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・11.27】:国立公園の観光 保全優先の視点忘れずに
政府が全国に35ある国立公園に訪日客を呼び込もうと、高級リゾートホテルの誘致を含む魅力向上に取り組んでいる。
訪日観光は東京や京都など一部地域に集中し、オーバーツーリズム(観光公害)が問題となっている。国立公園の魅力を高めることで、訪日客の地方分散が進む可能性がある。
手付かずの自然をじっくり楽しむ滞在型の観光が広がれば、道内観光の課題である高付加価値化にもつながろう。
だが開発行為や観光客の急増で自然が破壊されるようなことになれば本末転倒だ。
バブル期に総合保養地域整備法(リゾート法)の後押しを受けて開発された大規模リゾートは、その多くが失敗した。
国立公園への誘客は、経済成長のためではなく、生態系や景観の保全を最優先として進めなくてはならない。
国立公園での民間資本を活用した事業の推進は、岸田文雄前首相が7月に指示した。
十和田八幡平(青森、秋田、岩手)など道外4公園で新たな宿泊施設整備などの検討が始まっており、政府はこれらをモデルに全国へ広げる方針だ。
米欧では国立公園内に高級リゾートやレストランがあり、来訪者向けの体験プログラムやツアーも充実している。
日本に国際水準の高品質な宿泊施設が少ないのも確かだ。
ただ高級施設などを誘致する際、公園内の一等地での建設を条件とされたり、公費助成や環境影響調査の簡素化を求められたりすることも想定される。
日本旅館協会北海道支部連合会は誘致を巡る安易な規制緩和を懸念する声明を出した。
環境保全の諸手続きを厳正に順守するとともに、地元事業者との公正な競争環境の確保に配慮しなくてはならない。
一部の国立公園では、廃業したホテルの建物が放置され、景観を損ねている問題もある。
国の関与で撤去する仕組みが導入され、大雪山国立公園にある天人峡温泉(上川管内東川、美瑛町)などで解体と跡地利用の検討が進められている。
工事には国費が投入されるものの、地元負担も少なくない。
公園内の宿泊施設は全体でみれば供給過剰との指摘もある。高級施設の誘致で新たな廃虚を生まぬよう、地域の声を聞き、目配りすることが肝要だ。
日本は国立公園の管理運営にたずさわる現地の専門スタッフ数や予算が米欧に比べて格段に少ない。政府は持続的に保全していくための体制の整備も議論するべきだ。
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月27日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます