【社説①・03.07】:核禁条約会議 不参加では橋を渡せぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.07】:核禁条約会議 不参加では橋を渡せぬ
核の恐ろしさを体現する被爆者たちの言葉の重みを、世界は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
その脅威が現実味を増すのに対抗し、核兵器禁止条約の第3回締約国会議がニューヨークの国連本部で開かれている。
「原爆は本人の未来を奪い、家族をも苦しめる『悪魔の兵器』だ」
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)事務局次長で、母親のおなかの中で被爆した浜住治郎さんが会議初日の演説で、その非人道性を強く非難した。
被爆者たちの核廃絶運動が結実した条約は、4年前に発効し、批准は73カ国・地域に広がる。
被団協は昨年、ノーベル平和賞を受賞した。ウクライナや中東問題で、「核のタブー」崩壊の危機を国内外で訴えてきた。
その注目の中、唯一の戦争被爆国・日本は米国の「核の傘」の下を理由に、またしてもオブザーバー参加を見送った。同じ傘の下にあるオーストラリアが毎回、オブザーバー参加しているのとは対照的である。
石破茂首相は公明党や野党の提案も踏まえ、「真剣に検討する」としていたが、結局、自民党議員の派遣さえしなかった。真剣に議論したのか疑わしい。被爆者らの落胆と失望は当然だろう。
オブザーバー参加すれば、意見を表明できる。原爆医療や核実験被害国への援助などの体験、知見を共有する機会にもなったろう。
日本が頼る核抑止論は、核軍拡と偶発的にも破滅を招く「恐怖の均衡」であり、平和を委ねることは危うい。
会議は、核実験被害者を支援する基金の設立や汚染環境修復などについて議論を深め、最終日の7日に「核なき世界」への決意を新たにする宣言を採択する。
条約に反対する米ロ中など核保有国のほか、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、会議に参加していない。過去2回オブザーバー参加したドイツやノルウェーも今回、出席を見送った。欧州では、独自の核抑止力を構築すべきとの声が出始めている。
ロシアやイスラエルの指導者たちは公然と核使用をちらつかせ、「核のタブー」を揺るがしている。アジアでも中国が核兵器を含む軍備を増強し、北朝鮮も核開発を進める。
核軍縮への逆風が強まる今こそ、人類滅亡への脅威という原点を見つめ直さねばならない。
日本は、保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うというなら、その覚悟を示す必要がある。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月07日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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