【天風録】:今年も実を結ぶ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録】:今年も実を結ぶ
近所のスーパーに並ぶ梅の色がにぎやかになってきた。青梅から熟れて黄色くなったものへ、だんだんと主役が変わっていく。梅干しや梅酒を仕込むガラス瓶やホワイトリカーが一緒に置かれるのも、この時季ならではだろう
▲広島市安佐南区の八木地区は戦前、梅の産地だった。広島藩の地誌、芸藩通志は「近方たぐひなし」と記す。八木梅林と呼ばれて花見でもにぎわった。だが太田川の大水で失われ、駅や小学校の名称に名残をとどめる
▲それでも辺りを歩けば畑や庭に梅が植えられているのが分かる。「いにしえへの郷愁があったのかもしれない」。この地に生まれ育ったNHKアナウンサーの杉浦圭子さんが以前、本紙セレクトのコラムにつづっていた
▲広島土砂災害に見舞われたのは9年前。直後に全国から駆けつけたボランティアが泥をさらってくれたおかげで、梅の木も永らえた。ことしも多くの実を結んだと、感謝を伝えたくなる
▲梅干しなどを仕込む作業を「梅仕事」と呼ぶ。八木でも始まった頃だろうか。食卓に出来合いがあふれる今、先人の知恵が詰まった梅仕事は静かな広がりを見せる。漬け上がりを楽しみに、じめじめの季節を乗り切りたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】 2023年06月10日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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