《社説②・01.21》:女子医大の元理事長逮捕 経営私物化の全容解明を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・01.21》:女子医大の元理事長逮捕 経営私物化の全容解明を
大学の経営がむしばまれ、医療機能が低下した。私物化の全容を解明しなければならない。
東京女子医科大の岩本絹子・元理事長が背任容疑で逮捕された。
新校舎2棟の建設で、実態のないアドバイザー業務の対価として建築士に報酬を支払うなどし、大学に1億円余の損害を与えたとする容疑だ。うち約3700万円は元理事長に渡ったとみられる。
新病棟建設の際にも、建築士に支払った報酬から、約5000万円を自身に還流させた疑いが出ている。トップを務めた同窓会組織で、職員らに不明朗な支出をした疑惑もある。
事実とすれば、立場を悪用して私腹を肥やすという言語道断の行為だ。捜査を尽くす必要がある。
元理事長は大学創立者の親族で、2014年に大学の経営を統括する役職に就いた。付属病院で鎮静剤を大量投与された男児が死亡する事故が起き、経営が低迷していた時期だ。
再建を託されたが、その手法は人件費の抑制や施設の集約など、徹底したコストカットだった。
一時は黒字に戻したものの、待遇悪化で医師や職員の大量退職を招いた。事故を教訓に設置された「小児集中治療室」も短期間で閉鎖された。病床利用率は落ち込み、収支は再び赤字に転落した。
一方で、自身の報酬は増額させていた。大学が設置した第三者委員会の報告書は「金銭に強い執着心を持っていた」と指摘する。
異論を唱える人は排除され、経営陣は「岩本1強」体制になっていった。とはいえ、専横を止められなかった周囲の責任は重い。
女子医大は、女性医師の養成に特化した国内唯一の大学だ。臓器移植や消化器などの専門医療でも評価されている。
教育機関や高度医療の拠点として社会的責任がある。公費助成や税の優遇も受けている。
混乱で最も影響を受けるのは学生と患者である。ガバナンスと経営の立て直しが急務だ。
私立大の経営トップによる不祥事が相次ぐ。今年4月には、理事会に対するチェック体制を強化する改正私立学校法が施行される。
公正で風通しの良い組織であるか、運営体制の不断の点検が求められている。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月21日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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