【社説①・03.06】:トランプ氏議会演説 米国の威信、どこへ行った
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.06】:トランプ氏議会演説 米国の威信、どこへ行った
トランプ米大統領が上下両院合同会議で政権復帰後初の施政方針演説に臨んだ。自身の大統領返り咲きで「米国は復活した」と主張した。
その手法は時代遅れの大国主義に他ならない。最優先は自国の利益で、国際協調や価値観の共有に興味はない。支援の打ち切りや関税強化で脅して言うことを聞かせる。民主主義陣営の盟主であるはずの米国の威信は就任わずか1カ月半で揺らいでいる。そのことを裏付ける内容だった。
演説でトランプ氏は、ウクライナとロシアの戦争の早期終結に取り組む姿勢を強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領が自身宛ての書簡で「和平交渉のテーブルに可能な限り早く着く準備ができている」と表明したと述べた。
ウクライナと、最大の支援国である米国の関係改善が進み、一刻も早く停戦が実現することに越したことはない。
だが演説直前に明らかになったウクライナへの軍事支援の停止という強硬措置が、2月末の首脳会談で決裂したゼレンスキー氏への圧力になったことは間違いないだろう。
会談でトランプ氏とゼレンスキー氏は、米国とロシアが進める和平交渉を巡り激しい口論となった。立場の違いがむき出しになり、予定したウクライナの鉱物資源権益に関する合意は中止となった。
ゼレンスキー氏は、停戦が実現してもロシアが再び侵略するような合意では意味がないと主張。「安全の保証がなければ停戦は機能しない」と訴えた。圧倒的な軍事力と情報収集能力を持つ米国の支援なしに停戦を保つのは容易ではない。鉱物資源の共同開発は米国の関与を求めるための突破口になるはずだった。
ところがトランプ氏にとって鉱物資源の開発はこれまでの軍事的、財政的支援の「回収」であり、ビジネスの位置付けだ。安全保障は停戦後に議論すればいいとの考えで、「プーチン大統領は約束を守る」と公言してみせた。議論がかみ合うはずもない。
被害者であるウクライナを非難し、侵略者のロシアに肩入れする。そこに見えるのは大国の首脳同士が小国を犠牲にする「取引」で、公正な和平実現が遠のく恐れがある。
英国やフランスなど欧州主要国は、ウクライナへの平和維持部隊派遣を軸とする和平構想を掲げ、安全保障への関与を強める意向を示した。ゼレンスキー氏も初めて段階的な停戦案を提示した。トランプ氏はこうした動きを受け止め、欧州やウクライナと足並みをそろえるべきだ。
トランプ氏は、関税を外交や通商問題を解決する手段と考えている。演説では「米国の魂を守る」と一方的な強化措置の正当性を主張した。しかし、中国のみならず同盟国のカナダすら犠牲にする政策は高関税の応酬を招き、各国の経済に大きな影響を与える可能性が否定できない。
国際秩序や自由貿易体制が米国の利益になることへの理解を国際社会はトランプ氏に求め続けなければならない。いずれも日本が大事にしてきたものだ。独善外交では行き詰まると伝える必要がある。
元稿:中國新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月06日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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