《社説②・12.25》:教員の処遇改善 「調整額」頼みの見直しを
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.25》:教員の処遇改善 「調整額」頼みの見直しを
残業代を出す代わりに公立学校の教員給与に一律で上乗せ支給している「教職調整額」について、政府が来年度から、基本給の4%としている現在の水準を段階的に引き上げ、2030年度に10%にすると決めた。
“ブラック職場”と揶揄(やゆ)する声もある教職の魅力向上と担い手確保に向け、中教審が「10%以上」への引き上げを答申し、文部科学省と財務省とが調整していた。
それでも実際の残業代に見合う水準にはほど遠い。来年度予算案を審議する国会で制度の是非を含めた議論が求められる。
今の教職調整額が定められたのは半世紀も前である。
教員の仕事は自発性に委ねられる面が大きく、勤務時間を把握しにくい「特殊性」があるとして、月8時間ほどだった当時の残業時間を基に一律4%という数字が決められた。以来、一度も改められてこなかった。
改善傾向にあるとはいえ、残業が国が上限とする月45時間を上回る教員は22年の調査で、小学校で6割、中学校で7割を超える。時代に応じた見直しは当然だ。
考えねばならないのは、この制度が教員の過重な負担を放置してきた側面である。残業代を支払わないため、時間外労働に歯止めがかかりにくくなる。
情報通信技術といった新分野の指導、不登校や発達障害への対応などと業務は増えてきた。教材研究、授業準備に時間をかけようと思えば定時で収めるのは難しい。そこからはみ出た努力に社会は甘えてきたと言える。
小学校での教科担任制の拡充、部活動の地域移行、スクールカウンセラーの増員など国も負担の軽減を進めている。中学校も26年度以降、1学級の人数を40人から35人へ順次引き下げることが決まった。今後5年間で残業時間を月30時間程度にする目標も掲げる。
一方で精神疾患で休職する教員が過去最多を更新し、講師の確保もままならずに欠員が増えている。お金にまつわる処遇面をいじるだけでは根本的な解決にならないのは明らかだ。
多様化する教育ニーズをこの先も学校が引き受けるのだとすれば、不要不急の業務の見直しとともに、より大胆に教員を増やすことが不可欠になる。
子どもの成長にしっかり向き合いたいというのが、真面目に取り組む多くの教員の思いだろう。それに応えるための財源を確保するよう、社会全体で声を上げていく必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月25日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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