【社説・05.09】:環境省が発言遮断 水俣の思い踏みにじった
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.09】:環境省が発言遮断 水俣の思い踏みにじった
真摯[しんし]に耳を傾ける気持ちすらない。そんな環境省の姿勢が露呈した瞬間だった。水俣病の症状に苦しみながら、昨年亡くなった妻への思いを切々と語っていた患者団体の男性の発言が突然遮られた。
1日、水俣市であった水俣病犠牲者慰霊式の後に開かれた伊藤信太郎環境相と患者団体との懇談の場で、環境省の職員が取った対応に批判が噴出している。発言時間に1団体3分という制限を設けた上で「時間なのでまとめてください」とせかし、発言者の男性が持つマイクの音を一方的に切った。
同様の仕打ちを受けた参加者はほかにもいた。患者団体の関係者によると、これまでの懇談の場では発言中に制止されることはあっても、マイクを切られることはなかったという。
慰霊式に参列した環境相と患者団体との懇談は恒例化している。2020~22年は新型コロナ禍で式そのものが中止や規模縮小を余儀なくされたが、23年からは現地での懇談も再開されている。
伊藤氏は昨年9月に環境相に就任しており、水俣を訪れるのは今回が初めてだった。訪問を目前に控えた4月下旬の記者会見では、「地域の声を拝聴し、政府としてできる限りのことをしたい」と語っていた。
多忙な身で時間に限りがあることは分かる。しかし、職員の対応が被害者の思いを踏みにじる愚行なのだと、その場ですぐに認識するべきではなかったか。
対応を問題視した患者団体側は「苦しみ続ける被害者たちの言論を封殺する許されざる暴挙」と抗議する文書を伊藤氏宛てに送付したという。当然の訴えだ。
これに対し環境省側は「例年、発言が長引くことがあり、昨年は大臣が返答する時間が短く、不十分との指摘があったため事前に持ち時間は3分と伝えた」などと釈明した。昨年もマイクを切る準備をしていたことも明らかにした。
しかし、林芳正官房長官は環境省側の対応が不適切だったとの認識を示し、8日の国会で「政府としておわび申し上げたい」と表明した。伊藤環境相も同日、水俣市を急きょ訪れ、被害者側に直接謝罪した。
水俣病を巡っては、公式確認から68年を経ても解決していない問題が山積している。もとより1団体3分という短時間では、団体側の話を十分に聞く気などない、と受け止められても仕方あるまい。懇談の「場を設ける」ことのみが省内で目的化していなかったか。環境行政の原点である公害問題への認識が希薄になっていないか。反省すべき点は多々ある。
懇談には熊本県の木村敬知事ら県幹部も同席していた。だが、環境省の対応に異は唱えなかったという。国はもちろん、熊本県も水俣病問題の当事者だ。適切な対応だったとはとても言い難い。
大臣の謝罪によって早期の幕引きを図ろうとする意図も透ける。その場しのぎの対応など誰も望んでいない。問題解決への覚悟を示し、直ちに実行してほしい。
元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説・環境省・熊本県水俣市で開かれた伊藤信太郎環境相と水俣病の被害者団体などとの懇談】 2024年05月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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