《社説①・12.30》:PFAS規制強化 原因の特定と対策を急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.30》:PFAS規制強化 原因の特定と対策を急げ
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)について、政府が水道法上の水質基準の対象とすることを決めた。定期的な水質検査や基準値を超えた場合の改善を、水道事業を担う自治体などに義務づける。
これまで代表的なPFOAとPFOSについて合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)を暫定目標値に定め、超えないよう求めてきた。努力義務としたため検査の実施や結果の公表は事業者によって対応がまちまちだった。
法による義務化で、汚染の実態が把握でき、安全な飲み水の確保につながる。ただ住民の不安が払拭されるわけではない。
基準値は暫定目標値をそのまま採用する。米国の基準値は、2物質それぞれで同4ナノグラムと厳しい。健康影響との因果関係が不十分でも予防を重視し規制を強化する欧米とは、大きな隔たりがある。
汚染が確認された地域で血液検査など住民の健康調査を重ね、50ナノグラムの基準値が妥当か常に検証し、見直していく必要がある。
そもそも排出元や流出した原因を特定し、対策を講じなければ汚染はなくならない。
水や油をはじき熱にも強いPFASは、布製品や食品容器、泡消火剤、半導体製造などで広く使われた。PFOAとPFOSは毒性や蓄積性が確認されたため、既に製造や輸入が禁止されている。
高濃度で検出が相次いでいる場所は、こうした物質を以前扱っていた工場や、泡消火剤を使っていた在日米軍と自衛隊の基地の周辺などだ。物質が土壌に残り、地下水に浸透したとみられる。
住民が独自に血液検査や現地調査に取り組み、実態や汚染源に迫っている地域は少なくない。
一方で、原因の特定に自治体が消極的だったり、米軍が日米地位協定を盾に基地内の立ち入り調査を拒んだりしている。汚泥肥料や使用済み活性炭といった思いもよらないものから汚染が広がる事例も起きている。
原因の特定や対策についても、政府は指針を示し、住民と自治体が連携して対応できるよう体制を整えていくべきだ。
費用の問題もある。一つの検体で数万円かかるとされる検査費用は、原則事業者の負担になる。水道料金に跳ね返ってくる可能性が高い。水質改善のため新たに水源や送水管の整備が必要になると、地域の負担はさらに膨らむ。
人口が減少する中、水道事業は運営が厳しくなっている。政府の財政支援が欠かせない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月30日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます