三好春樹『関係障害論』より-「一方的関係が権力を生む」
「精神科の先生というのは、若い分裂病の患者さんだとかを診てきていますが、いまだに老人のことは知らない先生が多いです。最近は痴呆を診てくださる先生も増えましたが、当時は、精神科の専門家ではあっても、老人の専門家ではなかったわけです。ですから、そういう相談を受けますと、だいたいその病院のベッドが空いていれば「入院しろ」と言いますし、ベッドが空いていないときは、何か薬を出します。薬でどうなるかといえば、妄想はなくなっても人間ではなくなるというような、そういう対応がほとんどでした。
私たちも、徘徊するからといって先生のところに相談に行きました。だいたい、介護の本には「症状が出たら早めに専門家に相談してください」と書いてありますから、早めに相談に行きます。すると、とんでもない薬をくれたり、あるいは入院させられたりで、1週間後に見に来いといわれて行ってみますと、確かに徘徊も妄想もなくなっています。ところがそれは、徘徊がなくなったのではなくて、徘徊できない状況にされているということが大変多かったのです。ですから、介護のほんの書き方は変えてもらわなければいけませんね。「早めに専門家に相談しなさい」ではなくて、「早めに良い専門家に相談しなさい」と書いてもらわないと、現場も困るわけです。本に書いてあるとおりにやったら老人がダメになった、ということが多すぎます。良い専門家がいないという場合には、変な専門家より良いシロウトのほうがまだいいと思います。たとえば、家族会の方に相談したり、介護されていたOBの方にお話をもっていったりしたほうが、はるかにいいのではないかなという気がするわけです。
(略)
ケース会議をやるときはいつもそうですが、近代科学の方法論というのは、原因を1つに求めようとします。それが「診断」です。原因は1つのはずというふうに考えますから、診断がつかないとなにもできないというのが医療のやり方です。
だけど、それにこだわらないでください。人間というのはもっと複雑ですから、原因はいろいろあるんだと考えてください。あるいは、最初は1つの原因でも、それから他のものがまた原因になってつくりだされていって、相乗効果で1つの実態ができ上っているというふうに考えればいいわけですから、1つに絞る必要はありません。だから対応策も1つとは限りません。箇条書きでいいですから、できるだけたくさん対応策を考えてみてください。」
(三好春樹『関係障害論』1997年4月7日初版第1刷発行、2001年5月1日初版第6刷発行、㈱雲母書房、15-17頁より)