ベッラのブログ   soprano lirico spinto Bella Cantabile  ♪ ♫

時事問題を中心にブログを書く日々です。
イタリアオペラのソプラノで趣味は読書(歴女のハシクレ)です。日本が大好き。

ワーグナー「マイスタージンガー」(ナチスに利用されたワーグナーの名作オペラ)

2016年01月27日 | オペラ

今、ワーグナーの後期の名作『ニュルンベルグのマイスタージンガー』全編のワーグナーの書いた歌詞を読んでいる。
ワーグナーは作曲だけでなくその歌詞もすべて自作であり、大変な天才だった。

なぜ今頃?というと、私は若気の至りで(今は反省し「再勉強中」)20代の後半からワーグナーを歌わなくなった。
同時にドイツ語の辞書も捨てた。(今は新しく買った)
その時の原因はあのヒトラーがワーグナーのオペラを愛し、ナチスの旗のもとで演奏させたということを知ったから。
そしてワーグナーの一部の子孫がヒトラーと共にそれを支持したことからだった。

しかしワーグナーの音楽はそれでも魅了し続けた。私は相反する思いに長年悩んだ。
そこでワーグナーの最高作品である『ニュルンベルグのマイスタージンガー』について勉強することになった。

登場人物は靴屋の親方ハンス・ザックス、貴族の青年ヴァルター、口うるさい市の書記ベックメッサー、金細工師のポークナー、その娘のエーファ、などが登場。
高潔な「親方」ハンス・ザックスをヒーローとして楽しい物語であるが、フィナーレはハンス・ザックスの「たとえ神聖ローマ帝国が露となって消え失せようとも、神聖なドイツの芸術は変わらず、我らの手に残るでしょう」という歌詞に続き合唱が「万歳!ザックス!
ニュルンベルグの尊いザックス!」で幕となる。

この高揚感、愛国心の連呼に後の世のヒトラー、ナチスがこれを利用してドイツの民衆を熱烈にたき付けたと思う。
もしそのことがなかったら、このオペラは作品を誤解されることはなかっただろう。

「愛国心」を歌うのはワーグナーの生涯を通じてのライヴァルであったヴェルディはこれどころではない。
ヴェルディのオペラは「祖国」「祖国」「祖国」の連発である。パートリア、パートリア、パートリアと・・・。


ところで、この「マイスタージンガー」の重要人物で金細工師のポークナーの歌詞を読んでいて、
これは!と私の長年の思い込みが解けたのだった。
ポークナーもハンス・ザックス同様、高潔な人物とされている。

第一幕第3場にてポークナーはこのように歌っている。

「このドイツの国を幾度も旅して、しばしば心を痛めたことは、我々市民の評判の悪さです。
市民はケチで意固地だともっぱらの噂!

尊い宮廷でも貧しい民衆のところでも、飽きるほど厳しい非難を耳にしました。
取引と金銭にしか、市民の目は向いていないと。
広いドイツの中でまだ私たちだけが芸術にいそしんでいることなど、彼らの眼中にはないも同然です。」


ここで言う「市民」とは裕福な職人ら中流階級であろう。
それが宮廷や貧民からも顰蹙をかっているということである。

このポークナーは多分ユダヤ人であろうと思われる。(私の判断だが)
彼の人格や知識は多くの人に敬意を受けている。
ワーグナーは筋を通すことはビシッと通しているのであった。
もちろん、ワーグナーはユダヤ人を激しく非難する文も書いている。
もうこれは「ユダヤ人云々」ではなくて、今のドイツと同じではないかと思うと理解もしやすい。
異民族に対してどうにも相容れない実情でもあったと思う。

しかしワーグナーは後世にまさかナチスに利用されるとは夢にも思っていなかっただろう。

ではワーグナー『マイスタージンガー』から「前奏曲」もちろん指揮はフルトヴェングラー、さすが・・・。
Wilhelm Furtw�・ngler "Overture" Die Meistersinger von N�・rnberg 1943


しかし、『マイスタージンガー』で最も美しいのは、青年貴族ヴァルターの歌合戦優勝の場面の歌でしょう。
★ ところで下記の動画は1943年、ワーグナー『マイスタージンガー』の貴重な録音。勿論ナチスの時代である。

偉大な指揮者フルトヴェングラーについてはユダヤ系の楽員を亡命させながら、危ない橋を渡りつつまたドイツ音楽を護るため、
汚名を受けながらも演奏。どんな思いだったろう。またこの時ヴァルターを歌った名歌手ローレンツの妻はユダヤ系であり、一切を語らずローレンツ夫妻を護った。

では「真正」のヘルデン・テナー(英雄的な声)であるローレンツの貴重な録音、『マイスタージンガー』から「朝はバラ色に輝いて」
これは堂々たる名唱である。ワーグナーの伝統的唱法であり、今ではもはや他に聴くことができない至高の歌が心に迫る。.
「ローレンツこそドイツの英雄的な声です」と絶賛された。現代のワーグナー歌手にはこのような重量級の声は見られない。

100 Singers - MAX LORENZ 1943年録音



コメント (2)
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