ロンドンから戻ってまだ2カ月余りなのに、まさかこんなに早く、東京でマゼールさんの指揮を見ることができるとは思ってもみませんでした。ロンドンではフィルハーモニア管を4回、ウイーンフィルを1回、マゼールさんの指揮で聴きましたが、時として素晴らしく、時には「なんだ、これ?」という具合に、サプライズが多かった記憶が強烈で、N響では初登場と言う今回の演奏会は、どんなサプライズになるのか楽しみでした。
演奏曲は、マゼールさん自身が編曲したワーグナーの「言葉のない「指環」~ニーベルングの指環 管弦楽曲集」という、指輪の管弦楽曲抜粋版のような演目です。丁度、今頃、ロンドンではロイヤルオペラハウスでパッパーノ大将による「指輪」のチクルスが始まったころだと思いますが、残念ながらロイヤルオペラハウスは遥か遠くの世界になってしまった私には、なんとも皮肉な巡り合わせの演目となりました。
(開演前)
そして、演奏の方は、幸か不幸か大きなサプライズはありませんでしたが、指揮者、演奏者ともに大変な熱演でした。マゼールさんは、暗譜でしっかりN響をコントロールしていました。とても82歳には見えない、姿勢正しい、矍鑠たる指揮ぶりです。N響も、弦、管、打楽器ともに気合いが入っていました。2階席の奥でしたが、演奏者の気合いが十分に伝わってくるものでした。チェロの独奏が美しい。木管陣のソロが光っていましたね。全体のサンサンブルも良く、マゼールさんとN響の力が十分に発揮された演奏だと思います。
「指輪」は、私自身「ワルキューレの騎行」をCDで聴いたことがあるぐらいで、生で聴くのは初めてなので、他の演奏との比較はできないのですが、全体にゆっくり目のペースだったと思います。プログラムでは70分と書いてあるのに、実際の演奏時間は80分近くありました。編曲者自身が振っていてのこの時間差は、何を意味するかは、正直私にはわかりません。
ただ、これは今日の私が疲労が蓄積した体調で聴いたためだと思うのですが、これだけの名演だったにもかかわらず、感動度と言う意味では、残念ながら平均的なものでした。体調のせいか?それともサプライズ期待値が高すぎた?ちょっと思ったのは、ワーグナーのオペラをダイジェストにして80分で聴いても、ワーグナーらしさというのはあまり味わえないなあということかもしれません。ワーグナーは、劇場で3時間以上の監禁状態で聴く洗脳の音楽ですから、80分でワーグナーを味わおうというのはちょっと虫が良すぎると言うことなのでしょう。
会場はブラボーの嵐。普段、私のヨーロッパでの印象は、マゼールさんは終演後の拍手には淡々としてることが多く、時としてそっけなさすぎる愛想のなさなのですが、今日は非常に嬉しそうに、4度5度と舞台に戻って来てくれました。
ホールを出るともうめっきり夕暮れ。秋の深まりを感じる季節となりました。
第1737回 定期公演 Cプログラム
2012年10月20日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール
ワーグナー(マゼール編)/言葉のない「指環」~ニーベルングの指環 管弦楽曲集
指揮:ロリン・マゼール
演奏:NHK交響楽団
《ラインの黄金》
・かくして、ライン川の〈緑あやなすたそがれ〉が始まる(序奏)
・神々の城への歩み・ワルハラ城への神々の入城(第2場冒頭。正確には眠りから覚めたウォータンが完成したワルハラ城を妻フリッカと眺める場面)
・地の底へと潜ったこびとたちが鉄を鍛える(第2場から第3場への場面転換音楽)
・雷神ドンナーが槌(つち)を振り下ろし、喉(のど)の渇きを覚えたジークムントが這(は)いつくばりながら、(たまたま)竈(かまど)のそばにいるジークリンデに水を求める(前半は第4場幕切れ近くの同場面。後半は《ワルキューレ》第1幕の前奏曲後半およびそれに続く同場面より)
《ワルキューレ》
・〈響きの暗号〉のうちに、ジークムントの愛の眼差(まなざ)しを「見る」我ら(前場面より続く)
・ジークムントとジークリンデの逃避行(第1幕幕切れ)
・ウォータンの怒り(第2幕前奏曲と幕切れ)
・ワルキューレ(ブリュンヒルデの妹たち)の騎行(第3幕第1場冒頭)
・ウォータンと、その愛する娘ブリュンヒルデとの別れ、ウォータンの別れと魔の炎の音楽(第3幕第3場後半より幕切れまで)
《ジークフリート》
・ミーメの「怖れ」(第1幕第3場冒頭から前半)
・魔法の剣を鍛えるジークフリート(第1幕第3場幕切れ。正確には鍛えた剣の切れ味をミーメに見せる箇所。ジークフリートの歌唱部分がトロンボーンで加えられている)
・ジークフリート、森をさまよう、森のささやき
・大蛇を退治
・大蛇の嘆き(以上3箇所、第2幕第2場)
《神々のたそがれ》
・ジークフリートとブリュンヒルデの情熱を包む朝焼け(序幕後半)
・ジークフリートのラインの旅(序幕から第1幕への場面転換音楽)
・家臣を招集するハーゲン(第2幕第3場)
・ジークフリートとラインの乙女たち(第3幕第1場)
・ジークフリートの葬送行進曲(第3幕第2場から第3場への場面転換音楽)
・ブリュンヒルデの自己犠牲(第3幕第3場後半から幕切れまで)