
「流転の海」シリーズは主人公松坂熊吾の大きな人間的スケールが魅力で、第一部以来新作の発刊を毎回楽しみにしている。戦後から高度成長に至る日本の世相を肌感覚で分かるように伝えてくれることも興味深い。最近になって、私のロンドン駐在中に第6部が刊行されていたのを知り、慌てて本作を手に取った。
本作はこれまでの展開から大きな変転があるものではないが、晩年を迎えた熊吾に今後訪れるかもしれないクライマックスを期待させるような嵐の前の静けさ的な雰囲気を漂わせている。
読むたびに、主人公の生き様、言葉、そして周囲の人間模様を通じて、自らの思考幅、度量幅、そして人間の運命について考えさせられる本シリーズは、私にとっても自分の定点観測の意味合いを持つものだ。また、次部が待ち遠しいが、気長に待つことにしよう。