その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

素晴らしい演奏会、でもあえて言いたい「おおN響よ、このような音ではなく!」 N響12月定期Bプロ

2013-12-14 06:34:29 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 デュトワさんが振るN響は私にとっては6年ぶりぐらい。Cプロのテ・デウムが聴きたかったけど、スケジュールの都合で今回は一回券で取ったBプロの一本勝負。

 デュトワさんは私がロンドン駐在中にロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督・首席指揮者に就任しました。ただ、ロイヤル・フィルはロンドンではマイナーオケで、デュトワさんの演奏回数も年に数回程度だったので、ロンドンでは存在感は残念ながらもう一歩という感じでした。私としては、久しぶりのデュトワ・N響コンビの演奏会ということで期待大でサントリーホールへ。


≪クリスマス・ライト・アップのサントリーホール前≫

 一曲目はラヴェル/組曲「クープランの墓」。開演3分前に慌てて駆け付けたため、椅子に座り落ち着くと外気で冷えた体がホールの暖かさで緩み、オーボエの長閑な響きと相まって、ほぼ完全寝落ち。耳の心地よさだけが残りました。

 気合を入れ直して、二曲目のデュティユー/チェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」は集中。現代曲らしくつかみどころの難しい音楽です。各楽章の副題にはボードレールの詩が引用されているのですが、楽章間を休みなしで演奏されたので、途中でどこに居るのか見失ったり苦戦。が、イケメン・チェロ弾きのゴーティエ・カプソン君の響きは深遠で、チェロとオケのやり取りも楽しめました。得てしてこの手の現代曲は、全体としてのまとまりが無く聞こえることも多いのですが、デュトワさんが上手くコントロールしているのか、この曲の独特の世界観が伝わる演奏でした。

 休憩後のベト7は強烈な熱演。全楽章間休みなし、アタッカで一気の演奏です。少々サプライズでしたがこの曲が持つリズム、緩急が全体として感じられました。

 デュトアさんの「こう演奏してくれ」という意思がビンビンに感じられ、N響が必死に食らいついていくのが良く分かりました。ナマ演奏会ならではの気迫オーラがステージ上漂うのを感じ、聴く方も背筋が伸びます。サントリーホール効果もあるかもしれませんが、美しくバランスのとれたアンサンブルに奏者の集中力や気迫が上乗せされて、音が全身に響いてきます。全身全霊の力の入った演奏なんだけど、聞こえてくる音楽は寧ろ柔らかく、色彩豊か。デュトワさんも「ロイヤル・フィルより良い!」と思っていたに違いありません。


  というわけで大満足で会場を後にしたのですが・・・、帰路につく中でいろいろ反芻していると、むむむ・・・と新たな思いがこみ上げてきました。「素晴らしい演奏だった・・・、でも、あれで良いのか?」・・・と。

 何というか、デュトワさん色が出すぎていて、デュトワさんの印象しか残っていない感じがしたのです。N響って、色んな客演指揮者にいつも柔軟に対応していると思うのですが、オーケストラとしてのキャラが弱い。個性の強い指揮者とオケがぶつかる中でのコラボで、音楽が創られるというよりも、都度、上手く折り合っていく・・・そんな感じ。今日のデュトアさんのような強いコントロールを発揮する指揮者には特に従順な優等生。

 でも、N響が本当に世界のメジャーオーケストラを目指すなら、誰が振ってもN響の色、アクがあって、指揮者と間に健全なコンフリクトがあり、新しいものが生まれてくる、そんなオケになって欲しいです。この夜のようにデュトワさんの強いコマンドに応えて、素晴らしい演奏をするN響を聴くと、逆説的ですが、「おおN響よ、このような音ではなく!」、もっともっと上を!と望みたくなってしまったのでした。


 ※余談ですが、今回もチケット完売のはずなのに、私の席から見えるP席は30近く空きがあったし、RLにも一列半分以上空いているような列もありました。多くの人がサントリーホールでN響の演奏を聴きたいのですから、N響事務局は何とかこの酷い状況を改善してほしいものです。


≪雰囲気だけ≫



第1771回 定期公演 Bプログラム
2013年12月11日

サントリーホール

ラヴェル/組曲「クープランの墓」
デュティユー/チェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」(1970)
ベートーヴェン/交響曲 第7番 イ長調 作品92

指揮:シャルル・デュトワ
チェロ:ゴーティエ・カプソン


No.1771 Subscription (Program B)
Wednesday, December 11, 2013 7:00p.m.
Suntory Hall

Ravel / “Le tombeau de Couperin”, suite
Dutilleux / Cello Concerto “Tout un monde lointain” (1970)
Beethoven / Symphony No.7 A major op.92

Charles Dutoit, conductor
Gautier Capuçon, cello
コメント (4)
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