人事部の中の仕事がどういうロジックや見方で動いているのかを、人事部の外の人に向けて解説した本。著者がいわゆる大企業の方であろうため、「人事部」というのは一定規模以上の会社における「人事部」を指している。
私自身もかつて人事部に所属したこともあり、内容的に目から鱗が落ちるようなところは少なかったが、とても分かり易く親身に書かれていると思った。空理空論を振りかざすのではなく、地に足がついた人事部論になっている。
「なるほどな」と思ったのは、第四章の「人事部員が見た出世の構造」。一言でまとめると、「日本の企業では、課長までは実力だが、部長以上は幹部の引きで決まる」ということだ。なので、課長以上で偉くなるためには、「(結果的に)エラくなる人と長く一緒にやれる能力」が「出世の条件」で、そのためには「エラくなる人と「出会い、知りあうこと」なのである。身も蓋もないような話のように聞えるかもしれないが、確かに、私の会社を含め日系企業ではかなり当てはまる気がする。
物足りなかったのは、人事部の過去と現在の記述はあるが、未来・これからについての記述が突っ込み不足な点だ。「知恵と意欲にあふれた人たちはそもそも管理できないという発想から始めることが必要」、「新卒採用中心では専門家集団は作れない」、「ライフサイクルを考慮した人事制度の構築」など、問題意識は提示されている。ただ、こうした課題について、現状の人事システムからどう移行を図っていくのか、その構想と具体的工程作り、そして実行力が、今の人事部には求められていると思う。下手をすると今の人事部は労働組合と組んだ、既存権益保持をもくろむ抵抗勢力になりかねない。どうやって変革をリードするのか、課題の提示だけでなく、変革に向けた人事部の役割、行動についての筆者の考えや具体的提言が知りたかった。
人事部経験のない人に向いた本ではあるが、この分野を少しでもかじったことのある人には物足りない本だと思う。
★★☆☆☆