その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

オペラ「夕鶴」/團伊玖磨 @新国立劇場

2016-07-06 21:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 昨夏の「沈黙」以来、1年ぶりに国産オペラを鑑賞。日本人であれば、誰でも知っているだろう木下順二の「夕鶴」のオペラ。いわゆる「鶴の恩返し」である。作曲は團伊玖磨。国内外で公演回数は800回を超え最も成功した和製オペラとのこと。

 私は初見だったが、人気があるのが十分理解できる作品だった。むしろ、事前の期待以上に素晴らしく、胸動かされた。

 純日本的な民話をもとにして、幼児の頃から絵本、読み聞かせ、朗読などいろんな形で体に刷り込まれている物語が、オペラという西洋の芸術表現に全く違和感なくマッチするというのが驚きだった。耳に馴染みやすい音楽、シンプルながらも必要十分な要素が織り込まれた舞台装置、美しい照明、歌手陣の安定した歌唱など、オペラの諸要素一つ一つに全く無駄が無く、各ピースが綺麗にはまって出来上がった日本の芸術作品だった。

 とりわけ印象的だったのは、つうを演じた澤畑恵美さん。ベテラン(?)らしい安定した歌唱はもちろんのこと、演技が胸を打つ。「蝶々夫人」を外国人歌手が演じる時に感じる、妙な座りの悪さが、当たり前だが全くない。むしろ、日本人の所作は、動きそのものが美しく、それが芸術の一部を構成するということを再認識させられた。
 
 与兵衛役の小原啓楼さんも、俗っぽくはあるが純粋な農夫を、うまく表現していた。また、日本の原風景の一部になりきっていた世田谷ジュニア合唱団の歌と動きも素晴らしく、彼らがなくては、画竜点睛を欠く舞台になったことは間違いない。

 大友氏指揮による東フィルの演奏も、過度に情緒的になることなく極めて自然体の演奏で好感がもてた。

 これで、今シーズンの新国立劇場オペラはラスト。残念なのは、来シーズンには和製オペラの上演がないこと。国立劇場と名乗るからには、年に1プログラムぐらいは、何か国産企画があっても良いと思うのだが・・・。



2015/2016シーズン
オペラ「夕鶴」/團伊玖磨
Yuzuru/Dan Ikuma
全1幕〈日本語上演〉
オペラパレス

2016年7月3日(日)2:00

【作】木下順二
【指揮】大友直人
【演出】栗山民也
【美術】堀尾幸男
【衣裳】植田いつ子
【照明】勝柴次朗
【振付】吾妻徳穂
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】大澤 裕

【つう】澤畑恵美
【与ひょう】小原啓楼
【運ず】谷 友博
【惣ど】峰 茂樹

【児童合唱】世田谷ジュニア合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【芸術監督】飯守泰次郎

2015/2016 Season
Yuzuru (Twilight Crane)

Music by DAN Ikuma
Opera in 1 act
Sung in Japanese
Opera Palace


Staff
Libretto KINOSHITA Junji
Conductor OTOMO Naoto
Production KURIYAMA Tamiya
Scenery Design HORIO Yukio
Costume Design UEDA Itsuko
Lighting Design KATSUSHIBA Jiro
Choreographer AZUMA Tokuho
Revival Director SAWADA Yasuko

Children Chorus Setagaya Junior Chorus
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra

Artistic Director IIMORI Taijiro
Stage Manager OSAWA Hiroshi

Cast
[7/1,3]
Tsu SAWAHATA Emi
Yohyo OHARA Keiroh
Unzu TANI Tomohiro
Sodo MINE Shigeki
コメント
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