経営学の古典になりつつある名著『イノベーションのジレンマ』の著者であるクレイトン・M・クリステンセン教授らが書いたイノベーションを継続的に起こすための理論、ジョブ理論について書いた一冊。原題は”Competing Against Luck”
正直、邦訳のタイトルを本屋で見たときは、キャリア開発論関連の本かと思い、素通りしてきたのだが、講演会やセミナーでしばしば紹介されていたので読んでみた。
一言で言うと、「ジョブ理論」におけるジョブとは「用事・仕事」のことで、「顧客がどんなジョブを片付けたくて、そのプロダクトを雇用するのか?」を洞察することが継続的なイノベーションにつながるというものである。
即ち、ジョブ理論が目指すのは、顧客が進歩を求めて苦労している点は何かを理解し、彼らの抱えるジョブ(求める進歩)を片付ける解決策とそれに付随する体験を構築することである。なぜ特定のサービス/プロダクトを採用するかを説明を、相関関係では無く、因果関係の解明しようとする。それにより、顧客のジョブを理解する基盤を築き、戦略を立てれば、イノベーションを運に頼る必要はなくなるという。(まあ言うは易し、行うは難しだが・・・)
例として挙げられているのは、朝のミルクシェイクの販売(いかにもアメリカ的事例で日本人には今一つピントこない)。どうすればミルクシェイクがもっと売れるか?を考えるのに、従来のマーケティング手法であれば顧客の属性分析(性別、年齢、年収・・・)をしてセグメント化したりするのだろうが、ジョブ理論では「来客者の生活に起きたどんなジョブ(用事・仕事)が彼らの店に向かわせ、ミルクシェイクを雇用させたのか?」という問いを設定し、分析する。その結果、「朝の(車での」通勤の間、僕の目を覚ませていてくれて、時間をつぶさせてほしい」(朝のジョブ)ということが分かり、より濃厚なミルクシェイクを売って成功を収めた、という。
関連していくつか刺さる指摘も多い。
•自社製品を雇用して顧客が片付けようとしている本当のジョブを理解していない企業は、「ひとつですべてを満足させる」万能の解決策に惹かれがちで、結局誰も満足させることができない(←まさにうちの会社が嵌っている罠)
•顧客のジョブの機能面ばかりに重点を置くのではなく、感情面や社会的側面に発見にも注意を向ける
•自社製品も他社製品もかっていない「無消費者」に注目すべき
•顧客データの収集・利用には、ビッグ・ハイヤ(プロダクトを買うとき)だけでなくリトル・ハイヤ(実際に使うとき)に注目
•企業は成長するにつれて、ジョブにフォーカスを無くしてしまうことが多い
とかく私の勤務先もプロダクトアウト志向が強いので、機能・価格だけのマーケティング、サービス開発に終始しがち。この理論、見方を組織にどうビルトインしていくかは簡単ではないけど、持続的に企業が成長していくための大きな鍵の一つであることは間違いない。
《目次》
この本を「雇用」する理由
第1部 ジョブ理論の概要(ミルクシェイクのジレンマ
プロダクトではなく、プログレス
埋もれているジョブ)
第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性(ジョブ・ハンティング
顧客が言わないことを聞き取る
レジュメを書く)
第3部 「片づけるべきジョブ」の組織(ジョブ中心の統合
ジョブから目を離さない
ジョブを中心とした組織
ジョブ理論のこれから)